最強への願い
太陽の鏡を無事にゲットして、対ドルマゲス戦に備えるためにベルガラックへと戻ってきた達。
カジノが閉鎖されたこの町の夜は恐ろしいほどに静まり返っている。
それもこれも、ギャリングが殺されてからだ。
「なんかそろそろありそうな気がする・・・。」
夜中ぼんやりと目が覚めたは過去に3度ほど経験した気配と同じものを感じた。
この妙にもやもやとするのはあの時しかない。
なぜだか見えてしまう、ドルマゲスに殺されてしまった人々の霊と出会う日だ。
隣ですやすやと眠っているゼシカを起こさないようにそっとベッドから降りると、音を立てないように扉を開けて廊下へと出た。
薄暗く灯る室内灯の光を頼りに階段を降りて下へと下りる。
人気のない街中をぐるりと見回しそっと目を閉じて心を研ぎ澄ませる。
どこかから漏れてくる生者には決して発することの出来ない力の源を探る。
「・・・やっぱり、カジノかな。」
目を開けてぽつりと呟くと、まっすぐカジノの場所へと急ぐ。
固く閉ざされているはずのカジノの扉を普段使うことのない呪文を使って難なく開けると、そこにはやはりギャリングの霊がいた。
恰幅のいい人の良さそうな彼は、を待っていたのだろうか、彼女の姿を認めるとすぐさま近寄ってきた。
「ギャリングさんですよね。はじめまして、って言います。」
「おぉ、ドルマゲスに不本意にも殺されてしまったわしが今日この世に再び戻ってきたという事は、
きっと何かがあるからだろうと思っておったが、まさかわしの姿が見えるほど霊感の強い娘さんに会うとはな。」
「霊感じゃないんです、魔力でもないと思うんですけど。
それに私、以前にも3回ぐらいギャリングさんみたいに、ドルマゲスに殺されてしまった人達と会った事ありますから。」
「なかなか変わった癖のある娘さんだな。
いやはや、ではこれも何かの縁だろう、わしの話を少し聞いてもらおうか。」
テンポの良い話し方でを自分の世界へと引き込んでいくギャリングは、生前彼が為した事について話し始めた。
遠い世の先祖達のように力も魔力も持たない彼に出来たのは、カジノを作り、そこに最強の武具を置く事だった。
現金をカジノ専用のコインに換え、それが貯まれば高価な景品と交換する事ができる。
そのシステムは世界中の多くの人々に好まれ、カジノ人気は大きなものとなった。
ここまで人気になったのは、世界が平和だった事もあったのだろう。
だが、ある日ギャリングは風の噂にトロデーン城に不審事が起こったと聞いた。
それから魔物達の勢力が強まり、海を越えてまでカジノに興ずる人々の数もどんどん減っていった。
「わしは思ったのだ。この世界で何か良からぬ事が起こっていると。
それはいずれこの街にも及んでくるという事も予想した。
そこでわしは1つの策に出た。
魔物達にやられているばかりでは気が済まないと思う勇気ある者もこの広い世界、何人かぐらいいるだろう。
わしは戦い方は知らない。だが武具の良し悪しが戦いの勝敗を分けるという事はわかっていた。」
魔物達の侵攻を少しでも食い止めるため、ギャリングは世界中のあらゆる所から最強の武具を集めさせた。
いずれもこの世で並ぶものはないと言われるほどの攻撃力、あるいは防御力を誇り、また冒険者達の憧れの一品である事も知った。
「もしもこの街に志ある若者達が立ち寄り、カジノで息抜きをしたら。
景品であるこれらの武器防具は彼らの目にどう映るだろうか。」
「すっごく欲しがると思います。
私と一緒に旅してる仲間のみんなも、この鞭とか、この鎧とかあったらいいなって思うと思います。」
「そうだろうそうだろう。それがわしの狙いなんじゃ。
・・・狙いはあのドルマゲスとかいう輩のおかげで費えたがな。
今、カジノは閉鎖されているようだな。」
ギャリングは寂しそうに言うと、最近使われる事のないスロット台に眼を遣った。
「詳しい事はわからんが、大方わしの子ども達が跡目争い辺りで揉めているのだろう。
わしはこの街を賑やかに、より大きくすることを目標にしてきたからな、妻がおらんのだよ。
だが2人の可愛い子ども達がいる。男の方はフォーグ、女の方はユッケと言うのだ。
子ども達が殺される事がなくて本当に良かった。」
「子供さん達は仲が悪いんですか?」
「良い時はとことん良い、悪い時はとことん悪いな。
子どもなんぞそんなものだ。娘さんに兄弟は?」
ギャリングの問いかけには記憶がないんです、と言って下を向いた。
記憶がないのは頼りない事だった。
何も知らないのだから恐ろしいと思う時だってある。
ギャリングは優しく微笑むと、景品引換所の中に入り込み1枚の葉っぱを取り出してそれをに手渡した。
「これは世界樹の葉と言ってな。たとえ死に絶えた者でもこの葉の力によって再び息を吹き返す。
これは娘さんが持っていなさい。
もしも大切な人が命を落としてしまったら、その時は自分で考えてこれを使いなさい。」
「こんな大切なものを頂いていいんですか?」
「大切なものだから娘さんのような考え深い子にあげるのだよ。
・・・使者を生き返らせるというのは本来は自然の摂理に反した事だ。
それをも破る時がきっとこの先あるはずだ。」
大切な人。そう言われてはまず初めにの顔を思い浮かべた。
だけではない。ヤンガスも、ゼシカも、ククールも、みんな大切な仲間であり友達だ。
人を喪うという事をよくわかっているにとっても、この葉を使うべき時の選択は難しいものだった。
葉を胸の前でぎゅっと握り締めると、はありがとうございますと言った。
ギャリングは満足そうに笑うと、思い出したかのように付け加えた。
「これから先、2人の子ども達が困っている時があるだろう。
その時はぜひ娘さん達が力になってやってほしいんだ。
彼らは、かけがえのないわしの宝であり誇りなのだからな。」
ギャリングの言葉が終わるか終わらないかのうちに、彼の姿はには見えなくなっていた。
深夜遅くに再び宿屋へと戻ってきたは、階段を上った先に誰かが立っている事に気が付いた。
ゆっくりゆっくり近づいてみると、そこにはちょっぴり不機嫌そうな顔をして腕を組んでいるがいた。
転ばないように慎重に一段一段上ってくる彼女に手を差し出すと、は小声で尋ねた。
「こんなに遅くにどこ行ってたの。」
「・・・怒ってる?」
「もちろん。」
足音を立てないようにの部屋へと向かいながら、は彼の顔を下から見つめるようにして逆に聞いた。
勝手に宿屋を抜け出した事をばっちり知っているが怒るのも当然と言えば当然である。
こんな夜更けに年頃の少女が1人で外を出歩くのは危険なことこの上ない。
「散歩してただけなんだけどな。あ、もしたかったとか。」
「散歩ね・・・。どっちにしたって1人で外に出るのは危ないって。
それにちゃんと寝とかないと明日に響くよ。」
「それはだって同じ。
私が帰って来るまでずっとあそこで仁王立ちしてたんでしょ?
心配性なんだから、もう。」
1人部屋であるの部屋に入ると、は彼のベッドに腰を下ろしてくすくすと笑った。
そのまま寝っ転がると、すぐに寝る体制に入る。
「も本当は眠たいでしょ。寝よ。
ドルマゲス倒したら、一緒にトロデーン城の案内してよ。」
「・・・ここで寝るの?」
「うん。だってもう私も眠たいんだもん。
ベルガラックの宿屋のベッドってすっごく大きいから人が2人ぐらい横になっても充分スペース余るよ。
それに私寝相はいい方だから平気平気。鼾もかかないし。」
そう言うや否や、は布団をかぶってもぐりこんだ。
覚悟を決めてベッドの中に入る。
「僕、今日死ぬ気で頑張るよ。」
理性がどこまで持つかが、今日の彼の戦いだ。
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