無駄な時間を過ごしたとは思っていないが、とても申し訳なく、そして悔しいことをしたとは思っている。
フィディオたちオルフェウスとミスターKこと影山率いるチームKとのイタリア代表決定戦に助っ人として参戦し見事勝利を収めた円堂たちは、船着場のテレビでつい今しがた始まった
イナズマジャパン対ジ・エンパイアの試合を見守っていた。
あと少しというところで間に合うはずだったヤマネコスタジアム行きの船に乗り過ごした時は、ライオコットへ来て一番の衝撃を受けた。
自チームの試合に怪我をしたわけでもないのに出場できないということが辛かった。
突破口を見出せず、パスをカットされ続け苦戦を強いられている豪炎寺たちを見ることが辛かった。
円堂たちと共に観戦していたフィディオがぽそりと呟いた。





「何だ、このサッカーは・・・」
「まずいな、攻撃が噛み合っていない・・・。何としてもディフェンスを破らなければならない、その思いが強すぎてみんなの動きがばらばらになっている」
「それは、今のイナズマジャパンに司令塔がいないから・・・?」
「それだけではないと思うが・・・」
「でも、このくらいのちぐはぐさならならすぐに気付くだろ。他の奴らは無理でも、豪炎寺と風丸の限定地獄耳ならの声聞こえるはずだ」
ちゃん? どうしてちゃん?」
がただ可愛くて明るいだけだと思ったら大間違いだ。は天才・・・、いや、奇才だ」
「・・・ああ、だからご意見番・・・」





 天才ゲームメーカーと名高く、先程の試合でも素晴らしい指示を出し相手を翻弄した鬼道をして奇才と言わしめるのだから、はよほど戦術眼に優れているのだろう。
がサッカーに詳しくなったのもきっと、彼女が目をかけてやまない幼なじみのおかげだろう。
恋敵に他ならない幼なじみのおかげでと出会えたという事実が、フィディオの背に重く圧し掛かる。
自分との間に幼なじみという強大な壁が立ちはだかっているようにしか思えなかった。





「・・・なあ」
「何だ不動」
「影山に巻き込ませたくなくて追い払ったちゃんは、この調子だと試合会場にはいないだろ。じゃあ、俺らの女神様はどこにいるんだよ」
「それは・・・」
「電話、さっきから電源切られたままなんだよ。試合の繰り上げも影山の仕業だとしたら、ちゃんの才能知ってるあいつにとってちゃんは?」
「・・・・・・」
「・・・信じてくれてる奴酷い目に遭わせると、こうなるんだな・・・」





 今度からはもう、天邪鬼ごっこはやめようと思う。
傍にいてほしい時は嘘をついたり見栄を張ることなく、ぎゅっと腕をつかんで引き寄せよう。
これでいい、これが一番正しい道だと思い込み誰も彼も無差別に傷つけて、更なる悲劇を誘発するなんて悲しすぎる。
ごめんちゃん、もう酷いこと言わないから無事でいてくれ。
不動はジ・エンパイアの素早い攻撃についていけず次々と失点を重ねるチームメイトたちを見つめ、両手を組んだ。


































 鬼道や不動の不在が、これほどまでにチームに悪影響を与えるとは思わなかった。
司令塔や円堂がいないという不利と覆そうと躍起になるのはいいが、誰もがそう思っているため先に突っ走りすぎて他の選手のフォローができていない。
結成したての新米チームのように我が強く滅茶苦茶で、世界を相手に戦うチームとしての体裁をなしていない。
鬼道ほど鋭くもなく戦術眼にも恵まれていないが、宇宙人時代からアクの強い同僚を相手にしていたおかげで身についた世話焼き根性が上手い方向へ働いて
一応のまとまりは作り出した。
しかし、そこまでだった。
まとまりは作れるが、そこから先現状をどうやって打破するのかといった作戦は思い浮かばない。
ヒロトは牙を剥いたジ・エンパイアの猛攻に成す術もなくかき乱され、2失点を重ねた現実に絶望しかけていた。
勝つためには点を取らなければならないとわかっているのに、後半になり幾許かの時が過ぎても突破口を見つけられないでいる。
監督は完全に責任放棄しているし円堂たちもやって来ない。
立向居の魔王・ザ・ハンドが完成したというのに、キャプテンだった風丸は負傷でベンチへ下がった。
戦意喪失になる要素はそこらじゅうに転がっていた。





「何度やってもテレスの正面に来てしまう・・・。これじゃ、誰が何度やってもテレスに止められるだけだ・・・」
「やっぱり無理だったったス、キャプテンも鬼道さんもいないのに試合なんて・・・」
「・・・せっかく必殺技できても、近付くこともできないんじゃ打てませんね・・・」




 もう駄目だ、勝てない。
勝とうという気概さえ消し飛びそうだ。
顔を伏せ自らの無力感に打ちひしがれていた選手たちの耳に、叱咤する可憐な声が飛び込んできた。





「みんなどうしたんですか! まだ試合は終わってないんですよ、それなのに諦めてしまうんですか!?」
「あのディフェンス崩せないんじゃ・・・」
「だったら何ですか! 何があっても諦めない、それがイナズマジャパンのサッカーじゃなかったんですか!」
「そうは言うけど・・・」
「ちょっと壁に当たったくらいで落ち込んで、そんな心構えでちゃん好きとか言ってるんですか!
 私、皆さんみたいに男の子じゃないからちゃんに恋愛対象として見てもらえなくて、皆さんがすごく羨ましかったのにやっぱり男なんて最低です!」
「お、落ち着いて冬花さん」
「いいえ落ち着きません! 今ここにちゃんいたら絶対にこう言ってます、「なぁにしけた顔してんの、せっかくのイケメンが台無しでもったいなぁい」え・・・?」





 不意に聞こえてきた間延びした言葉に、ヒロトたちは顔を上げた。
ベンチから立ち上がり、ライン際まで出向いていた冬花がゆっくりと声のした方を振り返る。
嘘じゃない、幻聴でも幻覚でもない。
豪炎寺がと小さく名を呼ぶ。
走ってよれよれに乱れた髪形が鬱陶しかったのか、無造作に2つ結びにしていた髪を解くとは口を開いた。





「待たせたな」





 美少女の喝も入って闘魂注入されたところで、アリの巣潰しに行こっか。
まるで近所の公園に誘うかのようなお気楽さで宣言しとびきりの笑顔を見せたの顔が、テレビにアップで映し出された。







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