交差する嫉妬
こうやって彼女の目覚めを待つのは何度目だろうか。
2度目だ、とは自問自答した。
最初はドルマゲスを倒した後、ショックやら何やらで倒れたを同じサザンビークで介抱した。
本当にこの土地との相性は悪いと思う。
この国に期待に胸膨らませてやって来たことなど、ないかもしれなかった。
「ほんとに、君にはいろんな意味でドキドキさせられるよ・・・。」
可憐な顔をして強力な呪文を立て続けにぶっ放し、あれだけ前線に出るなと頼んでいるにもかかわらず武器を執って戦っている。
かと思ったら死んでしまったかのように身動きしないし、彼女のおかげで心臓周辺がおかしなことになっていた。
ちっとやそっとのことでは、もう死なないだろう。
事実、かなり打たれ強くなった。
「不思議な子だよ、。僕には、君が天使に見えてならないんだ・・・。
まさか、もう死んでるとかないよね。」
不吉な予感が脳裏をよぎる。
そう思ってしまうほどに、生きている気配が希薄なのだ。
今彼女に死なれては、これから先どう生きていけばいいのだろうか。
世界が終わってしまうような気すらする。
は不安になっての胸に耳を寄せた。
小さくだが、確かに動く心臓に安堵した。
そればかりか、ぴくりともしなかった彼女の腕がの頭を抱き締めた。
柔らかな衣を包み込むような優しい力だった。
「私が絶対・・・・・・。」
消え入るようなあえかな声が聞こえた。
ようやく起きてくれたのか。
は頭を上げようとした。
しかしできたのは角度を動かすことのみで、後は再びの腕に抱き締められていた。
もはやほっとして心臓の音を聞いているどころではない。
彼女は気付いていないのだろうか。
彼氏が無防備だった自分の胸に顔を埋めているという状況に。
「っ!!」
「ん、? どこ・・・?」
「何も考えずに腕を上げてくれるかな? いろいろやばいんだよね、僕。」
は声のした方に視線を向けた。
やけに胸元がくすずったかった。
自身の胸の前でうごめくこげ茶色の髪を見て、ぎょっとした。
夢の世界での夢のような出来事が一瞬で吹っ飛んだ。
何をしてくれちゃっているのだ、この青年は。
「えええええええ・・・っ!? 、何してたの・・・!?」
「いや、誤解しないでよ! 僕は何もしてないからね!?」
「何でもいいから早く頭上げてっ、恥ずかしい・・・!!」
は思い切り頭を上げた。
温かくて柔らかな感触が少し名残惜しい。
気持ちよかったなーとかにやけているであろう己の顔を、ばっちんと叩いた。
いけない、これではククールと同類扱いされてしまう。
あんなエロ似非騎士と一緒にされるなんて、トロデーンの兵士としての名が泣いてしまう。
「びっくりした・・・、まさかが・・・・・・。」
「僕もびっくりしたよ。無意識にでもが抱き締めてくるんだもん。」
「無意識・・・?」
は両手を見つめた。
の髪とか頭ではなくて、何か違うものを掴んだ気がしていた。
懐かしいとさえ感じさせるようなそれを、確かに手にしたのだ。
夢の世界に別れを告げる直前に、老女からもらったはずだった。
ははっとして辺りを見回した。
夢のようで夢でないのならば、もしかしたらあるかも知れない。
かつて栄えた仲間たちからもらった、闇を退けるものが。
は半身を起こした。
体力も魔力もすっかり元通りになっていた。
やはり同族からの力は絶大なのだろう。
深い充実感があった。
ふと、からの視線に気がついた。
は小首を傾げて尋ねた。
「さ、いつの間に着替えたっけ・・・?」
「え?」
「だって、明らかに色やら生地やら違うんだ。真っ白な服着て、ほんとに天使みたいに見えるよ・・・。」
そのままどこかに飛んで行ったりしないでね、とは寂しげに笑った。
天使、というフレーズにびくりとする。
正確には天使ではない。
けれども限りなくそれに近い存在のようにには思えた。
「どこにも行かないよ。天使みたいだなんて、はロマンチストだね。」
そう軽く笑い飛ばし、ゆっくりと立ち上がる。
めまい、立ちくらみは一切ない。
むしろ気分爽快だ。
こんなにすっきりとした気分になれたのは、ずいぶんと久しぶりだった。
「もう立っても大丈夫なんだね。良かったよ、元気になって。」
「うん。ずっと寝てたからかな・・・、当分は倒れなくて済みそう。」
「当分というか、無茶しなくていいから程よく休んでね。」
鏡に全身を写し、やはりと思った。
間違いない、これは白き翼を持つ一族伝来のものだった。
仲間として認められた証なのかはわからないが、強い守護の力を感じた。
これを通して、今は亡き一族の人々の願いを感じることができた。
それはにとっては、大きな力となりえた。
「ねぇ・・・、マルチェロさんとの間に何があったんだい?」
「何もないよ。あの人が進もうとした道から、外れさせただけ。
・・・間に合わなかったけど・・・。」
マルチェロはを愛していたのではないか。
はそう考えていた。
彼があそこまでに執着したのも、彼女を想うがゆえではなかったか。
様々な思惑と利害が絡み合った結末こそ別れだった。
しかし2人の間には、何らかの強力な繋がりが残っているはずだった。
それが悔しくて羨ましくてならなかった。
醜い嫉妬をしている自分にも腹が立った。
「・・・マルチェロさんには幸せになってほしいな。
権力とか地位とかなくたって人は幸せになれるんだって、そう思ってほしい・・・。」
「と一緒にいることが、彼にとっての幸せだと僕は思うけど。」
「・・・それは幸せじゃないよ。私にとってあの人は命の恩人。
それ以上にもそれ以下にもならないから。」
「じゃあ、僕は安心していいんだね? マルチェロさんに嫉妬しなくてもいいんだね?」
「私の方こそ、あんまりワンマンプレーが多かったからに嫌われたかと思ってた。
可愛くないなーって自分でもわかってたもん。」
「嫌いになんてなるわけないじゃないか。
・・・たとえが何者であろうと、僕は愛し続けるよ?」
いつもはなかなかいえない様な恥ずかしい言葉が、さらりと出てくる。
今まで言えなかった分、情熱度も3割増しだ。
少々、いやかなり変わった彼女だが、ありのままを受け入れるつもりだった。
だから、口に出した言葉に偽りはない。
「私は幸せ者だね。やみんなが一緒にいてくれてすごく幸せ。
ラプソーンにも、なんだか勝てそうな気がしてきた!」
「勝てそうじゃなくて勝つんだよ、。」
目の錯覚だか知らないが、時折ちらりと見え隠れする白い翼を持つ少女は、握りこぶしを天井に向かって突き上げたのだった。
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