幼なじみに恋する幼なじみとは、相手の気を引くためならば手段は選ばないらしい。
一之瀬はまだ気の利くよくできた幼なじみだと思っていたが、それはただの勘違いだったようだ。
は今にも頽れてしまいそうな危うい表情でベンチに座っている秋を見つめ、むうと眉を潜めた。
いつも落ち着いている秋のテンションを劇的に変化させることができる人物はそうはいない。
一之瀬だ、一之瀬ともしかしたらプラス土門で秋に何かしでかしたに違いない。
2人もいるのになんと使えない男たちだ、これではうちと同レベルの低クオリティではないか。
は一之瀬と土門の信頼ランクを2段階ほど引き下げた。




「秋ちゃん、大丈夫?」
「え、あ、うん・・・」
「どうせ一之瀬くんが何か言うかするかしたんでしょ」
ちゃん知ってるの!?」
「へ? いや、何も知らないけどさっきから秋ちゃん一之瀬くんしか見てないから」





 目は口ほどにものを言うとはよく言ったものだ。
なんでもないよと言い張っているが、秋の目は話している最中もちらちらと一之瀬へと注がれている。
は秋につられ一之瀬を見つめた。
特におかしなところはないように思うが、秋の目には今の一之瀬は違和感の塊のように見えているのだろう。
は小さく息を吐くと、秋の顔にそっと両手を添えた。
慌てた声でどうしたのちゃんと問いかけてくる秋の頭が一之瀬へ向くように動かす。
はにっこりと微笑むと、ちゃんと見てなきゃと答えた。





「見たい時に見たい人を見るって教えてくれたのは秋ちゃんでしょ? 一之瀬くんのこと気になるならちゃんと見といた方がいいよ」
ちゃん・・・、ちゃんはやっぱりみんなのことよく見てる、ありがとう」
「どういたしまして。お互い手のかかる幼なじみを持つと大変ですねえ」
「ふふっ、そうですね」






 片や手間と面倒と心配ばかりかける甲斐性なしのダメンズの代名詞。
片や、どちらかといえばこちらが迷惑をかけている王子様のような99パーセント幼なじみ。
今日はまだ豪炎寺を見ていられるが、オルフェウス戦ではどうなるかわかったものではない。
は秋と並んで腰かけると、イナズマジャパン対ユニコーンの試合を観始めた。
開始早々、一之瀬がおかしいということにすぐに気付く。
なるほどこれは、一之瀬がとんでもなくやる気で恐ろしい。
ユースに選ばれるほどに実力を持つと言われるフィールドの魔術師の本気を初めて見た気もする。
日本にいた頃は手加減をしていたのかと思わず疑ってしまうほど、一之瀬は強かった。





「これだけエンジンフル回転すれば、そりゃ記憶に残る試合にもなるわ」
「テレビで見た時よりもレベルアップしてる・・・。一之瀬くん・・・」
「一之瀬くん、この試合にコンディションばっちり合わせてきたみたいに見える。ていうか円堂くんのあれ、もうちょっとどうにかしないとまずいんじゃない?
 異次元どころかまだ三次元でぐずぐずしてるじゃん」






 レベルアップしたとはいえ、かつての仲間だからプレイスタイルは熟知しているはずだ。
強くなろうが新必殺技を覚えようが、その人の癖というものはそう変わらない。
一之瀬がヒールリフトやダンスのようなドリブルを駆使することはわかっていただろうに、それでも止められなかったのは彼の成長が円堂たちの予測を上回っていたからだろうか。
確かに一之瀬は強い。
強いが、イナズマジャパンも世界の荒波に揉まれて強くなった。
だから風丸はスピードチャージで一之瀬からボールを奪えるし、鬼道の真イリュージョンボールは相手を翻弄している、
豪炎寺の爆熱ストームも、少しずつではあるが炎の勢いが強まっている。
一番好きなのはファイアトルネードだが、他の技であろうと強くなるのであれば気にしない。
好きだからといってファイアトルネードで点を奪えるほど、世界はロマンチックでもドラマチックでもない。





「土門くんも一之瀬くんに負けないくらいノリがいいからさあ、一之瀬くんの気迫が土門くんにも移ってる」
「土門くん・・・。・・・ねぇ、ちゃん」
「ん?」
「もしも、今日を最後に豪炎寺くんのサッカーしてる姿が見られなくなったらどうする?」
「どうもしないよ」
「え? 何もしないってこと?」
「そ。次があってもなくてもどうせ私はサッカーしないし、こうやって修也を見てるだけ。応援と観戦以上のことを修也も求めてないだろうし、別に最後だからって気負わなくていいんじゃない?」
「応援と観戦・・・」
「一之瀬くん、秋ちゃんが見てるってだけで相当テンション上がってると思うのよ。一之瀬くんわかりやすく秋ちゃんバカだもん、扱いやすい幼なじみで羨ましいったらありゃしない」





 見ていたらもっと周りを見ろと叱られ、周りを見ていたら俺を見ろと叱るどこぞの幼なじみとは大違いだ。
鬼道との1対1の攻防を交わした一之瀬が、マークやディランとの速いパスワークで連携し必殺のペガサスショットを放つ。
さすがに2度目となれば球筋が読めたのか、円堂のイジゲン・ザ・ハンドが追加点を許さない。
守備は相変わらず崩されがちだが、守ってばかりではなくそろそろ点を取りにいかねば。
は風丸と、ついでに吹雪へと視線を向けた。
熱烈な視線に気付いたのか、風丸がくるりとベンチを顧みる。
風丸と目が合ったことにときめきにやけそうになる顔を懸命に引き締め、こくんと大きく頷く。
今こそあれを見せつけ、試合の流れを変えるべきだ。
点を入れるのは豪炎寺たちFW陣だけではないと知らしめるのだ。
の意図を的確に読み取ったらしい風丸が、吹雪となにやら話し始めた。






「秋ちゃん、さっきの答えにちょっと追加していい?」
「いいけど・・・」
「最後の試合になるんだったら、思い出になるようないい試合にしたいな。今の私のポジションならそれもできそうな気がするんだ」
「できるよ、ちゃんなら。・・・私も見てる、今日を大切な思い出にしたいし、最後にさせないように祈ってる」
「出た、乙女の祈り。トライペガサスの時から乙女の祈りは秋ちゃんにしかできない必殺技だもんね」
「もっと昔、一之瀬くんや土門くん、西垣くんとやってた時からできたよ乙女の祈り」
「わ、じゃあもうG5くらいになってるよ!」





 私も乙女の祈り覚えたいから、今度やり方教えてー!
ちゃんは背中のおまじないがあるから充分だよ。
じゃあ2人で足したら勝ちは決まったようなもんじゃん!
祈りとおまじないの超融合を企てるの目の前で、スピードとスピードを合わせた風丸と吹雪の新必殺技ザ・ハリケーンがユニコーンのゴールに突き刺さった。







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