取られたら取り返す、この行為をもう何度見ただろう。
は後半へ入りますますヒートアップするシーソーゲームから目を離せないでいた。
前半は情緒不安定だった秋もハーフタイム中に何かあったのか、後半はきりりとした表情で試合を見守っている。
これまでもディラン曰くの数々のサプライズを見せつけられてきたが、後半に入ってからお披露目してきたビックサプライズには驚かされた。
他の選手は決して中に入れずDF2人のみをペナルティエリアで取り囲み立て続けにシュートを浴びせる必殺タクティクスは、閉じ込められた綱海と壁山を疲弊させるには充分すぎた。
ユニコーンもかなり体力をつけてきたのだろう。
そうでなければ、いかに攻め立てる有利な状況にいるとはいえこの必殺タクティクスは長くは続かない。
ここにも一之瀬の気迫が影響しているのかもしれない。
恐るべし一之瀬、彼がここまでサッカーに熱い男だとは今の今まで思いもしなかった。





「あっきー、あの囲みってカウンターされたら一発アウトじゃない?」
「結論はそうだな。あれだけ前線に固まって、しかも体力使っとけばそうカバーには行けないしな」
「攻められてるからってこっちがほいほい受け身に回ることないと思うわけ。攻めには攻めでいくってのもありだよね」
ちゃんの考えはなんつーか、いつも核心をクイズ形式で突くよな。でもって俺は、ちゃんの抽象的なクイズに答える役になろうか」
「あっきー頼もしいー。あ、小暮くんちょっとおいで」






 はくいくいと手招きすると、小暮を呼び寄せた。
突然の招集に明らかに戸惑っている小暮を安心させるべくにこっと笑ってみせると、小暮が小声で何だよぅと尋ねてくる。
なるほど、春奈から聞いたとおり小暮は恥ずかしがり屋さんの人見知り屋さんらしい。
慣れればなんてことないですよカエルにさえ気を付ければとアドバイスしてくれたので、とりあえずざっと小暮の体に緑の物体が付着していないか確認する。
良かった、ない。
は小暮の背中を、豪炎寺に対するそれよりも3分の1ほどの力に加減してぽんと叩いた。





「壮絶な人力遊園地のアトラクションの1つだと思ってダイブしておいで。大丈夫、さすがに土方くん小暮くんの頭はもがないと思うから」
「はあ!? な、な、何怖いこと言ってんだよ、頭がもげるって、はあ!?」
「大丈夫、ほら、そのためにもいつもは修也にしかしないおまじないやったし!」
「そこは喜ぶとこだぞ小暮。俺はされねぇからな、それ」
「なぁに、あっきーもやってほしいの? いってらっしゃいがいいって言ったから、私はてっきりあっきーは新婚さんプレイが好きなのかと」
「自覚があるなら結婚しよう、ちゃん」
「指輪用意して成人したら考えてあげるってんん? ・・・まあいっか、いってらっしゃいあっきーも」
「ああうん知ってた、どさくさ紛れに言ったところで伝わらないどころかスルーされるって知ってましたよ」





 知っていたから、なんとなく予想はできていたから傷ついていない。
予想通りすぎた展開にショックを覚えてなんかいない。
畜生、保護者代理なんて肩書きいらねぇんだよ、熨斗つけて返してやらあ。
ウルトライメージクイズには見事正解したもののこちらの質問には当然のようにパスされた不動は、悲しみとやるせなさをゲームメーク力に強制変換するとフィールドへと足を踏み入れた。





































 相談され、質問されるがままに答えていたが、実は一之瀬はこの試合の後で難しい手術を受けることになっていたらしい。
そうとは知らず、なにやら間の抜けたことばかり話していた気がする。
は円堂たちから一之瀬の真実を聞かされ、ここにはいない秋に申し訳ない気持ちでいっぱいになっていた。
秋の質問に対する答えは考えていたことそのままなので特に変えようとは思わないが、せめてもう少し頭のいい回答をすれば良かった。
あれでは秋も呆れただろう。
昔から修也に割と言われてたけど、ここぞという時に緊張感が足りてない子でごめんね秋ちゃん。
は秋の代わりに汚れたタオルなどを処理しながら、ふうと息を吐いた。





「はー、一之瀬くんってほーんと・・・」
「一之瀬くんがどうしたの?」
「わ、秋ちゃん! 一之瀬くんとお話しできた?」
「うん。一之瀬くん、試合には負けたけどすごく楽しかったって言ってた。今日の一之瀬くんすごくかっこよかった」
「集団リンチでボールいっぱい蹴って、攻めてたかと思ったらディフェンスであちこち走り回って、立てなくなるくらいまで頑張ったらそりゃ楽しいでしょ」
「またサッカーしたいって言ってた。サッカーするために手術受けて、また戻ってくるって。一之瀬くん、プロリーグのデビュー戦に私を招待してくれるのよ」
「何それ超かっこいい! 一之瀬くん秋ちゃん悲しませて心配させてダメンズに足突っ込んだと思ってたけど、土壇場の甲斐性すごい!」






 タオルを片付けながら、秋と顔を見合わせ笑い合う。
なんと素敵な招待状だろうか。
秋は一之瀬の招待に隠された真意に気付いていないようだが、それでも話を聞いているだけで嬉しくなってくる。
一之瀬のことは未だによくわからないが、彼もまた本当に心の底からサッカーを愛するサッカーバカなのだ。
そしてサッカーと同じくらいに秋のことが大好きで、好きなものは2つ足せばなお楽しくなると考えたに違いない。
あまりにも強引すぎる足し算だったが、嫌いではなかった。





「一之瀬くんたちがどんどんシュート打ったおかげで円堂くんもちょっとは打たれ強くなったし、土門くんが憎たらしいディフェンスばっかりしたから修也たちの突破力も上がったし、
 マークくんとディランくんはイケメンだしアメリカ戦いい試合だったね」
「みんな、戦うたびに強くなってる。初めはあんなに弱かったのに練習ってすごい」
「ほんとほんと。・・・ずっと見れてたらいいのに」
「イタリア戦に勝てば決勝トーナメントにも進めるから大丈夫だよ。・・・あ、そういえば一之瀬くんからちゃんに伝言」
「ほう?」
「『思い出作りもいいけど、思い出アルバムめくってばかりの奴の目も覚ましてやれ』だって。何のことだか私はわからないんだけど、ちゃんわかる?」
「いや全然。ったく、自分とこが片付いたからってすぐに偉ぶるんだから」






 言われなくてもわかっている。
一之瀬にアドバイスを受ける筋合いはない。
人の家の事情に首を突っ込まないでいただきたい。
フィディオのことは出会ってからずっと気になっている。
影山がオルフェウスの監督に就任したと聞いてからは、ますます彼のことを考えるようになった。
いつもよりもストラップを見つめる時間が格段に長くなった。
すべては、フィディオとの繋がりを見つけたいからだ。
記憶のほとんどが風化している今、彼との接点はストラップしか残されていないのだ。






「幼なじみなんて1人いれば充分だってのに、私なぁんで修也と幼なじみになっちゃったんだろ」
「たくさんいた方が楽しいよ。ちゃん、豪炎寺くん以外にも幼なじみいたの?」
「超イケメンでマジ紳士でどっこも悪いとこないめちゃいい男が1人」
「風丸くんは幼なじみじゃないでしょ、もう」





 それともそれは、ちゃんが期待してる豪炎寺くんなのかな?
何も知らない秋がおかしいそうに笑うのにつられ、も苦笑いを浮かべた。






ジ・イカロス覚えればマジ天使になれますか?






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