50.かぐや姫リターンズ










 私が最近出逢って一目惚れしたすごく可愛い女の子は、いつもふわふわと捉えどころがなくて何を考えているのかわかりにくい、ちょっぴり不思議な女の子。
イナズマジャパンの一員ではあるんだけどべったりとはしていなくて、守くんたちの自主練には風丸くんがいない限りほとんど付き合わない、オンとオフがはっきりしてる。
あーあ、今日はちゃんどこ行っちゃったんだろう。
冬花はお目当ての人物が見当たらないグラウンドを寂しげに眺めていた。
がいないイナズマジャパン、ひいてはマネージャー生活など楽しさが半分以下だ。




ちゃん・・・・・・。私の乙女心を弄ぶなんて酷い、でもそこも好き・・・・・・」
「あんた、恋する乙女とちゃう!?」
「えっ! ど、どうして・・・・・・」
「やっぱそうやんな! うちにはなんでもお見通しやで!」




 あんたの恋路応援したるわどーんと任しときと見知らぬ少女に言われ、冬花はぱあっと顔を輝かせた。
どこの誰だかわからないが、円堂たちの知り合いのようだから不審者ではないのだろう。
彼女はやたらと円堂との親密度の上げ方を指南してくるが、相手をに置き換えてもさして支障はあるまい。
冬花は、円堂とは根元は割と似ていると考えていた。
あの手のつけようのない勘違いレベルと、憎めない頭の弱さ。
が男なら確実に、色仕掛けでもなんでもして落としていた。
が男ならばきっと、そこらに群がるどんな男どもよりも凛々しく男前で、イケメンに違いない。
風丸といい勝負である。




「わかるでうちもあんたの気持ち! 切なく苦しく身悶えするような、そんな感じやろ!」
「そう、そう! つれない態度にもきゅんとして、あの人本当に罪な人・・・!」
「そこが円堂の怖さや! あいつの鈍感さは国宝級や! 用心しとき」
「守くんが国宝ならちゃんは世界遺産級・・・!」
「あんた、世界大会とかけてきたんやね? 笑いもできるやなんてますます気に入ったわ!」
「はいリカさん!」




 ちょっと待て。
この子、円堂のえの字も口にしてないぞ。
この子、明らかに女の子の名前を口に出して憧れてるって言ってたぞ。
この子頭ちょっとおかしいんじゃないかと至極もっともなツッコミを入れようとした塔子の声は、恋に飢える女子トークの前にかき消された。





























 あいつ、デートしよっかって冗談みたいに言ってたけどマジだったのか。
マジでデートスポットに誘い出してきたのか。
半田は待ち合わせ時間の20分前に遊園地の入場口前へ着くと、おそらく時間ギリギリにしか現れないであろうを待っていた。
デートしようと誘われた時は、それはもう驚いた。
断る理由はどこにもなかったから、とりあえずの要求どおり遊園地行きを了承した。
アジア予選真っ最中で忙しく大事な時だろうにデートとは、こんなにゆるゆるとしていて大丈夫なのだろうか。
熱中症でダウンするほどのハードワークではなかったのか。
それともまさか、監督その他と馬が合わなくてクビにされたのか。
ありうる。
我の強いの性格から考えると、仲違いの末の脱退も大いに考えられた。





「お待たせ! おはよ半田!」
「おー、はよー」
「待った? ま、男は待ってなんぼのもんだけど」
「待ってました。まあ、が時間通りにしか来ないとは薄々わかっちゃいたけど」
「わかってたのに待ってたんだ。半田、デートのリハーサルばっちりじゃん!」
「え、なに、これ来たるべき俺の初デートに向けた予行練習?」





 それよりもどうよこの服可愛いでしょ。
はいはい似合ってますよ。
お気に入りの服なのか、くるくる回って自慢げに見せびらかすを社交辞令とばかりに褒めてやる。
心が籠もっていないと文句を言われるが、籠めるつもりは端からないので特に不快にはならない。
ここ初めて来るんだ楽しみだなあとはしゃぐに落ち着けと一声かけると、半田は目の前に広がるジェットコースターを指差した。




「遊園地つったらまずはこれだろ! 行くぜ!」
「うわー、おっきいー!」
絶叫系好き? てかお前叫べんの?」
「お化け屋敷やだ」
「よし、お化け屋敷も後で行こう」




 ジェットコースターの座席に座り、きょろきょろと周囲を見回す。
誰かにずっと見られている気がするが、気のせいだろうか。
ストーカーの被害はかなり受けているので、感覚もそれなりに研ぎ澄まされてきた。
落ち着きなく辺りを窺うを高所恐怖症と受け取ったのか、半田が大丈夫かと声をかけてくる。
怖いならやめようかと珍しくも気の利く言葉を発した半田に、は平気と返した。




「にしては、きょろきょろ挙動不審すぎるだろ」
「いやあ、実はさっきからずっと誰かに後つけられてる気がしてさぁ」
「は!? おまっ、なんでそういうこと先に言わないんだよ! また厄介事に巻き込まれてんのか!? デートどころじゃないだろおおおぉぉぉぉ!」
「半田、お口閉じなきゃ舌噛むよーーーー!」
「こんな時に言わせんなあぁぁーーーーいだっ!」





 本当に舌を噛んだのか、半田が顔をくしゃくしゃに歪める。
だから口を開くなと言ったのにまったく、これだから半田は。
は半田に失態にひとしきり笑うと、きゃーと楽しく悲鳴を上げた。





「・・・あの隣の男は誰・・・!?」
「なあ冬っぺ、ほんとやめようぜ、こういうこと! に嫌われることばっかり冬っぺやってる」
「でもちゃんが男と一緒に仲良くデートしてるのを放っておくことなんかできない・・・。守くん、私たちもあれに乗ろう!」
「乗っても意味ないんじゃ・・・。たち今降りてきたし・・・」




 にこにこ笑顔のと、どこかぶつけでもしたのか痛そうな顔をしている半田がジェットコースターから降りてこちらへとやって来る。
見つかるわけにはいかない。
に、あろうことか円堂とデートしていると勘違いされてはたまらない。
幼なじみカッコ仮がくっつくってのは王道だもんねと、少女マンガの知識と偏った認識をそのまま飲み込んでいるのあまり精度のよろしくない脳内変換にかかれば、
たちまちのうちに冬花ちゃんは円堂くんとできているというおぞましい公式が成立してしまう。
恋焦がれる子に恋の誤解をされることほど辛く苦しいことはなかった。




「半田、次は観覧車乗りたい」
「パス」
「なんで」
「観覧車は彼女と乗るって決めてんの。何が悲しくてと閉じ込めらんなきゃいけないんだよ」
「観覧車を監禁扱いしたら私なんかどうなんの。3回くらい監禁プレイ経験済みだし」
「さらっと怖いこと言うな! ほら、次はお化け屋敷行くぞ」
「やだー!」
「尾刈斗の気味悪いサッカー蹴散らした奴が遊園地の従業員ごときに怯えんな! 世の中お化けよりも怖いのいっぱいあるだろ!」
「ああ、それは確かにある。キチガイ監督冬花ちゃん、世の中怖いのいっぱい」
「なんか今聞き捨てならない人名2人入ったけど、大丈夫かそれ」
「だいじょばない」




 でもやっぱりお化け屋敷暗いからやだと駄々をこねるを引きずり、半田がお化け屋敷へと連れ込む。
私たちも行こう守くんと、冬花は拳を握ると勢い良く円堂を顧みた。
暗闇の中に年頃の男女2人など、破廉恥にも程がある。
が暗闇で目が利かないことをいいことに、あちこちまさぐられたらどうしてくれるのだ。
こんにゃくがの首筋を撫でて、それに驚いたが『ひゃぁん』と悲鳴を上げたらどうするのだ。
メール着信音に設定したいではないか。
これにあの連れの男、今思い出したが確か紅白戦の時にもの隣にいた。
ああいう男が実は一番厄介なのだ。
にわかりやすく恋情を寄せる男どもよりも、ここぞという時に傍に寄り添って支えている『人』という漢字を象徴しているかのような人物の方が難敵なのだ。
あれは化けると怖い。
冬花は半田をそう評価した。




「冬っぺ、ところでなんで俺?」
「・・・なんでだろう?」
「冬っぺは知らないだろうけど俺というか俺たち、には頭上がらないからあんまり刺激したくないんだよ」
「守くん、このままだったら守くん何年経ってもちゃんに勝てないよ? 強いちゃん好きだから私はそれでいいけど」
「強い、か・・・」




 その強さに依存してああなっちゃったから、ますます頭が上がんないんだよな。
半田と一緒にいるを見ていてすごくほっとするのは、隣が半田だからだ。
正直、豪炎寺の隣にいるを見ていると、いつかまた豪炎寺が何かやらかしそうで気が気でない。
円堂は冬花に腕を引かれながら、きゃああああと悲鳴が迸るお化け屋敷へと入っていくのだった。







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