少し、いや、かなり遅れて参上した先のチームの雰囲気は最悪だった。
ちょっと目を離した間に何があったのだ。
は秋をちょいとつつくと、事の次第を尋ねた。




「なになに、何事?」
「ここに来るまでに色々あって・・・。その、飛鷹くんの昔のお友だち?が出てきたり・・・」
「飛鷹くんの? なんでお友だちが出てきて厄介事?」
「ほら、ちゃんも知ってるでしょ。この間冬花さんに絡んでた自転車の」
「あああれ。あんな小物の分際でチームの空気悪くするなんてどういう根性してんのあの似非不良。お宅のチャリのタイヤパンクさせてやろうかって話だよねー」
「う、うん? ・・・あと、韓国代表のメンバーが・・・」
「はっ、そうだった。ねぇねぇイケメンいた? 韓流って超イケメン揃いじゃん? イケメンいないかなーっ!」
「あ、待ってちゃん!」





 秋の制止に耳を貸さず、真っ赤なユニフォーム集団へと視線を巡らす。
どんなシャンプーを使っているのかと思わずインタビューしたくなる韓流イケメン(仮)が視線に気付いたのか、絹のようにさらさらと流れる髪を風に靡かせながらこちらへと顔を向ける。
目が合った瞬間、イケメン(仮)と、そして2人の叫びに反応しこちらを向いたユニフォームどころか全身真っ赤な物体が叫び声を上げた。





「アアアアアフロ!?」
「ど、どうして君がここに!? まさか君は僕の隠れファン・・・!?」
「寝言は寝て言えっていうかはあ!? どの面下げてここにいんの、アフロあんた私に快気祝い贈ってないままなぁんでここに突っ立ってんの!」
「快気祝い・・・、じゃあこの亜風炉家特製キムチを・・・」
「いらないそんなの! また私に変なの飲ますつもりでしょ、あれほんと苦しいんだからやめてぶつわよ」




 何のことを言ってるのかさっぱりわからないんだけど、ぶつのはやめて下さい。
じゃあここにいる理由を30字以内で説明してみなさいよ、ええ?
の威圧感に気圧されたアフロディは、指を折りながらたどたどしく理由を話し始めた。





「母国のサッカーチームに参加して何がおかしいんだい?」
「えっ、アフロあんたも異邦人だったわけ? やぁだ何その言い訳」
「事実だよ。パスポート見る?」
「興味ないからパス。・・・ていうか、さっき別の叫び声聞こえたけどだぁれ便乗したの!」





 粗すぎる犯人探しに協力する気になったのか、ヒロトがにこにこと笑いながら彼だよと全身レッドを指差す。
げ、なんで言いつけんだよグランと明らかに動揺し半ば逆切れしている声には大いに聞き覚えがあった。
彼は確か、宇宙人のふりをした日本人南雲だ。





「よ、よう・・・」
「あらやだバーン!くん、バーン!くんも韓国の人だったんだ?」
「ガチで日本人です。あとその呼び方やめろ! もう名前忘れたのか異邦人」
「ノン。そっちこそ私のお名前忘れちゃったの南雲くん」
「覚えてるならそっち使おうかさん」
「あはは、知らないところで仲良くしてたんだね2人とも。・・・緑川とは大違い」
「あ? なに、レーゼまだばれてねぇの? どうする、いっそここでばらし「やめて下さい俺を殺す気?」死者は見たくねぇな・・・」





 元宇宙人のキチガイたちの会話に、なぜだか緑川が加わっている。
なぜ緑川なのだろうか。
ずっとヒロトとべったりくっついて特訓に励んでいるから、ヒロトのいるところに俺ありだよとか思っているのだろうか。
なにやらヒロトの舎弟か子分のようで面白い。
も舎弟が1人ばかり欲しくなってきた。





「あいつの性格はともかく、あのゲームメークは厄介だな・・・」
「確かに彼女の悪魔のような、いや、まさしく悪魔そのものの性格は僕にとっては鬼門だ」
「ほう、イナズマジャパンには冥界の死者悪魔がいるのか・・・。同じハデスの使者として、私もぜひ挨拶がしたい」
「ああお宅か、マイ秘蔵っ子闇野くんとタイマン張れるくらいに頭がいかれてるイケメンは。うーん、イケメン好きだけど頭がパァなのはやだなあ」
「安心してさん、さんもガゼル・・・じゃない、風介と同じくらいに頭がいかれてるよ」
「んん? 何か今私のことちょっとどころかだいぶ馬鹿にしたよね基山くん。玲名ちゃん今日応援来るってメール着てたし、後で言いつけちゃお」
「ごめんねさん、さんはかなり怖いだけのすごくいい子だよ。だから俺の株落とすようなこと玲名に言い触らすのやめて」
「はっ、こんな奴に頭下げるなんてジェネシスのキャプテンも地に堕ちたなあ!」
「じゃあ晴矢、俺の代わりにさんと話してみてよ。君前に言ってたよね、ああいう黒白はっきりしてる女の子超好みだって!」





 な、な、な、何言ってやがんだこいつと顔をくしゃくしゃにして叫ぶ南雲の顔までもが、みるみるうちに赤くなる。
趣味が悪いにも程があるよと哀れみの瞳でアフロディが南雲を見つめる。
は南雲を見つめると大丈夫大丈夫と言い放った。
本当に大丈夫だ、今更様マジ天使と思う男が1人増えたところで何も変わらないのだ。
モテ期は絶賛継続中なのだ。





「どこをもって大丈夫だって言ってんだお前!」
「いやあ、私どうも背番号10番に好かれやすいみたいだから南雲くんが私のこと好きでも別に。ごめんね南雲くん、お友だちのメル友としか思ってない」
「お、おおおおおうよ、そんなこと知ってるぜ! けど見てろよ、この試合に勝つのは俺たちファイアードラゴンだ。試合終わった後で考え直しても相手してやんねぇぞ!」
「ひどい南雲くん! 私そんなにフットワーク軽い女じゃないもん、初恋の人のプロポーズの言葉覚えてくるくらいに一途だもん!」
「おおそうかよくわかった。だからどさくさ紛れに惚気話するなって言ったの忘れたのか!」
「あーあーあーあー何も聞こえませんんー!」





 いーっと顔をしかめると、南雲もべぇっと舌を出す。
中学生には見えない、彼らは図体だけが大きくなった幼稚園児だ。
ヒロトと緑川は一触せずとも爆発しそうな現場からを退避させると、彼女の定位置であるベンチの不動の隣へとそっと座らせた。
俺に押し付けんな俺はお守りじゃねぇんだよ悪態をつきつつもいそいそとのためにスペースを空けている不動に生暖かい視線を送ると、今度はニヤニヤ笑うなと叱られる。
今日も不動は元気らしい。





ちゃん、行くとこいちいちで一悶着起こして、挙句俺のとこに持ち込んでくるのやめてくれる?」
「べっつに問題起こしてるわけじゃないし。今日はちょーっと昔のキチガイのお友だちに会っただけ。南雲くん、私のこと好きだったんだってさ」
「世の中意外と物好きばっかだなっていうか、ちゃんのどこに惚れるんだか」
「どこもかしこも惚れる要素満載ってことでしょ。いやあ、私ってやっぱ天使で女神だったのかあ。10番に好かれてばっかり」
「あんたの自意識過剰なとこだけ、ちょっと羨ましい」
「そ? じゃああっきーも見習うこと! 大丈夫、今日は試合出してもらえる!」
「その根拠は?」
「あっきーだから。私知ってるよ、あっきーが誰よりもじっくり試合のこと考えてるって。紅白戦の時から知ってたよ。だってあっきーもゲームメーカーでしょ」
「知ってたんなら、どうしてもっと早く言わないもんかなこの子は」
「言ってほしかったの?」
「いや? 世の中の連中が全員ちゃんみたいに真っ直ぐじゃないからな・・・」






 今日は独り言を呟く記念日か何かだろうか。
半田も不動も、人に聞かれてほしくない話なら初めから口に出すなと言いたい。
ぼそぼそと呟かれては内容が気になるではないか。
ねぇねぇあっきー何言ったのと不動をせっついていると、隣に円堂がやって来る。
ベンチにまで激励とは、さすがに決勝戦ともなると全員全力を尽くしてのプレイになることを見越しての登場か。
新必殺技できたのと尋ねたに円堂は弱々しく首を横に振ると、よろよろとベンチに腰を下ろした。





「えっ、円堂くんどうしたのお腹痛いの頭悪いのなになに?」
「キャプテンなのに何も見えてないって、キャプテン失格って監督に言われてさ・・・。わかるまでは試合に出させてもらえない」
「何やっちゃったの円堂くん。キャプテン失格ってまさか、何か悪いことしちゃった?」
「それもわからないからここにいるんだよ・・・」
「なるほど。今日のベンチは豪華だねあっきー」
「はいはい」





 ベンチが豪華になったところで、試合に勝てるわけがない。
今日も結局、ピンチを見ても見ているだけできっと何もできないのだ。
はああ言ってくれたが、人を簡単に信じられるほど不動は自身が心清らかな人間ではないとわかっていた。
の素直で綺麗な真っ直ぐさが眩しくて、触れていると温かくて心に築いていた壁が溶かされていく。
溶けていくことが嬉しい反面少し怖くて、結局素直になりきれずを遠ざけてしまうようなことばかり口にしてしまう。
このままに流されてしまえばいい、きっと気持ちが楽になるとわかっているのにやはり素直になれない。
こんなに自分の実力を認め信頼を寄せてくれる人とは、もう二度と巡り会えないかもしれないのに触れることを躊躇ってしまう。






、今日豪炎寺にあれやった?」
「いいや? なんで?」
「いつもやってるだろ。・・・やっぱやる気にならないか」
「やってって言ってこないからやる必要ないでしょ。別にあれは義務じゃないし」
が一番わかってるだろうけど豪炎寺ってそんなに強くない」
「知ってる。メンタル弱いことが全部悪いとは言えない。テンション下げたり落ち込むことがいけないとも思ってない。
 わかってほしいのは、修也がサッカー辞めるとずっと見てきて応援してきたファンがすごく寂しがるってこと」






 どうせ遅かれ早かれ豪炎寺のサッカーは見られなくなるのだが、こんな幕切れだけは迎えたくなかった。
幼なじみの世界への挑戦を後押ししたくて、何か力になれるかもしれないと思い両親と別れてまでイナズマジャパンに参加したというのに、
彼がいないチームに残っては目的が達成できないではないか。
豪炎寺は風丸でも鬼道でもないのだ。
という、どこにでもいる一般女子中学生よりも少しばかり可愛い女の子の幼なじみは豪炎寺で、彼にしか務まらないのだ。
彼がいないイナズマジャパンなど、苺が乗っていないショートケーキも同然だった。






「アフロごときに負けるチームのコーチになった覚えないから、私」
「相変わらず駄目なんだ、アフロディと。お見舞いにも行ったって聞いてたから仲直りしたのかと思ってた」
「あのアフロ、快気祝いの1つも寄越さなかったのよ。犬猿の仲にも礼儀ありって知らないの、もう!」
「親しき仲にもだよって言いたいけど、やっぱり怖くて俺から近づけない・・・!」
「無理しなくていいよ緑川。今日はそこらじゅうに地雷が落ちてるから危険だ」





 諺マニアの口が、今にも言葉が飛び出してきそうなほどにもぞもぞしている。
ヒロトは緑川を急かし、フィールドへと避難した。







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