豪炎寺とは、準決勝の対戦相手となる秋葉名戸中サッカー部と自チームを見つめ言葉を失っていた。
にこやかな笑みで写真撮影に応じているメイド服姿の秋と春奈に、ひくひくと頬を引きつらせている同じくメイドの格好をした夏未。
試合前だというのに、暢気にゲームをしたりマンガを読んだりフィギュアを弄っている秋葉名戸中サッカー部員たち。
円堂たちの表情も心なしかぎこちない。




「・・・秋ちゃんたちめちゃくちゃ可愛いけど、なんであれ・・・?」
「俺に訊くな」
「あ! あなたもマネージャーの方ですかぁ?」
「いえ違います、私はただのこれのお守りです」




 メイド服片手に現れたメイド集団に言い寄られは即答した。
あれを着るつもりはさらさらない。
マネージャーではないのだし、着る必要はないはずだ。
でもおと食い下がるメイドにごめんねと一応謝っておく。
さて、ベンチに向かうとするか。
一足先にベンチへと歩き出している連れの後を追うために歩き始めると、今度はがしっと腕を掴まれる。
今度は何だ、しつこい女は嫌われるって教えてやろうか。
くるりと振り返ったは、腕を掴んだ相手がメイドではなく雷門のジャージを着た少年だったことに安堵した。
良かった、助けてくれるのだろう。
の期待は、少年の歓喜の声で綺麗さっぱり消し飛んだ。




「見つけましたよさん! イケメン幼なじみがいて、でも彼には正体を隠して夜な夜な魔女っ子として悪と戦うツンデレヒロイン!」
「人違いですっていうかちょっと修也! なんか変な子に絡まれた!」
「そうですその調子です! さぁ、早くデレて下さい、さあ早く!」
「ちょっと何なの、さっきからわっけわかんないことばっか抜かして馬鹿にしてんの!?」
「ああ、これぞまさしくツンの真骨頂! ・・・しかしデレがないのがいけませんねぇ。手っ取り早くこれに着替えて下さい」




 どこから現れたのか、一度退散したはずのメイド集団がの身体をぐいぐい更衣室へと押していく。
もうやだ帰るこんなとこ!
の悲鳴に豪炎寺が振り返った時、既に彼女の姿はなかった。
































 視線が体中に突き刺さる。
熱烈な視線と共に荒い息遣いも聞こえるのは気のせいではあるまい。
メイド集団にやりたい放題されて現れたのご機嫌はすこぶる悪かった。
しかし、そのむすっとした表情ですら萌えると言われてしまってはどうしようもない。



「わぁ、ちゃん可愛い! どうしたのそれ、すごく似合ってる!」
「理解不能な事ばっかり喋るそこの眼鏡とメイド軍団に襲われて・・・」
「眼鏡ではありません、目金ですよさん! マジカルプリンセスシルキーナナのコスチュームが似合う子はそういないのですから、もっと喜ぶべきです!」
「だからってさあ・・・・・・。はぁ、今日来なきゃ良かった」




 のぼやきに夏未も同調する。
スカート丈はやたらと短いし首元は寒いし変なステッキは握らされているし、これならばメイド服の方がまだましだった。
それもこれも悪いのはすべて我が幼なじみだ。
あれが怪我さえしなければ、今日はいつものようにこっそり客席で観戦できたのだ。
おまけに先程も無視をして助けてくれなかったし、そこまで冷たい人間だとは思わなかった。
暑苦しいのは技だけだとか、日常生活においてはまったくもって意味を成さない。




「でも、意外とその格好も似合ってるからそんなに落ち込むなよ。そういうの好きな奴もいるみたいだしさ」
「半田先輩、どうしてさんの事もっと素直に可愛いって言えないんですか!」
「あーもういいのいいの春奈ちゃん。ほら、相手の視線が私に釘付けになってる間にとっとと勝ってきちゃいなよ」
「そうだな! よーしみんな、油断はせずに頑張ろう!」



 円堂の気合いはどこへやら、雷門中サッカー部にとっての前半は惨憺たるものだった。



































 今日ほど、ボールのキープ率が悪い雷門イレブンを見たことはない。
ゆるゆるだらだらしているとはいえ、これが準決勝まで勝ち上がってきたチームの実力なのだろうか。
ボールを奪わないことには点数も入れられない。
どうしちゃったんだろうねぇと、は秋たちと顔を見合わせていた。




「うーん・・・。春奈ちゃん、尾刈斗戦は後半に点入れたの?」
「あっ、はいそうです! それが何か・・・?」
「前半の動き見てる感じじゃゴールネット揺らすつもりなんてなかったみたいだから、後半勝負なのかなあって」
「言われてみればそうだったかも・・・」
「それにさあ、あっちって目金くんみたいなのが11人いるんでしょ。修也みたいに体力あり余ってる筋肉バカならともかく、インドア系サッカー男子なら短期決戦しそうじゃん」



 でもわかんないんだよねぇと呟き、は豪炎寺を顧みた。
こういう時サッカー経験者がいると助かる。
惜しむらくは、既に試合が始まっていて、なおかつ経験者が試合に出場できない状況だということだが。



「修也と染岡くんみたいに点取る人がわかりやすくないんだよね。しかも、前半見ても誰がどの役割果たしてるのかぴんとこなくって。修也は誰だと思う?」
「前線とは思うが・・・」
「てことは連携技かなぁ。・・・あ」



 言った矢先から連携技で1点を先取される。
すごいねあのヘディングってかバットと感嘆の声を暢気に上げているを、夏未はぎょっとして見つめた。
言っていることが見事に的中している。
先日のサッカーサイボーグのデータ分析よりもはっきりとしている。
顧問の冬海よりもよほどの方が監督らしい。
ふわふわとつかみどころがないのが少々苦手だが、サッカー部のためにはは必要だ。
夏未の中での評価が急上昇した。




「でも・・・、どうしてシュートが入らないんでしょう」
「さあ・・・、だってここからじゃゴール遠くてよく見えないもんなー・・・」
さん、あなたまでそんな弱気な事を言ってどうするの!」
「いや雷門さん、私にキレられても困るんだけど・・・。なんかでも、目金くんがやる気出してきたから平気じゃない?」



 オタクが考えていることはオタクにしかわからない。
オタクのサッカーなら同じオタク魂を持つ目金が一番理解していそうな気がする。
結果が出ていないのでまだなんとも言えないが、今日の目金は少しだけ凛々しく見えるだけではないか。
少なくとも、松葉杖に包帯といういでたちの幼なじみよりも戦力になることは間違いない。



「目金くんは絶対にやだけど、図書館が似合う文化系男子ってのもいいよねー」
「またまたぁ、さん、豪炎寺先輩いるのに移り気ですよ」
「音無、やめてくれないか」
「そうそう、修也とはそんな関係じゃないから早とちりはやめてね」



 目金の決死の必殺技が成功し、雷門が同点に追いつく。
ゴールを移動させるというサッカー一筋のプレーヤーだと思い浮かびもしない荒技を見事打ち破り決勝へと駒を進めたイレブンたちを、は笑顔で出迎えたのだった。






マジカルプリンセスシルキーナナの設定なんて知らない知らない知らない






目次に戻る