太陽の光



　台座にはめた太陽の鏡がまばゆいばかりの光を発す。
ドンという大きな音がして、闇の遺跡が震えた。
以前とは比べ物にならないくらいに明るく照らされた床、壁。
遺跡内のみ投資が悪いのはあたりに漂っている負の力が大きすぎるためだろうが、それでも達はこの微かな光を希望と信じて歩を進めていく。





「怒りの魂よ、炎となれ、メラミ！！」





　次々と迫り来る死霊形の魔物の腹に容赦なく巨大な火球をぶち込む。
詠唱し終わると後ろを振り向きざまにまた１発。
普段穏やかで、素早さなどないに等しい彼女の変貌の時だった。





「っ、後ろ危ない！！」





の声を聞き、無意識のうちに槍を繰り出す。
確かな手応えを感じる。
どこから湧いてくるとも知れない魔物達の群れを前に、彼らは戦う以外の選択肢はない。
行く先にドルマゲスがいる以上、それは避けられない道なのだ。


今日何度目かの魔物の襲来を撃退しまた歩く。
最前列を歩いていたククールが手を上げた。
彼は達の方を振り返ると、ニッと笑って言った。







「ちょっと休憩できそうだぜ、ここ。」


「こんな所で？　・・・あら、ほんと。」






　ククールの言葉を疑っていたゼシカも、脇道に作られた小部屋を見てほっと息をつく。
かなり魔力を消耗していた彼女にとってはありがたい事この上ない。
５人はぞろぞろと中に入ると、円になって座り込んだ。
ヤンガスはがーっと大きく息を吐くと、不思議そうに言った。





「にしても、さっき通ってきた部屋の、あの壁の絵はなんだったんでがすかね。
　鳥を焼いたってのは、焼き鳥か何かですかね。」



「それはないと思うけど、でもどう見たってあの鳥はいい奴の方でしょ。
　それを焼いてるのが巨大な魔物。良心が咎めるよね、ああいうの。」





　も少し眉をしかめて答える。
やりたくない事とはわかっていたが、ああする以外、先に進む術はなかったのだ。
もあの壁画には何かあると思っていた。
大切な何かが隠されている気がしたのだ。
元気のない彼女を見て、ゼシカが心配そうに声をかけた。






「顔色悪いけど大丈夫？　呪文の使いすぎじゃない？」


「ううん平気。ただ・・・。
　・・・あの鳥、多分『レティス』っていうんだと思う。『レティス』はあの壁画の魔物と戦ってたんだよ。
　そして魔物はドルマゲスなんかじゃなくって・・・、そう、大魔王、『ラプソーン』。」





「ラプソー・・・？　・・・、どうして知ってるの？」


「わかんない。でもきっと、ううん、絶対にそう。あれは『レティス』と『ラプソーン』。
　・・・でもなんでだろ・・・。今はそのどっちもいない。」






　自分で言っておきながら、訳のわからなくなってきたは目を閉じた。
目を閉じると心が落ち着くのだ。
の頭に誰かの手がぽんと置かれた。






「、人間て存在はちっぽけな存在なんだ。だから俺らが知ることのできない事もたくさんある。
　そのレティスだのラプなんとかの事も、今考えても何もわからないだろ？
　今の俺達がやるのはこの先にいるドルマゲスの野郎を倒す事。
　とりあえず忘れろ。」





「おっ、ククールもたまにはいい事いうでがすね。」


「いつもと言ってもらいたい、いつもと。」





決戦前とは思えない朗らかな笑い声が、遺跡に響き渡った。






























　禍々しい力の源、達の恨みの的、ドルマゲスはまるで彼らが来るのを待っていたかのような余裕があった。
にやりと醜い顔に笑みを浮かべ、歌うように言った。







「また会うとは思っていたが、しかしお前達は来るのが遅い。
　私は最強の力を手に入れた。その力を今ここで試してやろう！！」









　ドルマゲスが３体に分裂した。気持ち悪さも３倍である。
達は目配せするとあちこちへ飛び散った。
３方向からの一斉攻撃を仕掛ける算段だ。
ゼシカの攻撃呪文を高らかに唱える声と、ヤンガスの斧を振るう音が室内に木霊する。
たまらず倒れ伏すドルマゲス１体。


しかし残った２体がに集中砲火を浴びせてきた。
咄嗟に反応しただが、防げるのは片方だけ。
避けようにも避けられない距離である事もあり、せめて相打ちになろうと扇を構える。










「「っ！！」」


「え・・・？」








　剣と槍がの前で鋭くきらめいた。
の槍がドルマゲスを突き刺し、ククールのレイピアが肉を切り裂く。
２人は華麗に床に着地すると、それぞれ爽やかに微笑む。







「お姫様を守るのはき「僕の役目だからね。」





騎士の役目と言いかけたククールを制してしっかりと自分をアピールする。
はくすりと笑うと、ありがとうと言って両腕を天井に突き上げた。











「みんな、呪文唱えたら伏せてね。
　・・・太古の光よ　今ここに蘇り　その怒りを地に注げ　イオナズーン！！」










　の手から閃光がほどばしった。揺れる遺跡、慄えるドルマゲスの身体。
マントを翻して振ってくる瓦礫からゼシカを守る騎士ククールは、顔を上げて事の成り行きを見つめていた。
２体のドルマゲスにそれぞれの得物を振るいとどめを刺すとヤンガス。
呪文を唱えた張本人のはいたって平気の様子で立ったままだ。








「・・・ありえねぇよ、あの魔力・・・。人の力越えるぜ・・・？」






ククールの呟きはゼシカの耳には入らなかった。
辺りがしんと静まり返る。ほっと息をついたとヤンガス。
しかしはまだだわ、と言って、初めにドルマゲスのいた位置を指差した。
前からあったのだろうか、隠されていたのだろうか、５人が気付かなかっただけなのだろうか、
薄気味悪い液体の中から、これまた薄気味悪い青とも紫とも言えない化け物が出てきたのだ。









「遊ばせておっては調子に乗りおって・・・。
　貴様らも皆、あの城の住人のように生ける屍としてやるわ！！」






そう言うとドルマゲス（改）は１ヶ所に集まっている達に無数の茨の縄を飛ばした。






「みんな、下がって！！」


「！？」





　反射的に前へ飛び出したの腕をが掴んだ。
はっと気が付いた時には茨は目の前に迫ってきている。






「兄貴っ、！！」





ヤンガスの叫び声が背中にぶつかる。
そのとき、奇跡が起こった。



とに突き刺さるはずの茨は２人を避け、その後ろのヤンガス達にさえも危害を加えなかったのだ。






「・・・、みんな、平気？　・・・行くよ？」






　の怒りに震えた声が達の心を奮い立たせる。
次が本当の戦いなのだ。油断は決して出来ない。
ドルマゲスとの戦いが再び始まった。



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