暗黒の狂犬
たちは、暗黒大樹の葉を手がかりに空を舞っていた。
三角旅でエルフのラジュから渡されたこの紫色の葉が、レオパルドの居場所を示してくれるというのだ。
なんて便利な葉っぱなんだと、感心して話を聞いたものだ。
『七賢者の末裔が全て殺されてしまう前に、ラプソーンを止めてください。』
御年いくつのになるのか、若々しいエルフが涙目でに縋りついた。
彼らとて、無論レオパルドは倒す対象である。
チェルスやメディを目の前で殺した恨み、晴らさないでおくものかとテンションも上がっている。
空中戦は苦手、というかやったことすらない。
最悪体当たりだ、と奇妙な覚悟を決めたりした。
「ねぇ、どうも僕らの近くにレオパルドがいるみたいだよ。」
「噛みつかれたらどうしよう。羽根とかもげそうだよね。」
「救命胴衣とかつけとくべきだったな、こりゃ。」
「この高さから落ちたら、最悪からだがばらばらでがす。」
ぞっとするような台詞を吐くヤンガスに、たちの非難を込めた視線が集中する。
陸上ならば、背中の一発ぐらい叩いているはずだ。
ふと、目の前に黒い羽根が落ちてきた。
まさか、と思い上を見上げる。
禍々しいまでに黒い狂犬が、空を飛んでいた。
捜し求めていたレオパルドだった。
たちの心がひとつになる。
光速でレオパルドに体当たりをお見舞いする。
わずかに掠った程度だったが、相手は若干怯んだようだ。
ものすごいスピードである地へ向かって飛んでいく。
まるで宙に浮いたようにそびえる、荘厳なサヴェッラ大聖堂。
「あの犬、よりによってあんな神聖な所に・・・!!」
「あんたみたいな破戒聖堂騎士も、そんなこと言うのね。」
「ゼシカ、あそこは世界中の僧侶とか神官が、生涯の一度は訪れたいっていう場所だぞ。
俺だって一応・・・。」
「一応でも嘘でもいいから。
ああいう所って、腕の立つ人そんなにいないだろ?」
元の姿に戻り、懸命に走る。
本来ならば初めて訪れる地でもあるし、ゆっくり観光とかもしたい。
かの有名な大聖堂を見て、あぁ僕たちもこんな素敵な所で結婚式挙げたいねとか、と話すはずなのだ。
まぁ、聞いたところで彼女はまた恥ずかしくなって答えを教えてくれないんだろうけど。
が、今はとにかく急がなければならない。
レオパルドの狙いが誰だかわからない以上、駆け回るしかないのだ。
そしてその行為は当然のごとく、神官たちの叱責の的になる。
「これだから頭の固い連中は困るんでがす。」
「仕方ないよヤンガス。
だってここは走り回るような所じゃないもん。」
あちこちのドアを手当たり次第に開けては閉めていく。
たまたま入った、やや豪華な部屋にいたのは小柄な男性だった。
入るなり新人のシスターと勘違いされ、袖の下まで要求されるという無法ぶりに、たちは幻滅していた。
彼が教会のトップ2だなんて思いたくない。
「どんなに大きな聖堂でも、大司教ともあろう人物があれじゃね。」
「神に仕えるって、そんなに儲かるんだー。」
「いや、そこは感心するところじゃないわよ。
リーザスの神父様は気さくな方よ。」
「オディロ院長だって、清廉潔白な人だったろうが。」
神様って本当にいるのかな、とは思った。
神を出汁にして金をせびり取るなんて、そんな非道を許す神は、神として認めてもいいのだろうか。
かつて天界を見てきた男の末裔と言われる今度のターゲットは、まともな人がいい。
とはいっても、ターゲットが誰なのかがわからないのだが。
「、どうしたの難しい顔して。」
「・・・、ううん、なんでもない。
私たちが守る人は、素敵な人だよね?」
「うん、きっとそうだよ。
今までだって、全員そうだったじゃないか。」
館の中でも、ひときわ警護の騎士が多い部屋へとたどり着く。
どうやらマイエラ修道院の聖堂騎士団員のようで、顔見知りを見つけたらしいククールは、嫌そうに顔を逸らした。
たちは彼らに構わずに中へと入っていった。
大きなバルコニーから暖かな陽の光が差し込む。
その光を浴びている、温和な表情の老人がいた。
一目見ただけでも、只者でないとわかる。
その服装や威厳からして、彼が法皇と呼ばれる存在なのだろう。
老人は穏やかに、たちに話しかけた。
「そのように怖い顔をして、どうなさった?」
「僕たちは――――――――――――!!」
ばりん、とガラスの割れる音がした。
次いで翼がはためき、巨大な影が部屋に現れた。
いや、影ではない。
あれは、黒い狂犬レオパルドだった。
咄嗟に武器を構えるたち。
法皇を殺させるわけにはいかないのだ。
彼の生存が、世界の平和にかかっているのだ。
間合いを取って対峙している彼らの間に、2人の影が飛び込んだ。
護衛の騎士たちだ。
しかし、レオパルドの強靭な前足であっけなく吹っ飛ばされる。
前に出てくんなよ、と小さくククールが毒づいた。
「、援護を頼むね。
まずはスクルト、それからバイキルトとかもよろしく。」
「はいっ。」
の指示を聞くか聞き終えないかのうちに、からスクルトが発動された。
とりあえず幾重にも防御の膜を張っておけば、攻撃もしやすくなるのだ。
ただ、さすがにレオパルドも強く、その鋭い牙は容赦なくたちの身体を傷つけようとする。
そしてその度に、が回復呪文を唱えていく。
は、自分から打撃攻撃をすることはあまりない。
非力なのもあるが、自分が前に出ることで、みんなに心配を掛けたくなかったのだ。
武器を取って戦うのだけが戦いではないと、悟ったのだ。
自分が持てる力を最大限に発揮できること、すなわち呪文で仲間を援護し、時折メラゾーマとかぶつけることが、の戦い方だった。
援護のスペシャリストに私はなる!
これが最近の彼女の目標だった。
レオパルドとのガチンコバトルにも、終わりが近づいてきた。
の思い切り振り下ろした会心の一撃が、レオパルドの急所を貫いたのだ。
「終わった、か・・・。」
大きく息を吐き、汗を拭う。
ヤンガスたちも、それぞれ武器を収めほっとしていた。
その時だった。
「よくやったぞ、お前たち!」
そう叫んで入ってきたのは、先ほどたちを幻滅させた張本人、ニノ大司教だった。
しかし彼らをもっと驚かせたのは、さらにその数秒後にやってきた、とある男だった。
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