どきどきする。緊張しすぎて心臓が壊れてしまいそうだ。
半田はなかなか治まらない心臓の暴走に困り果てていた。
なんとなくサッカー部に入っただけなのに、まさか天下の帝国学園と試合をする日が来ようとは。
こんなことになるのなら、もう少し真面目にサッカーをしておけば良かった。
付け焼刃の特訓でどうにかなるほど相手は柔ではないのだ。
いったいどうすればいいのだろう。
うわあと呟きため息をついていると背中に衝撃が走り、今度はうわあと叫び声を上げる。




「ちょっと、そんな弱気で大丈夫?」
、驚かすのやめろよ!」
「ちゃんと半田って声かけてから叩いたけど」
「だから叩くなって言ってんの!」




 むっとした表情になったを見て、半田ははっとした。
サッカーについてはもちろん、帝国の強さについても何も知らない彼女に八つ当たりしても意味がないのだ。
なりに励まそうとしてくれただけなのに、それを叱るとは何をやっているんだ。
よく考えてみなくても、こんなに顔だけはいい女の子に自分だけが応援されたことがかつてあっただろうか、いや、ない。
本来ならば喜んでしかるべきなのだ。
よし、テンション上げよう。




「試合見てくれんの?」
「そのつもりだけど」
「帝国だか王国だか知らねぇけど、俺たちの特訓の成果を見せてやるよ」
「そっか、頑張ってね半田」




 先程までの気弱さはどこへやら、俄然やる気を出してきた半田を見送るとは豪炎寺の隣へと向かった。
木の陰に隠れて試合を観戦するらしいが、生憎と全然隠れているようには見えない。
センスの欠片も感じられないバスに乗って現れた帝国サッカー部の面々は、あんなバスに乗っていて恥ずかしくはないのだろうか。
選手たちのセンスまで疑ってしまう。




「アドバイスでもしてきたのか?」
「まさか。勝てるわけないじゃん、ベストメンバーで臨んできたあっちに今の雷門が」



 試合開始を告げるホイッスルが鳴り、開始早々のたった一度の攻撃を最後に崩れゆく円堂たちをじっと見つめる。
帝国の目的が豪炎寺だというのは明らかだった。
時折ちらちらと向けられる熱い視線は自分へのものではない。
いつまで耐えられるのだろうか。
いつまで、円堂たちの姿を眺めていなければならないのだろうか。
動き出さなければ変わらない。動かなければ、更なる悲劇が訪れる。
みっともない悲鳴を上げフィールドから逃亡した少年が、ユニフォームを脱ぎ捨てて走り去っていく。
彼はもう帰ってこないだろう。
は落ちた背番号10のユニフォームを手に取ると、ゆっくりと10の字をなぞった。
ストライカーの証。自分以外の、10人の思いを受けて敵陣へ強烈なシュートをぶつけるチームの刃。
ずっと10番を応援していた。
時には下手だと罵り、必殺技が完成した時には誰よりも喜んでいた気がする。
もう、そんな姿を見ることはできないとわかっている。
わかっていても、もう一度だけ見たいと思ってしまうのはエゴというより他になかった。





「・・・

「ん?」

「一度だけ、夕香は許してくれるだろうか」
「許してくれなかったら私も一緒に修也の味方してあげる。これも腐れ縁オプションね」




 豪炎寺の手が伸び、腕の中のユニフォームを取り上げる。
はユニフォームの代わりに手渡された制服を胸に抱くと、立ち上がった。
雷門のそれに身を包んだ幼なじみにはまだ少し違和感が残る。
それでも、全身から滲み出るオーラは当時のままだった。




、いけるか」
「こんなに一方的にやられてちゃわかんないってば。始まったらとにかく前に走って」
「わかった」
「点数入れたら修也の好きなの作ったげる」
「・・・考えておく」




 昔からずっとやっているように、フィールドへ向かう豪炎寺の背中の10の文字をそっと押して送り出す。
進言の通りとにかく前線へと1人走り出す豪炎寺を見ていると、随分と信頼されているなと思い不思議な気分になる。
サッカーボールもまともに蹴れない自分なんかの話を、よくまともに受け止めるものだ。
完成させたばかりの必殺技で帝国のシュートを防いだ円堂が、豪炎寺と叫びボールを託す。
久々に見たファイアトルネードは昔よく披露してくれていた頃のものとまったく変わっておらず、は小さく歓声を上げたのだった。






イナズマ流行りだす前の某アニメグッズ専門店で鬼道さんグッズを買うと、レシートには「オニミチ」の文字があったっていう都市伝説に近い実話






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