の発破が影響した末の試合展開とは考えたくない。
の発言はあくまでも野次の1つで、カテナチオカウンターを発動させるきっかけになったとは思いたくない。
原因が何であれ、その出来事を境にがベンチから姿を消したとはもっと信じたくない。
豪炎寺はカテナチオカウンターの正面突破を図ったものの、見事にフィディオにボールを奪われたことを思い出し眉を潜めた。
あの時、フィディオは誰であろうと通しはしないと叫んだ。
気迫の籠もったプレイ中に叫ぶことはままあるので、それについては特段気にしていない。
問題は、すれ違いざまに言われた言葉だった。
ちゃんを返してもらうと言われた。
豪炎寺の脳内メモリで『』に該当する人物は、うるさくて喧しい幼なじみしかいない。
ちゃんと呼んでいたのは小学校低学年の頃までだったが、敬称はこの際気にしなくていい。
は試合前、男を上げるチャンスだと話していた。
オルフェウスに幼なじみがいるとも言っていた。
フィディオがの幼なじみだというのだろうか。
借りた覚えがないから返すものもないのだが、ある日突然消えてしまった幼なじみをこちらが手にしていたとなれば、向こうとしては奪われたも同然なのかもしれない。
ライオコットへ来てからのは、集団行動をかなりの頻度で抜け出し自由行動を満喫していた。
大好きなはずのおしゃれが嫌になり逃げだしたきり行方がわからなくなり、親善パーティーに遅れて来たこともある。
ふらりと出て行ったきり行方がわからなくなり、試合に遅刻してきたこともある。
決勝進出を賭けた大事な一戦を前に休憩と称して練習を放棄し、夜遅くに帰って来たこともあった。
が単独行動中にどこで誰と何をしていたのかは、訊きもしなければ向こうが話しもしないのでほとんどわからない。
親善パーティーに遅参した時にフィーくんという単語が出てきた気がしないでもないが、あの時は幼なじみとはまるで認識されていないただのイケメン扱いだった。
幼なじみの名前の呼び方を教えろと強要された時も、フィディオがそうだとわかっていなかったから尋ねたのだと思う。
これらを勘案すると、はごく最近フィディオイコール幼なじみだと気付いたことになる。
今まで何度も出会っていただろうに気付くのが遅すぎやしないだろうか。
相手に対して少し失礼ではないだろうか。
できれば一生彼の存在を思い出してほしくなかったというのが現幼なじみの本音だが、豪炎寺はに振り回されたフィディオに同情を覚えた。
だからといって、はいそうですかとを譲る気はないのだが。






「それよりもあの動き・・・・・・」




 のことよりも、今本当に気にすべきは試合だ。
カテナチオカウンターを攻略しない限り得点は奪えない。
必殺タクティクスが成功したことで士気が上がったオルフェウスは従来の動きを取り戻し、更にフィディオのオーディンソードも軽々とゴールに刺さり逆転を許してしまった。
フィディオから放たれる強烈なオーディンソードは、今の円堂では防ぎきることは難しい。
追加点を与える危機がある以上、こちらも引き離される前に追いつかなければならない、
点を取り返すためにはやはりカテナチオカウンターの突破が鍵となるのだが、豪炎寺は疑問を攻略へと繋げる方法を知らなかった。
せめて疑問の当事者である鬼道が気付いてくれればいいと、鬼道にすべてを託したくなってくる。
鬼道ならば似た者同士で何か起こるのではないかと期待してしまう。
疑問をどう口に出すべきか悩んでいた豪炎寺と鬼道の元に、ようやく発射合図の出たもう1人の司令塔がやって来た。





「監督から伝言、鬼道が持ち込めってよ」
「お前も見ていただろう、俺の動きはすべてフィディオに読まれてしまう」
「だったらお前も奴の動きは読めるだろ。気が付いてるんじゃねぇのか、奴のプレイは自分に似てるって」
「俺も不動と同じことを思っていた。フィディオの動きはお前のプレイと似ている」
「なんだと・・・?」





 鬼道は、影山から指示を受けているフィディオを見つめた。
小さく頷き、時に返事をしながら影山と向き合う姿は帝国時代の自身と重なる。
影山を才能ある監督と認め尊敬し、何の疑いを抱くことなく彼の教えについてきていた自分が姿形を変えて目の前にいる。
鬼道は、ビデオで見直すことはあっても実際に自分自身と相手に戦ったことはもちろんなかった。
自分をモデルとして作ったと言われたデモーニオでさえ、プレイスタイルはどこかしら違った。
しかし、もしも不動や豪炎寺が言うようにフィディオが似ているのだとしたら。
期間の長短の差こそあれど、同じ影山零治という男の傍で戦い彼の戦い方を見てきた者同士、繋がっていてもおかしくはないのかもしれない。
ボールを蹴り始めた鬼道は、自らフィディオが張り巡らせた出口のない部屋へと飛び込んだ。






「カテナチオカウンターの突破方法、彼らは気付いたかな?」
「私はフィーくんのプレイ今日初めてまともに見たけど、初めて見た気は全然しなかった。最初はなんでだろって思ってたけどそりゃそうだよね、だって私は鬼道くんを知っててずっと見てたから」
「ストーカーによく言うじゃないか」
「ただのストーカーがこんなとこまで来れるもんですか。サッカー絡みのストーカーは大体裏があるってのが相場なの」
「確かに、ストーカーは下心がないと近付かない」
「でしょ? フィーくんのカテナチオカウンターはもうおしまい、鬼道くんが合鍵だから。後半は何してくれんの?」
「君をまた、ご意見番に戻すようなサッカー」





 余計なお世話ってわかんないもんかなこの人。
イナズマジャパンが決勝に進めなかった時はオルフェウスがスカウトするよ。
壁に身を預けカテナチオカウンターを攻略した鬼道たちのプレイを観戦していたと少年は、顔を見合わせると不敵な笑みを浮かべた。
同点とされても顔色ひとつ変えない心は、どこぞの幼なじみと違い鋼鉄のように堅いに違いない。
彼が何者なのかは未だにわからないが、ここまで顔パスで入れたことからしてオルフェウスの選手と思われる。
今まで試合には出場していなかったため実力も未知数だが、すべてを見通した達観した口調と思考はよほどの選手だろうと推測できる。
なぜこちらのことを知っているのかが目下最大の関心事だが、ひょっとすると既にファンクラブに海外支局が開設されているかもしれないのでここは気味悪さ3割減にしておこう。
ストーカーには名前と顔とプラスアルファが知られてるので、もはやプライバシーなど守っても意味がないと諦念を感じてもいる。





「ねえストーカー、私も質問していい? ていうか答えてからベンチ行け」
「俺に答えられることかな?」
「同じストーカーだからわかるでしょ。グラサン親父はなんで私を拉致監禁しようとしたの?」
「せっかく完成させた積み木の城を壊されたら誰だって嫌だろう? だったら、壊しそうな人は初めから隔離しておけばいい」
「む、それって私がいじわるってこと?」
「フィディオに訊いてごらん。彼については俺よりもフィディオの方が深く知ってるから」






 答えになっていない答えを返されたどころか、逆に質問を増やされた。
答えられないのならば無理に答えようとせずわからないと言えばいいだけなのに、格好つけやがって。
先程まではあれほどのんびりと観客を決め込んでいたにもかかわらずそそくさとベンチへと向かったストーカーを、はいーっと顔をしかめ見送った。







目次に戻る