部屋に監禁したり命令で拘束したりと、縛りプレイが好きなだけの変態監督だと思っていたが、ライオコットののびのびとした気候に癒され改心に成功したらしい。
試合前日にもかかわらずフリープランを打ち出してきた久遠の粋な計らいに、はチームを放り出し病院へと向かっていた。
旅行保険に加入しているので、旅先で病院にかかった費用は保険金とやらが下りるらしい。
それなりの金額を払って保険に入ったのだから、もらえる治療費はもらっておこう。
実は気になっていた豪炎寺たちの必殺技も完成したようだし、ここはとりあえずフィディオ以外に知られる前に腕を治してもらわねば。
ライオコットホスピタルを訪れたは、怪我人でごった返すロビーでひたすら雑誌を読み漁っていた。
さすがはサッカーアイランドだ、病院にもサッカー雑誌ばかり置いてある。
きっとどこかに鬼道のグラビア特集が載っている。
そうでなければ、あの時ちらと見た鬼道のそっくりさんとは出会わない。
は英語日本語言語を問わず、とにかく鬼道ただ1人を探していた。
かれこれ5冊目に突入しているのも、すべては病院が混んでいるからだ。
今日が終日フリータイムで良かった。
これは確実に、3時間待ちの5分治療コースまっしぐらだ。
ちなみに、既に3時間近く待っている。





「鬼道くんどこにもいないし。どこもかしこもフィーくんばっかでこれはこれでいいけどさー、風丸くんもいていいじゃーん」




 は写真で笑顔を浮かべているフィディオを見つめ、鞄の中に仕舞っていた携帯電話を取り出した。
ストラップを様々な角度から観察するが、これ以上の昔の思い出は何も浮かばない。
イニシャルとやらも探すが、数年前に気付いたいつついたのかもわからない傷のおかげでよくわからない。
おそらく、現物をフィディオに見せるのが一番手っ取り早い方法なのだろう。
私はフィーくんの幼なじみかどうか確かめてと言うのが最も確実なのだ。
しかし、それを言うにはこちらのプライドと恥じらいが高すぎた。
疑問を解明したいのか、うやむやのままにしておきたいのか、何をやりたいのか自分でもよくわからなかった。




さん、5番診察室へどうぞ」
「はー『さて、急遽試合変更となった日本代表イナズマジャパンとアルゼンチン代表ジ・エンパイアの試合がここ、ヤマネコスタジアムで・・・』・・・へ?」




 診察室へ向かうべく腰を上げたは、サッカー専門チャンネルに映し出された豪炎寺と風丸の姿に間の抜けた声を上げた。
診察室へ行くことも忘れ、画面の中のイケメンたちを凝視する。
なぜ彼らが試合会場にいるのだろう。
試合は明日で、今日はフリータイムだったはずだ。
夢なのか。幻を見るほどに腕は痛くないのだが、幻でないのならばこれは現実でしかない。
院内に、さんと急かすアナウンスがもう一度流れる。
3時間待ったのだから診てもらいたい。
しかし、湿布を貼りさえすれば治る捻挫よりも試合の方が大切だ。
画面を見る限りでは円堂や鬼道、佐久間や不動たちの姿はない。
当たり前だ、彼らは今頃フィディオたちチームオルフェウスとイタリア代表決定戦を戦っている。
今のイナズマジャパンには、正GKもゲームメーカーもいないのだ。
無茶だ、戦いにならない。
は時計とテレビに表示された試合開始時刻を交互に見比べた。
走って、いや、また監督にツケで払わせてタクシーで行けば終了までには間に合うか。
病院はまた今度、4時間でも5時間でも待てばいい。
は病院を飛び出すとタクシーに乗り込んだ。

































 豪炎寺たちは、突然告げられたアルゼンチン戦の日程に言葉を失っていた。
明日だと思いそれに向け調整してきた試合が、あと3時間で始まるという。
何かの嘘だろうと思い関係機関に問い合わせたが、情報に誤りはないらしく試合は始められるらしい。
円堂も鬼道も、監督や響木すらいない中どうやって戦うというのだ。
豪炎寺は自然とチームをまとめていた風丸へ視線を向けた。




「どうする、風丸」
「ああ・・・、行くしかないだろ」
「キャプテンたちはまだ帰って来てないのに試合なんてできないでヤンス!」
「試合に遅れるわけにはいかないだろう。それに円堂や監督たちは必ず来る」
ちゃんは? ちゃんもいないんだけどどこにいるか知らない?」
「出かけるとは聞いたがどこに行ったのかはわからない。連絡してみる」
「それが、さっきから電話してるんだけど電源切ってるみたいで繋がらないの。何かあったのかしら・・・・・・」





 不安げに手を胸に押さえる秋を見つめ、豪炎寺は自身の携帯電話を取り出した。
アドレス帳の一番に登録されているの番号を鳴らすが、秋が言うとおりコール音すら鳴らない。
マナーモード止まりで滅多に電源を切ることがないの携帯電話がうんともすんとも言わない。
何かあったのだろうか。
昨日から鬼道や不動のことで悩んでいて、更に夜には幼少期の友人についても尋ねられた。
何かがあったから悩み、そして10年もの昔の話を引っ張り出してきたのだ。
今、はどこにいるのだろう。
無事でいるのだろうか。
影山が絡めば被害者になりやすい驚異のとばっちり率100パーセントを誇るだから、その他のことでもとばっちりを受けないとは限らない。
来る者拒まずの寛容で考えなしの精神がいけないのだ。
豪炎寺は、消息不明となったを案じているのか怒っているのかわからなくなってきた。





「監督が試合中に俺らのためになることをやった覚えはないからいなくてもそう問題はなさそうだけど、鬼道くんだけじゃなくてさんもいないのはちょっとまずいんじゃないかな」
に頼りすぎだ。・・・だって何もかもわかるわけじゃない。俺たちは今できることをやるだけだ」
「豪炎寺の言うとおりだ。円堂たちは絶対に来てくれる。も気付けば来てくれる、俺たちのファンだからな」





 ファンはね、風丸くんがいるとこならどこにだって来るんだよとあの時は言ってくれた。
に依存しすぎるのは良くないとわかっているが、ファンの力は絶大だからついつい期待してしまう。
風丸は不安げな表情、腹を決めた表情を浮かべているいつもよりも4人ほど少ないイレブンを見渡し大きく頷いた。
今日の主役はやや少ないが、輝きは全員でカバーするから問題はない。
何度も試合をやればこういう日だってあるだろう。
前を昔かないのだから迷う必要はない、前を見よう。
円堂、キャプテンになるのはまだ2回目で初心者マークつけたいくらいだけど、今日は俺に大事なキャプテンマーク貸してくれ。
試合会場となるヤマネコスタジアムへ到着した風丸は、腕につけたキャプテンマークをぎゅうと握り締め空を仰いだ。








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