わたしの好きな人



 の帰りをじっと待っていた。
宿を予約しに行くだけにしては、遅すぎた。
道に迷ってしまったのかとも思うが、それほど入り組んだ造りではないので、そんなはずはない。
ふと、ふらふらと出歩いているを見つけた。
1人で歩いているはずなのに、とても楽しそうにしている。
まるで隣に、誰かいるかのようだった。






・・・?」





 は謎の行動を取り出したが気になり、こっそりと後を追い始めた。
気付かれることなく歩いた先には、目を見張るほどに美しい野原が広がっていた。
野原の中央付近にいるは、しばらくそこに佇んでいた。
何かをしているわけではなかった。
ただ、そこに立っているようにには見えた。
不意に、の方を向いた。
用が済んだようで、町へと戻ろうとしているのだ。
は慌てて野原から飛び出した。
なんとなく、あの場で彼女と会うのはやめた方がいいと思ったのだった。








「あれ、。なんでここに。」


「探しに来たんだよ。
 いつまでも帰ってこないから。」


「あ、ごめんね。」






 は並んで歩き出した。
思えば、こんなふうに2人並んで歩くのはずいぶんと久し振りな気がする。
いろいろすれ違いとかあって、なかなか2人になれなかったのだ。






「散歩してたら、きれいな所見つけちゃって。」


「へぇー。じゃあ今度は、2人で行こうね。」


「ふ、2人で? なんか・・・、デートみたいだね。」


「僕はそのつもりで言ってるんだけどな。」








 ぼんっと紅く染まったの顔を見て、は苦笑した。
直球で攻めたら駄目なのかな。
やんわりと誘った方が良かったのかな。
でも僕、いっつも姫様に誘われるばっかりだったから、そこらへんの加減がよくわかんないんだよね。






「いじわる・・・。」


「え?」



「私、にまだ好きですって言ってもないのに、デートのお誘いとかずるいね。」


「・・・今、好きって言ってくれたよ?」






 自分の発言にも気付いていないに、丁寧に説明してやる
の顔がますます紅くなる。
蒸発するんじゃないかと思うぐらいに、そりゃあもう紅かった。






「ずっと、ずっと好きだったの・・・。
 はあっさり私に大好きって言ってくれちゃったけど、私はなかなか言えなくって・・・。」


「でも、もあっさり言ってくれちゃったよ?
 僕、ものすごく喜ぶよ。天にも昇る勢いだよ?
 今から聞くエルフさんの話とか、右から左に受け流すよ?」


「いや、最後のは受け流しちゃ駄目だよ・・・。」







 人目も憚らずいちゃいちゃしだした2人の頭に、ごんと拳骨が降って来た。
はっとして辺りを見回すと、そこにはむっつりとした顔のトロデ王や、腕組みしているゼシカがいる。
彼らの姿を見つけて、たちはようやく事の次第に気がついた。
なんて大胆なことをしていたのだろう。
穴があったら入りたい。





「お前らな、いちゃつくにも場所ってもんがあるだろうが。
 こんな色気も何もないとこじゃなくても、ベッドの上とか。」


「ククール、悪いけど今はそれ以上言わないで。
 両思いになって即行で振られるのは、嫌なんだよ。」






 しゅううううう、と体中から湯気が立ち上り、ゆでだこ状態になっているを庇う。
庇いつつも、はしっかりククールに詰め寄った。
その笑っていない瞳に、軽い恐怖すら覚えてしまうククール。
こいつを敵に回すと、やっぱりおっかない。






「この際だから、王やみんなに報告するね。
 僕と、お付き合いしてるんだ。ね、。」


「・・・・うん・・・・・・・・。」


「いや、そんなの昔っから知ってたと思うわよ、みんな。」







 ゼシカの的確なツッコミを聞いても、なんだそうだったのか、と逆に笑顔になる
そんな彼には、もはや誰もツッコミを入れられない。




「さ、エルフさんのお話を聞きに行こっか。
 言っとくけど僕、公私のけじめはつけるからね。」


「・・・ぜひともそうしてちょうだい。」





 未だに硬直しているを引っ張り、エルフの元へと向かう
2人を見送っていたククールが、ぽつりと呟いた。






「これから、いろいろ大変だな俺たち。」


「保護者ってこと?」


「まぁな。」


「でもこれで兄貴がヤキモキしてるところを見ずに済むでがす。」






 その数分後、先程とはえらくテンションの違う2人を見ることになった、ヤンガスたちだった。



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