引き裂かれたのは




 ニノ大司教の後に入ってきた男性を見て、たちは絶句した。
よりにもよって、厄介な人物と再会してしまったと、己の不運を嘆いてみる。
ククールなんか、あからさまに顔を背けている。
それもそうだろう。
目の前にいるのは、あのマルチェロだ。






「法皇!! ・・・ほう、こういうことか・・・。」





 真っ青な聖堂騎士団の制服に身を包んだマルチェロは、ニノとたちを交互に見比べた。
彼に何か言いかけようとした法皇が倒れたのは、まさにその時である。
タイミングが悪いとしか、言いようがない。





「法皇っ。」




 が小さな声で叫んだ。
その声に反応したのか、マルチェロはゆっくりと彼らを見渡し、突き放すような、そして勝ち誇ったように言い放った。





「ニノ大司教、あなたはこのようないかがわしい者たちと狂犬まで雇い入れ、法皇を殺し、
 自らが新しい法皇となるように仕向けましたな。」





突然の状況変化に、ニノは顔色を変えて反発した。




「な、何を言う! この者らも私も無罪だ!
 マルチェロ、貴様裏切ったな!」


「反逆者やその加担者の言葉など、信じられるか。
 この悪人どもをそうだな・・・、煉獄島へ流刑にしろ。
 私に逆らうと、こういう目になるのだ・・・。」





 初めは顔を見合わせた団員たちだが、恐ろしい上司に逆らうことは許されない。
誰だって、わが身が惜しいのだ。
彼らはたち、そしてニノを引き立てていこうとした。




「ちょっと! 私たちがどうして捕まるのよ!
 まるで変じゃない!!」


「そうでがす! あっしらはこの狂犬を倒しただけでがす!」





 ゼシカとヤンガスの叫びにも耳を貸さず、ぐいぐいと乱暴に外へと連れ出される。
ククールに至っては、もはや口を開こうともしていない。





「きゃあっ、痛っ・・・。」





 あまりの乱暴さに、たまらずが声を上げた。
、とが叫び騎士団員を鋭く睨みつける。
マルチェロは2人をせせら笑うように見つめたが、の姿に目を見開いた。






・・・、なぜここにいる・・・。」





 はマルチェロが自分に気付いたことに、はっとした。
懐かしい再会だったが、今彼は自分やたちの敵となりつつある者。
いくら恩人といえども、とすぐさま目を逸らした。
が、マルチェロの放った次の言葉に、は彼を凝視することになる。








「この娘は、こやつらに唆されただけだろう。
 後で私の部屋に連れて来い。
 煉獄島にやるのは、この4人と大司教だけでよい。」


「ち、違います! 私は「黙れ!!」





 とっさの叫びはマルチェロの一喝であっけなくかき消された。
は彼の言葉から、どうにもならないことを悟らざるを得なかった。





、必ず・・!!」


っ、みんな!!」





 の言葉が言い終わるか終わらないかのうちに、彼らの姿はの視界から消えたのだった。





























 は引き立てられた先のマルチェロの部屋で、1人寂しく佇んでいた。
先程まで共に戦っていた仲間は、今頃地下深くにいるのだろう。
できることならば、飛んででも彼らの元に行きたかった。
ドアが開く音がした。
誰かが入ってくるが、は振り向かなかった。
ガラス越しに映る彼の姿を認めただけだった。






「久しぶりだな、。元気そうで何よりだ。」


「・・・マルチェロさんも大変お元気そうで・・・。
 ・・・私、唆されてなんかいません。」


「それは私が決めることだ。
 ・・・いずれにせよ、お前を含むあいつらの行動は私を手助けした。
 その点では感謝しよう。」





 マルチェロのあまりの暴言に、は思わず彼を振り仰いだ。
憎しみを込めた目で睨みつける。
しかしマルチェロは口元を歪めると、に近づいた。





「よく聞け。法皇は以前から、お加減が優れぬ。
 加えて今日の襲撃と、もう長くは生きられぬだろう。
 大司教も今はあの島だ。今や、私を脅かす者はいない。」



「マルチェロさんは変わりました。
 修道院にいた頃は、優しかったのに・・・。
 今のように権力を振りかざしたり、欲してもいなかった!」



「人は変わるのだ。お前だって変わった。
 杖も持たずに私に呪文を唱えようとするとは・・・。
 血気に逸るな、身を滅ぼす。」







 マルチェロは魔力の込められたの右手を、きつく握り締めた。
痛みと脱力感に、顔をしかめる。
マホトーンをかけられたのだろう、集めた魔力がすぐに飛び散ってしまう。





「・・・マルチェロさんからもらった杖は、あの狂犬に折られたんです。
 会ったらまずそれを謝ろうと思っていたのに、、まさかこんな目に遭わされるなんて。」






 魔力を封じ込まれたこの身でマルチェロに対抗など、まずできない。
今だって、掴まれた手首が痛いのだ。
身体だけではない、心だって痛い。






「仲間とやらを助けて欲しいのなら、おとなしく私の傍にいろ。
 もっとも、その呪文は私にしか解けんがな。」





 止めと言わんばかりの通告に、たちの姿が大きく遠のいただった。



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