冬海バス事件(と呼ばれるようになった)の翌日、はまたもや夏未から召集を受けていた。
今回も拒否権はない理事長命令で、の機嫌はすこぶる悪かった。
しかも召集場所がサッカー部室とは、乙女の身体に汗臭さが染み込んだらどうしてくれるのだ。
は妙に落ち込んでいる部員たちを総無視して、夏未に用件はと尋ねた。




さん、あなた、監督になる気はない?」
「・・・は?」
「冬海先生の事は知ってるでしょ。本当はマネージャーになってもらおうとも思ったんだけど、あなたは監督向きね」
「雷門さん、私、現役中学生なんだけど。そうでなくても監督とか嫌に決まってんじゃない」
「しかし規約には監督の年齢制限は記載されていませんねぇ・・・」




 夏未の提案を後押しするように目金が言う。
いいかもしんないっスと賛成しかける壁山をちらりと睨みつける。
誰が監督になどなるものか。
もっと他に適任者がいるだろう、探せばどこかにたぶんきっと。
嫌だと重ねて言うが、夏未も諦めるつもりはないらしい。
このままではまた理事長命令を発動されてしまう。
夏未がぽそりと、できれば穏便に済ませたかったのだけどと呟く。
何が穏便だ、ここに連れて来た時点で既に強引だったではないか。
更に機嫌を悪くしていくを見て、豪炎寺は眉間に皺を寄せた。
怒って頑固になった時のほど扱いにくいものはない。
過去の彼女の言動から察すると、このままでは雷門を辞めかねない。
そうすることで厄介事を回避しようとするのがだった。
小学校のクラス会で劇をやった時は、どう見てもが一番可愛くてお姫様役にぴったりだったのに、駄々を捏ねたクラスの女子に辟易してあっさりと魔女役になっていた。
いつものわがままなら放っておくところだが、今日ばかりはを助けなければならない。
第一、を監督になどいろんな意味でさせられない。
帝国の、影山の魔の手に充分に対抗しうる大人でなければ、を危険な目に遭わせるだけだった。





「・・・俺はが監督になるのは反対だ」
「風丸くん?」
「だって、相手は何をしてくるかわかんない帝国なんだろ? を勝手に監督にしてもしも何かあったら、俺たち責任取れないじゃないか」
「俺も風丸の意見に賛成だ。が監督に向いていないのは俺が一番よく知っている」




 風丸と豪炎寺の主張に夏未がたじろぐ。
豪炎寺は円堂を顧みると、雷雷軒の親父はどうかと問いかけた。



「秘伝書のことも知っていたし、あの人なら監督もできそうな気がする」
「そういえばそうだったな! よし、早速頼みに行こう!」



 監督候補を見つけわいわいがやがやと騒がしくし始めた部員たちを見て、は部室をそっと出た。
あのまま嫌だと言い続けていたら、雷門中をやめて余所の中学へ転校していたかもしれない。
土壇場で助けてくれたあたりはさすがは腐っても幼なじみだ、よくわかっている。
やはり隠し事をしているのは気分が悪いし、明日にでもきちんと訊いて確認してみよう。
はそう決めると、今日こそは再放送のドラマを観るべく家へと猛ダッシュしたのだった。





































 数日後、は満面の笑みを浮かべている半田から監督就任の報を聞いていた。
新監督は元イナズマジャパンのGKを務めていた雷雷軒の店主響木だという。
あのメタボおじさんそんなにすごい人だったんだねぇと素直な感想を口にすると、メタボは酷すぎだろと叱られる。
別に貶したわけではないのだから、そこは笑い飛ばしてほしかった。



「次って帝国だっけ? 頑張ってね半田、修也も!」
「リベンジってやつだよなー。、来んの?」
「もっちろん。スタンドの特等席からばっちり応援したげる。なんなら横断幕も持っていく?」
「いや、あれはほんとに俺が悪かったから、いつもどおり応援してくれ・・・」



 でもすげえ応援する気じゃんと言われ、当たり前でしょと胸を張る。
帝国戦など、身内が戦わない限り観戦しようと思えない。
トップが悪かろうと、プレーしている選手の能力が高いことには変わりはない。
それににとっても、帝国学園はリベンジ戦だった。
オニミチに学生証を届けようとした時は融通の利かない警備員に追い返されてしまったが、試合観戦となれば堂々と入場することができる。
もう誰にも邪魔されないのだ。




、ずっと言いそびれていたが俺の家に忘れ物をしている」
「え、何かあったっけ?」
「秋葉名戸でもらってきたメイド服を早く引き取りに来い。故意に忘れていっただろう」
「うわ、早く引き取れよメイド服」
「半田の言うとおりだ」
「だってあれ荷物嵩張るし着ないし、夕香ちゃんにあげてよ。ひらひらしてるの好きだったでしょ?」
「夕香にあんなものは着せない」




 取りに来い嫌だ、捨てちゃってよもったいないだろうと互いに譲ろうとしない2人の間に割り込むことをやめた半田は、完全に部外者となって空を見つめたのだった。






平凡な生き方したいなら、それこそ半田に教えを請うべきですよ






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