再会
ついにこの日がやって来た。
何日この日を待ったことだろうか、とにかく長かった。
ドルマゲスを倒すたびに出て早何ヶ月、戦いに明け暮れた日にとうとう呪いが解かれるという奇跡の日が到来したのだった。
「姫様は黒髪のとても綺麗な方なんだ。
言っちゃ悪いけど、トロデ王とは比べ物にならないくらいにすごいんだよ。」
「へぇ。だって馬のお姿でもお姫様綺麗だもんね。」
「それはとゼシカが毎日毎日姫様の身体をきれいに洗ってくれてるからだよ。」
の前でお国自慢ならぬ、姫様自慢をする。
彼にとってこの日は生涯忘れる事のできない日となるだろう。
王と姫が人間の姿に無事戻って、日々の食費が2人分増えて経済状況が火の車になろうと、
あの無駄に重い錬金釜を誰が持ち運ぶのかなんて事も今日は気にしない。
そんなどうでもいい事は無事に事が済んでから、ゆっくりとみんなで考えればいいのだ。
不思議な泉の水を口に含んだ姫の身体が光に包まれていく。
神々しいばかりの光の中から現れたのは、艶やかな黒髪が特徴的な優しそうな姫君だった。
彼女こそ、トロデーン王国で歌の上手いと有名な、ミーティア姫その人である。
ミーティアはきょろきょろと辺りを見回し、そして自分の両手を眺めると、に思い切り抱きついた。
一国の王女にしてはかなり大胆な行動であり、隣で腕を広げて待ち構えていたトロデ王も口をあんぐりと開けたまま、2人の抱擁を見つめている。
「なんか目の前であんなふうに熱く抱き合ってると、見てるこっちが恥ずかしくなっちゃうねー。」
「いや、それこの間あんた達2人やってたから。
しかもあれは一方的にお姫様が抱きついてるんじゃないの?」
ほややんとして感想を述べるに疑問を覚えるゼシカ達。
この場で恥ずかしくなっちゃうなどと発言する彼女の胸中が窺い知れない。
仮にもはの大好きな人ではなかったのか。
ゼシカ達3人は無言で顔を見合わせた。
ぎゅっと飛びついてきた姫の身体をやんわりと押し戻しながら、は困ったように言った。
「姫様、いきなりなんなんですか。
びっくりしましたよ。それにの前なのに。」
「あら、でもさんはミーティアに妬いてるようでもありませんでしたけど?
それよりも、ミーティアはに聞きたいことがあるのです。」
ミーティアはを森のちょっと奥にまで連れて行くと、そっと尋ねた。
「どうしてさんを好きになったのですか?」
「・・・知ってたんですか。」
私も女ですもの、そのくらいはわかりますと微笑して答える姫を見て、はやっぱりこの人には適わないなと実感した。
が、彼女の今日のこの質問に答える事は、今のには少し難しいことだった。
の事は一目惚れだったのだ。
修道院でのドルマゲス騒ぎの時に、心臓を打ち抜かれたのだ。
「一目惚れでした、とかは答えにはならないですよね。」
「さんは確かに可愛いですけど、城にも美しい女性は大勢いましたわ。」
いつからだったろうか、自分と彼女は不思議な関係だと思い始めたのは。
ルイネロの占いの時も、イシュマウリが言い残した言葉の時も、おかしいといえばおかしい事この上なかった。
2人に共通して言われたのは、自分とは不思議だということ。
の事は、仲間達の中でもいちばんよく知っていると思う。
それは彼女の事を意識し始めたからであり、最近は彼女の一挙一動まで気になるようになったくらいだ。
「姫様は素敵な方だと思います。」
「お世辞はいいのですよ。」
「姫様ととを比べたら、姫様の方が守ってあげたいと世の男性は思うと思います。」
「は違うのですね。」
「そうなんです。僕はという存在の陰に隠れてる部分に惹かれました。
あと、自分と似ているところにも。」
自分とはちょっと似ていると思う。
過去の記憶が全くないことも、そして、素晴らしい友人と出会ったことも。
誰かのためなら自分の身を顧みないところまで似ている。
「世界中の人全てがの存在を否定しようと、僕はと一緒にずっといたいと思います。
それが僕の幸せだから。」
の告白を聞いてミーティアはそうですか、と一言だけ言った。
本当はちょっと不安だったのだ。
今までずっと自分の周りにいたり、城での雑用や兵士の仕事に追われたりしていて、
それで自分の幸せをどこかに置き忘れたまま青年になってしまったのではないかと常々思っていたのだ。
だからこそ、旅を続けていくうちに気の置けるヤンガス達出会い、という愛する少女ができた事がまるで自分の事のように嬉しかった。
「さんやヤンガスさん達にお礼を言わなくてはなりませんね。
楽しそうに笑うを見せてくれてありがとう、と。」
戻りましょう、との手を引いて仲間達の元へと戻っていくミーティアの身体が徐々に光りだす。
ははっとして彼女に声をかけようとするが、自分の変化に気が付く事のない彼女はぐいぐいを引っ張っていく。
やがて彼女が再び達の前に姿を現した時、それは人間から呪われた姿へと戻る直前だった。
「お姫様・・・!! 呪いが・・・。」
「わかっています。でもミーティアは信じていますわ。
さんがの笑顔を守り続けることと、今度はミーティアと一緒に歌を歌ってくださる事を。
だからその時になったらまたここに来て、いろいろお話しましょう?」
光がミーティアの身体を包み込んだ。
それは、ミーティア姫のほんのわずかの人間としてのひとときだった。
「、お姫様と何話してたの?」
「のこと。のおかげで今の僕はあるんだなぁって。」
「私もそう。私もみんながいるから今があると思う。
あー、今度はちゃんとお姫様とお話したいなー。」
お互いが通じ合っている、それが仲間として最も大切な事であると思った2人だった。
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