Apne opp i morgen 3
とは、見晴らしの良い街道にぽつりとある墓の前に佇んでいた。
の亡き母ウィニアが憧れた人間が住む地から摘んできた花を、そっと墓前に手向ける。
両親は人間界のどこで出会ったのだろう。
サザンビーク領内だろうか。
できれば両親の思い出の地を巡ってみたかったが、今のたちに残されているのはこの小さな墓だけだった。
「のご両親はすごいね、本当にお互いのことを愛してたんだ」
「尊敬するよ、僕のお父さんお母さん。欲を言えば会いたいんだけど、さすがにそれは無理だね」
「肉体はもうないけど、お2人はいつもを見守って下さるよ。だって、大事な大事な息子だもん」
生きる世界も種族も、何もかもが違う人物に初めて出会った時、両親はそれぞれ互いの事をどう思ったのだろうか。
愛の前にはすべての障害も無意味だと思ったのかもしれない。
国も身分も捨て単身竜神族の世界へ飛び込んだ父エルトリオはどんな思いでここまでやって来たのか、はよくわからない。
わからないけれども、そこにさえ行けば愛する女性に再び逢えるかもしれないと思っていたのならば、それはと同じ気持ちだった。
母が待つ里まであとほんの少しだと、父は果たして気付いていたのか。
本当にあと少し、走ればすぐに辿り着く場所で力尽きた父。
最期に見たのは何だったのだろう。
愛する人の胎内に血を分けた子がいると知っていたら、まだ見ぬ子どものことも考えたかもしれない。
はお父さんとゆっくりと呟いた。
幼い頃からずっと、自分にはこう呼べる存在はいないものだと思っていた。
城の人々は優しくて温かな人ばかりだったが、だからこそ仲良く買い物をして、食卓を囲んでと幸せそうに暮らしている親子が羨ましかった。
欲しいと思っていても絶対に授けられないものが家族だった。
リーザス村でゼシカたちアルバート家の人々を見れば、なんと賑やかな家族だろうと羨望の眼差しを向け、
マイエラ修道院でマルチェロ、ククール兄弟を見れば兄弟がいるって素晴らしいと憧れた。
他人には当たり前に存在している家族がいないのは悲しいことだった。
この世界の誰とも繋がりのない『独り』のように思えた。
にとっては、自分とよく似た境遇にある『独り』者だった。
彼女もまた家族と呼べる存在がなく、どこで何をしていたかもわからない不安定な生き物だった。
もちろんそれだけが理由ではないが、に惹かれたのは自分と同じ属性の者だったからというのもあるのかもしれない。
楽しくても幸せでも、どこか満たされない愛に敏感な人々。
大切だと思うはずの家族がいなかった分、愛する者には人の倍以上の想いを寄せる、愛に渇望した生き物。
はいつしか自分のことをそう思うようになっていた。
「、ずっと家族に憧れてたもんね。良かったね、これからはいつでもご両親に会えるよ」
「・・・・・・。あのね、」
「ん?」
「ラプソーンを倒しに行く前・・・・・・、僕がに言ったこと覚えてる?」
「う、うん。あの時だよね、えっと、うん」
「そう、その前に言った言葉。の身体がないなら探しに行くし、僕のをあげるって言った。
僕は、のこれからの人生が欲しい。幸せな時も辛い時も、ずっと一緒に分かち合う時間を僕にちょうだい」
「、それって」
「僕ってすごく欲張りなんだ。お父さんとお母さんとおじいちゃんだけじゃ足りない。、僕の家族になって、家族を増やしていきませんか?」
の頬が見る見るうちに紅く染まる。
三角谷の谷でを地上に呼び戻した時にも抑えきれなくて言ってしまったが、本来ならばここで言うはずだった。
三角谷どころか竜神王の前でもここぞとばかりにいちゃついた気がする。
どれだけ堪え性がないのだろう。
墓間違いをしてしまうとは、よほどに飢えていたとしか思えない。
ただ、の方も気分が落ち着き地上に慣れた頃に真面目に言われたせいもあってか、即答できずにあうあう言っている。
これでもプロポーズの言葉は、を復活させる手段を得てからずっと考えてきたのだ。
まさかここにきて急に冷静になって断られることはないだろうが、ある意味メダパニ状態に陥ってるだから油断はできない。
は根気良くの返答を待った。
急かしてはいけない、時間はたっぷりとあるのだ。
だがしかし、一刻も早くを家族として迎え入れたい。
心を落ち着かせるために深呼吸を2、3度繰り返したが、あのねと口を開いた。
「私、羽根とか生えたり飛んだりするけどいいの・・・?」
「天使みたいで綺麗だよ。それに空飛べるのは便利だよ。レティスのひな鳥がいない今、僕たち飛べないし」
「ゼシカみたいにスタイル抜群じゃないし、お姫様みたいにほんわかおっとりもしてないよ?」
「僕はの体、すごく僕好みで好きだよ。
あとはまだ知らないだろうけど、君がいない間に姫様は随分逞しくなられて、たぶんの方がおっとりほんわかしてると思う」
「そうなんだ・・・。あ、あとあと、えっと・・・」
「ねぇ、まだ僕を試したいの?」
「そんなわけじゃなくって、その」
「僕、もうこれ以上待ちたくないんだ。君を目の前にしてまだ待てなんて、僕もう限界。
言っとくけど僕、そこまで好きでもない相手のために5年以上も旅して、おまけに独身貫くとかしないからね。
ククールだったらとっとと諦めてるし、そもそもこんな辺鄙なとこまで来なかったから。がいいからを呼んだの。それで僕の気持ちわかるでしょ?」
「・・・よくわかりました。・・・もう待たなくていいよ、私もと家族になりたい・・・」
これ以上を待たせてもろくな事がない。
どうやら恋人は、5年超という歳月の間に若干我慢弱くなったようだ。
断る理由はないのだし、いちいち確認する必要もなかった。
地上へのブランク長すぎる嫁ですけど頑張りますから許して下さいお義父様お義母様。
は物言わぬ墓に深々と頭を下げると、なにやらうずうずしているに勢い良く抱きついた。
あとがき
こいつら何度プロポーズやってるんだという、よい子のみんなは数えないでね仕様の最終回終わった後のお話でした。
タイトルの意味はノルウェー語で『あしたをひらく』。ノルウェー語にしたのは古代ルーン文字とかもあったんだろうけど、たぶん字面が良かったってのが一番の理由です。
いろんなジャンルでいろんなお話書いていろんないちゃつき方書いてきましたが、8夢の主人公たちは私の中では私的サンクチュアリ。
本編の補完的番外編としては、これが一番最後の作品になりそうです。