扱いが手荒なことは知っている。
こちらを幼なじみ以外としては、荷物持ちとしか認識していないとも薄々気付いている。
週末のサッカー観戦の時も、弁当その他が詰まった大して重くもないサブバックを筋トレと称され持たされていた。
一緒に買い物に行けば店内では当然買い物籠はこちらの手にあり、外でも当たり前のように牛乳その他が入ったエコバックを持たされていた。
に持たせようとは思わないが、せめて私が持つよ的な素振りなり言葉なりは欲しかった。
修也が持たなくて誰が持つのとは、間違っても口に出してはいけない本音だと思う。
本当に俺の幼なじみは遠慮というものを知らない。




「荷物持ちなら俺よりも壁山や染岡の方が適任だとわからないのか?」
「修也に筋トレさせてあげようっていう腐れ縁オプションがわかってないわけ?」
「これはオプションじゃなくてただの使い走りだろう。俺はそんなオプション認めた覚えはない」
「あ、じゃあこれはオプションじゃなくて初めからついてるやつだ」
「・・・もういい。他に寄る所はないのか? さっさと済ませて俺は早く練習に戻りたい」
「フィーくんたちの試合観て気合い空回りして、監督からグラウンド追い出された癖に」





 紙袋を両手に抱え隣を歩く豪炎寺の脇腹をちょいとつつくと、豪炎寺が眉をしかめやめろと非難の声を上げる。
もしかして彼も腰や脇腹が弱かったりするのだろうか。
新たな弱点の発見を裏付けるべく尋ねてみると、と一緒にするなと返ってくる。
この男、なぜこちらの弱点を知っているのだ。
いつ知ったのだ。
知られるようなことをされた覚えはないのだが、まさか、寝ているうちに研究されたのだろうか。
嫌だ、気持ち悪い。
は豪炎寺から2歩分ほど離れると気持ち悪いと叫んだ。




「なんで修也がそんなことまで知ってんの! やだ!」
「一緒に寝たことあるだろう、その時に知った」
「はあ? そんなピンクなことやったことなぁ・・・いと思うけど、んん?」
「宇宙人に襲われた日のことだ。俺がの家に泊めてもらったのを覚えてないのか?」
「・・・ああ、あの時かなるほど」
「それよりもピンクなことって何だ。誰と何をやったのを思い出したんだ」
「ピンクなんて私知らなーい。・・・あ、円堂くんと冬花ちゃん見っけ」





 ともすればセクハラとも受け取りかねない豪炎寺の質問を適当にかわすと、は筋向いを歩く円堂と冬花を発見し指差した。
2人並んで談笑しながら歩いている姿は、傍から見ればただの仲良しカップルだ。
冬花も可愛くておそらくはいい子なのだから、幼なじみ(仮)らしい円堂あたりに目をつければいいものを、なぜこちらにアタックを仕掛けてくるのだ。
冬花の美的センスは間違っていないと思うが、方向性はおかしいと思う。
何が将来は一緒にオランダに住もうねだ。
春奈から冬花の真の目的を聞かされた時は怖気を奮った。
何が起こるかわからない夜が怖かったので、不動の部屋に引き篭もったくらいだった。
ああ見えて面倒見が良くて優しい不動は怖がるこちらを案じてか、頼んでもいないのに寝ずの番を務めてくれた。
朝になれば何も起こらなくて良かったなと言ってくれたし、また何かあれば不動に頼ろうというリピート願望も生まれてくる。
は豪炎寺と共に円堂たちを見やった。





「冬花ちゃん、円堂くんの幼なじみカッコ仮なんでしょ」
「らしいな。俺はてっきり円堂は風丸と幼なじみなのかと思っていた」
「風丸くんは小学校からのお友だちだって。見た目だけは可愛い幼なじみカッコ仮がいるとか円堂くん隅に置けなぁい」
「うちと似たようなものだろう」
「えー、なんかそれじゃ私が円堂くんとことどっこいどっこいみたいじゃん。今度幼なじみサミットでもやっておいでよ、でもって優勝してこい」
「意味がわからないことを言うな。だいたい、どうやって戦って何をしたら勝てるんだ」
「可愛い可愛い幼なじみをみんなの前でベタ褒めすればいいだけ。玲名ちゃんとこはまあ、基山くんの完全一方通行だから目じゃないけど最大のライバルはやっぱり秋ちゃんか・・・」





 可愛くて明るくてサッカーも好きでマジ天使呼ばわりされてて超可愛くて、後は何があるかなあ。
恥じらいや謙遜を知らないのか、次々と自らのチャームポイントを挙げ始めたを見下ろし小さくため息をつく。
もはや、列挙された長所とやらに口を挟む気にもなれない。
ねぇ、他に何があるか10個くらい言ってみてよと、一歩先で立ち止まっていたが豪炎寺を顧みる。
無邪気にこちらを仰ぎ見ているの背中に突っ込みように猛スピードで走ってきた大型トラックを視界に入れ、豪炎寺は反射的にを抱き寄せ背を向けた。
えっ、えっと腕の中で声を上げるをひときわ強く抱き締める。
恐れていた事故には遭わなかったが、トラックが突っ込んできた時は息が止まるかと思った。
豪炎寺はもがくを解放すると、筋向いにいた円堂と冬花を思い出し慌てて円堂たちへと視線を巡らせた。
横転したトラックを一足早く目にしたが、トラックの隙間から見えたらしい冬花を発見し冬花ちゃんと叫んだ。

































 車に轢かれたわけでもないのに倒れるとは、人騒がせな子だとは思えない。
は先日も訪れた病院の待合室のソファーに腰を下ろし、冬花の容態を案じていた。
難しいことも冬花の秘密も過去も知らなければ興味もないが、冬花が倒れてしまったのにはやんごとなき事情があるらしい。
いつも何を考えているのかわからず気味が悪いだけの久遠も血相を変えていたし、今こそ病室から追い出されたが事情を聞かされたらしい幼なじみ(仮)の円堂の表情も暗かった。
ここにいても仕方ないから帰ろうと促され宿福へ帰る道すがら、円堂はぽつぽつと語り始めた。





「冬っぺ、やっぱり俺の幼なじみだったんだ。俺、何年も前のことだけどやっぱり稲妻町で冬っぺと会ってた」
「冬花ちゃんは覚えてないみたいだけど」
「・・・覚えてなくても昔は変えられないんだ。今は冬っぺ思い出せてないけど、いつかきっと思い出してくれるって俺は信じてる」
「なるほど」




 サッカーやろうやサッカーって楽しいよな、サッカー好きだなどサッカーのことしか口にしない円堂は時々、まともなことを言う。
つい最近鬼道に似たようなことを言った気もするが、言うのと言われるのとでは考え方がまるで違う、
誰だって過去を背負っているのだ。
過去が白かろうと黒かろうと、付き合っていくしかないのだ。
だから彼は今もあれを持っている。
何年経っても円堂のように幼なじみの存在を忘れず切なくなるほどひたむきに向き合い、そして苦悩している。
苦悩させているのも恋慕われているのも同じ人物で、自分だ。
悩ませているとわかっているのに今でも言えず、更に苦悩を深いものにさせている。
たった一言、いや、言葉が思い浮かばなくてもストラップさえ差し出せばいいのだ。
ストラップだけですべてを理解してくれるとはわかっていた。





「円堂くん円堂くん」
「何だ?」
「幼なじみが自分のこと忘れてた時、ショックだった?」
「そうだなあ・・・、ショックじゃないって言ったら嘘だ、やっぱちょっとがっかりした。でも、ショックはショックでも友だちに会えたってことには間違いないから嬉しかったぜ!」
「嬉しい? 覚えてなくても? 嘘って言うか騙してても?」
、何言ってるんだ。俺は忘れたことはないぞ」
「修也のことじゃない。どうなの円堂くん」
「嬉しいよ。俺の答えが不安ならそうだなー・・・、秋にも訊いてみたらどうだ? 秋には土門や一之瀬のことあるし、俺よりも上手く教えてくれそうだぜ」
「・・・いや、円堂くんで充分。そっか、嬉しいのかあー・・・。・・・フィーくんも喜んでくれるかな・・・」
?」




 騙しているつもりは毛頭ないが、いつまでもうやむやにしておくつもりはない。
タイミングがつかめなくてずるずると引き延ばしているだけだ。
何かを決心したのか、一人小さく頷いたを豪炎寺が不安げな瞳で見つめた。






そのうち本当にサミットとかやりかねない






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