豪炎寺にとってという人物は、気が付けばいつも近くにいる、いちいち確認しなくても良い存在だった。
女の子だからといって特別扱いをしたこともなく、クラスメイトよりも遥かに気心の知れた仲だった。
言葉遣いがあまりよろしくなく、やや喧しいのは改めてほしい点ではある。
それでも、静かにしておいてほしい時は大抵黙っていてくれるし、言ってほしい事や言いたい事は隠さずズバリと言ってくれる。
家族以上にわかってくれている存在かもしれなかった。
今もそうだった。
それは校則違反なのではないかと疑ってしまうバンダナを頭に巻いた元気の塊のような少年から『サッカー部入ってくれ!』と勧誘され、
ナイーブな気持ちになって帰っていると隣にがいる。




「円堂くん悪い子じゃないんだけど、ちょっと趣味に熱すぎるのよね」
「・・・悪かった」
「私がフォローしてあげたこと? ま、そのくらいはしてあげるよ、腐れ縁オプションとして」

「サッカー部、あったんだな」
「ほとんど名ばかりみたい。グラウンドでやってるの見たことないし、半田の話聞いてみてもそもそも11人いないみたいだし」




 可愛いマネージャーいるのに見る目ない男子だよね。
頓珍漢なことを口にするに、豪炎寺は適当に相槌を打った。
これが昔であればあそこのチームはどうとかこうとか主に豪炎寺が聞かせていたのだが、今は気を利かせてか、は尋ねない限りサッカーの話題に触れてこない。
話をしても直接サッカーには関わりがないものばかりだ。





「・・・帝国と試合をするのか?」
「ああ、そうらしいね。円堂くん、一生懸命部員集めてるみたいだけどなかなか」
「・・・帝国の目的はたぶん・・・」
「だからって修也がどうこうする必要ないんじゃない? 修也がやりたいようにやれば?」




 はそう言うと、足元に転がる石を思いきり蹴飛ばした。
蹴った場所が良かったのか、思ったよりも遠くに転がっていく。
もしかして私もサッカーの素質あるんじゃなかろうか。
どうだと言わんばかりに豪炎寺の方へ振り返ると、呆れたように額に手を当てている。
どうしたのと尋ねると、スカートと短くそれだけ返ってきた。




「やぁん、豪炎寺くんやーらしー」

「・・・
ちゃんの美脚に見惚れちゃったんでしょ。残念でした、ちゃんと下穿いてるってば」
にどうこう思うほど困ってない」




 頭のネジに不良品があるのか、の言葉のボールはいつも予想と大きく外れた軌道を描いてこちらへ届く。
会話のキャッチボールならぬパスが上手くできているのかと不安になる。
一応日本語で話しているはずなのだがなぜだろう、時々宇宙人と話している気分になってしまう。
修也ひどいと背中をどつかれ、それでも無視を決め込む。
先程言ったことはすべて事実なのだ。
今更彼女に特別な感情を抱くわけがないし、そもそも美脚だとは思っていない。
中学生の足に綺麗も汚いもないのだ、馬鹿馬鹿しい。
ただ、もう少し恥じらいや慎ましさを持つべきだと思う。
こんな子でも可愛いと評判らしいのだ、半田というどこもかしこもぱっとしない少年いわく。
雷門でも木戸川でもそうだったが、世の中の男子中学生の妥協の潔さが理解できない。
お前ら一週間ずっとこいつと一緒にいてみろと、忠告してやりたい。




「あ、落とし物見っけ。学生証? 定期?」
「誰のだ」
「うーん、名前読めないけど・・・、帝国の人みたい」




 ほらと言われて見せられた学生証には、確かに帝国学園のエンブレムが刻まれている。
名前はの指で隠れて見えないが、誰であってもあまり係わり合いにはなりたくない。
どうするんだと尋ねると、はさも当然のように届けるわよと答えた。
こういう嫌な予感がする時だけ、予想通りの答えが返ってくる。
親切を止めたくはないが、できればにもあまりあの学校と関わってほしくない。
これ以上誰も傷つけたくはなかった。




「誰? オニミチくん? 変な名前」

「明日放課後持ってってあげよ。あ、修也は来なくていいからね、行くつもりなんてないだろうけど」
「大丈夫なのか?」
「もう、心配しすぎ、そこらじゅうにたくさんいる女の子にまでいちいちちょっかい出すわけないじゃん」




 イケメンだといいなぁと暢気に夢想する幼なじみに、今度こそ豪炎寺は嫌気が差した。
人が心配して言っているのに何をのほほんとしているんだ。
オニミチだかモコミチだか知らないが、これで好みのイケメン(といっても、どんな顔が好みなのかさっぱりわからないが)だったら目も当てられない。
駄目だこいつ、危機感が根本的に欠如している。
いつかあっさり誘拐されたり、事件に巻き込まれたりするんじゃないだろうか。




、サッカー部にだけは近付かないと約束してくれ」
「警備員さんに渡したらすぐに帰るから大丈夫大丈夫。さすがにそこまでしないよ、修也を心配させたくないし」




 もうとっくの昔から心配している。
言ってもわかってくれないに改めてそれを伝えるのはやるだけ無駄だと悟った豪炎寺は、それきり口を閉ざしたのだった。






クラス編成の詳細がわかんないってことは、そこは妄想していいエリアだと思う






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