Apne opp i morgen 2
思えば、2人きりで旅をするのは初めてのような気がする。
ゼシカたちの存在を邪魔だと思ったことは一度とてないが、2人で旅をするというのはなかなか心ときめくものである。
まず、背中合わせで戦うスタイルが、息がぴったり合っているようでテンションが上がる。
が自分のためだけにベホマを唱えてくれるのも、とてつもなく嬉しい。
決して好戦的な子ではなかったはずだが、身体を動かすことが嬉しくて仕方ないのか、元気いっぱいに動き回る彼女を見ているのも楽しい。
やはり仮初めの肉体よりも、自分自身の肉体の方が使い勝手が良いのだろう。
一度過剰に触れてしまえばリミッターが簡単に外れてしまいそうだから今はまだキスまで留めているが、早くもっと触ってみたい。
一緒にいるだけでは満足できない。
せっかく数年ぶりに逢えたのだから、もっと近くで彼女を感じていたい。
はメラゾーマを乱射しているを熱っぽく見つめた。
「ほんとにすごいね! こんな不思議なとこに竜神王さんは住んでるんだね!」
「僕も初めて来た時にはびっくりしたよ」
「私、ちゃんと飛べたらあの浮いてる岩まで行けそう!」
「え、いや、危ないから止めて・・・」
「大丈夫大丈夫・・・・・・、うわっ」
大丈夫といった先からこれだ。
翼も出さずに虚空へ向かって足を踏み出したの体が重力に従いがくりと落ち、は全身から血の気が引いた。
今までで一番素早く動けた気がする。
腕一本でかろうじて繋がっているを引っ張り上げ、よろよろと膝をつく。
駄目かなあと呑気に呟いているに、は思わず声を荒げた。
「せっかく戻って来れたのに無茶ばっかりして、楽しいのはわかるけど少しは用心してよ!」
「う、ごめんね・・・」
「ほんとに・・・・・・。ほんとにもう、君を失いたくないんだ・・・・・・。空飛びたいんだったら、まずは安全なところで練習しよっか」
「うん、そうする・・・。私ちょっとはしゃぎすぎてた、ごめんね」
「いや、僕の方こそ怒ってごめん。疲れてない? まだ本調子じゃないだろうし、やっぱりルーラで行く?」
「ううん歩く。が強いから、私すごく楽してるよ」
本当に、少し見ない間に何をどうしたらそうなるのかと疑問に思ってしまうほどには強くなっていた。
地上ではおよそ見ることができない屈強な魔物たちを容赦なく串刺しにし、ジゴスパークを放つ姿はまるで雷神だ。
本気で喧嘩をしたらかなりの重傷を負いそうだ。
は次々と武器を変え休むことなく攻撃を続ける頼もしい恋人の背中を、うっとりと眺めていた。
竜神族の里へ入り感じたざわめきを、は知っただろうか。
ヤンガスたちと共に初めてここへ訪れた時も違和感を感じたが、今日もまた感じる。
前回と違うのは、人々の視線の先がだということだった。
追い出しはしないだろうがやはり、自分たちと対極にある種族を前に戸惑っているのか。
仕方がないとはいえ少し寂しい。
仲良くできるのだろうかと不安にもなる。
「、トーポは?」
「あ、トーポ? うん、実はトーポは僕のおじいちゃんでね・・・」
「え・・・。ってネズミだったの・・・・・・?」
素っ頓狂なの誤解を耳にした里の者たちがぴしりと固まる。
強く気高き竜神族がネズミだと・・・!?
慌てて訂正を入れるが、果たして里の者たちのに対する好感度は回復できるのだろうか。
懐かれやすく、まさかという人物からも好意を抱かれやすい彼女だから毛嫌いされるということはないだろうが、それでも先程の発言は迂闊すぎた。
「ネズミの姿は仮のもので、本当はここに住んでる竜神族の人なんだ」
「へえ・・・。・・・ん? じゃあも竜神族の人?」
「お母さんが竜神族で、お父さんは人間なんだ。と似てるね」
「私、本で読んだことあるよ。竜神族って戦闘に長けた一族なんだよね。すごい、かっこいいね!」
竜になれるなんて憧れちゃうなあととどめとばかりに言われ、住民たちが纏っていた空気がふわりと和らぐ。
可愛らしい女の子にかっこいいや憧れると言われて怒る人はそういない。
自身も、人間ではない自分もきちんと受け入れてもらえたようでほっとしていた。
ここへ来てもの容態は急変していないようだし、竜神族がに与える影響もなさそうだ。
「これからもよろしくお願いします、おじいちゃん」
「うむ、こちらこそ世話になるの」
「あ、でもトーポって楽しそうに私とかゼシカともお風呂入ってたよね。まぁいっか」
「・・・・・・おじいちゃん?」
「本人が気にしておらぬ。許せ」
そういう問題ではないと、はグルーノにひとしきり説教を始めた。
大体もだ。
少しは困った様子をすればいいのに、まあいっかで済ませてしまうとは。
まあいっかで済ませてしまうほどにお手軽なものなのか、入浴は。
だったら僕も一緒に入りたい。
もちろん今はまだ面と向かってそんな事は言えないが、いつか必ず言ってみたい。
まあいっかで済ませる心の広いだから、きっと自分の時も2つ返事で了承してくれる。
現実は甘くないということを、はまだ知らなかった。
「ねぇ、竜神王さんはどこに住んでるの?」
「この里のもっと先かな。ここまでの魔物なんか目じゃないくらいに強いから、気を付けてね」
「うんわかった。あ、やっぱり王様っていうんだから天空城みたいなのがあるのかな!」
「お城は浮かんでなかったよ」
すごく楽しみだなと元気に声を上げるに、もつられて笑みを浮かべた。
竜神王は、臆することなくこちらを見上げてくる娘を無言で見つめていた。
これが白翼族の娘か。
翼を持たない外見は人間とまるきり同じである。
しかし魔力は相当に強いのだろう。
たった2人で自分を倒すとは侮れない。
「あの、倒してしまった後にあれなんですけど、助けて下さってどうもありがとうございました」
「私はの願いを聞き届けたにすぎない。そなたの復活を願い続けていたに感謝するがいい」
「そうなんですけど・・・・・・。でも、竜神王さんがいなかったら私はここにいないわけですし・・・」
礼を言われるのが嫌いなのではない。
本当にこうするのが彼女のためになるのか、それが竜神王の気がかりだった。
甦らせる前にには確認した。
何があっても守り乗り越えていくとは口にしたが、果たしてはそれでいいのだろうか。
彼女の笑顔が未来永劫続くものなのかどうか、それが気になっていた。
「我ら一族は人間よりも遥かに永い時を生きる。それはわかるか?」
「はい」
「年老いてもなお、姿は変わらぬ・・・。いつまで人の世で生きるつもりなのだ」
「それは・・・」
「知らぬわけではないだろう。我らとそなたたち一族は対極にある者。と係わり合いになることで何らかの悪しき影響を受けぬとも限らぬ」
「そんなことありません!」
は大声を上げると、の腕をぎゅっと掴んだ。
冗談ではない。何を今更そのような忠告を受けねばならないのだ。
と一緒にいるがために悪影響を受ける?
そんなことあるはずがない、現に今までだって何も起きずに生きてこられた。
これからだってきっとそうに決まっている。
「私がの秘密を知ったのは今日が初めてだけど、私はがいて気持ち悪くなったことなんかないよ。
もしもこれから先竜神王さんが言ってるようなことが起こっても、私はそれでもと一緒にいたい」
「でも、僕は君を苦しませたくないんだ」
「私は、今がそういうふうに言ってることがすごく苦しい。自分の身体は自分が一番よくわかってるつもりだよ」
久々に逢った時が浮かない顔をしていたのは、ずっとこの事を案じていたからなのだろう。
自らが望み甦らせたのに、また苦しい目に遭わなければならないようなことがあっては困る。
そう考え、もしも自分が傍にいることが苦痛を覚えるのであれば身を引こうとすら考えていたのかもしれない。
どこまでも優しい人だ。
だから彼を好きになったのだ。
が好きで良かった。
は改めて、自分の恋が間違っていなかったことに安堵した。
「竜神王さん、心配しなくても私、今の状態すごくいいんです。ほんとに後何百年か生きていけそうな気がするくらい、元気いっぱいなんです。
だからね、、責任持って私をずっと幸せでいさせて」
「、逆に心配させちゃってごめんね・・・。僕もちゃんと長生きする。ずっとずっとと一緒にいる」
「うん、約束だよ?」
ようやく本当の本当にが帰ってきた気がする。
は隣でにこにこと笑っているを見つめ、ふっと頬を緩めた。