どちらかといえばフィディオ派だが、チームメイドの友人カズヤは鬼道派だ。
付き合いの長さと呼称から勘案して豪炎寺が一歩抜きん出ているような気はしたが、それはどうやら気のせいだったらしい。
を恋い慕う者はすべて、どこかしら惜しいところがある。
マークとディランは生贄と押しかけ人質を救出するため参戦した悪魔との戦いで、豪炎寺たちラヴァーズの短所を発見していた。
豪炎寺は誰よりものことをよく知っているが、誰よりもを虐げる諸刃の剣のような男だ。
鬼道は攻守共に優れたバランスを持つ良き理解者のようだが、理解は時として行動を思慮深いものにする。
不動は心の底からを想っているが、粗雑でわかりにくい愛情表現しかしないため自分で自分の首を絞めている。
日本の親衛隊と比べると、我らが本命フィディオはに全力をもってお勧めできる逸材だ。
を幼い頃からずっと盲目的に想っているし、女の子も扱いもどこで覚えたのか長けている。
なによりもが大好きなイケメンだ。
鬼道と不動はともかく豪炎寺もおそらくはイケメンなのだろうが、真のイケメンは内面から滲み出るイケメンオーラに包まれている。
ほんの少し口元を緩めただけで漫画のように周囲にきらきらとしたエフェクトが発生し、微笑もうものなら花が咲き乱れる。
白い流星の異名を持つフィディオはまさしくきらきらエフェクトの使い手だ。
彼の手にかかれば、名もなき星にぽつんと咲くバラもツン期をかなぐり捨てて仲直りするに違いない。
きらきらエフェクターの友人は、きらきらエフェクトを使えてしかるべきだ。
大丈夫だ、テレスもアメコミならばヒーローになるしかない体格の持ち主だ。
マークは魔界軍団Zの突破攻撃を無効化したテレスからパスを受けると、ディランと共に敵陣へと駆けだした。
何をするんだと声を上げる鬼道の意外なまでに狭い視野に内心驚きつつも、意識を変えさせるために叱咤する。





「チームプレーにこだわりすぎてサッカーが小さくなっている。圧倒的な個人技はチームの局面を変えることもある」
「なに・・・?」
「カズヤみたいなファンタスティックな個人技もあれば」
「そこに捕まってるコーチのような、おっかないゲームメークもある」
「個人技を磨けばチームプレーの幅も広がるとは知ってるだろう、もちろん」





 国内チームでサッカーをしている時はまだ、自分のレベルを過信していた。
しかしアメリカ代表として召集され国中から名だたる選手たちのプレイを、はるばる日本から帰ってきた一之瀬を見た時は、たるみかけていた向上心に火がついた。
優れた個人技を持つ選手が生み出すチームプレーは、他の追随を許さない至高のフォーメーションを作り出す。
アメリカ代表ユニコーンが求め得た至高の必殺タクティクスが、豊富なスタミナを持っているからこそ成しうるローリングサンダーだった。
攻められているからといって守りに徹する必要はどこにもない。
守らなければならないと思うのは攻められている側の勝手な思い込みにすぎず、本当は攻めには攻めで対抗していいのだ。
マークは気分良く前線を走るディランにパスを送った。
ヘイその角度だとパンツ見えてるよとディランが物言わぬに向かって、が聞けばぶん殴られるしかない嘘八百をぶちまける。
ディランの与太話に反応したのか、キーパーは動揺した表情を浮かべる。
イケメンはイケメンであるだけで得だが、というだけで得であり損だ。
本当は見えていないのに周囲のちらちらとした視線を浴び、フィディオに知れたらみな星屑にされてしまいかねない。
キーパーの隙を見逃さなかったディランが、派手な掛け声とともに優しくボールを蹴る。
ディランのわかりにくく、ついていきにくいテンションもまた彼の優れた個人技といえる。
どんな形であれシュートを決めるのがFWの役目というのであれば、ディランはアメリカが世界に誇る立派なストライカーだ。
華麗なコロコロシュートで反撃の1点を上げたディランと共に自陣へ戻ると、先程までとはまるでやる気の漲り方が違うイナズマイレブンと目が合う。
最高の個人技を持つ最高のチームユニコーンを破った彼らならば、悪魔ごときすぐに倒せるに決まっている。
マークの勝利の確信は数十分後、現実のものとなった。

































 魔界に伝わる秘伝のレシピブックによれば、魔王料理に必要な食材は強い信念を持った魂ただそれだけらしい。
塩もコショウも砂糖もいらない、魂のみがスパイスでありメインディッシュでありデザートらしい。
口と手が達者な押しかけ人質が指摘したとおり、ただの魔界人は魂を食べることはできない。
伝説上は魂を喰らうとされているがそれははた迷惑なおとぎ話にすぎず、本当はどこに浮いているのかもわからない魂を食べられるはずがなかった。
しかしそれらはあくまでもただの魔界人の話である。
強い魂を持つ人間たちに倒された今は、魔王お気に入りの魂が集まったことにより自らも魔王にランクアップすることができる。
魔王になるとは即ち、ロイヤル階級しか口にすることができなかった珍味人魂にありつけるということである。
これでようやく魔王と詐欺天使の因縁の対決に決着がつく。
最後に笑うのは悪を許さない正義の悪魔なのだ。
デスタは鉄籠の中でお昼寝中の詐欺師を取り出すと、勝利に湧き立っている人間たちの前に突き付けた。






「こいつの魂を今から地獄に落とす」
「ふざけたことを言うな。お前たち悪魔は魂は食べられないとちゃんに暴露されていただろう、早くちゃんを返せ!」
「悪魔だと? 俺たちは悪魔ではない、千年の封印を経て復活した魔王様なんだよ!」
「魔王・・・? 俺たちはお前たち魔界の民を破り春奈を助けた。勝負に勝ったのになぜ魔王が復活する?」
「勝負はただのエキシビジョン。魂の力さえ集めることができれば手段はなんでも良かったんじゃが、さすがは魔王を騙した天使は格が違うのう」
は天使じゃない、人間だ!」
「こんな性悪女が人間のはずねぇだろ、こいつは天使の面したただの鬼だよ!」





 悪魔に鬼呼ばわりされるとは、はデスタに何をやったのだろうか。
悪魔と鬼のどちらがより凶悪なのかは東西文化の違いもあるため簡単には決められないが、何にせよを鬼と評したことは許しがたい。
確かには天使とは言い難い性格だ。
だが少々ひん曲がった性格は悪く評してもせいぜい小悪魔どまりで、サタンデビルハデス系のより恐ろしい評価はしたことがなかった。
幼なじみやチームメイト、友人の贔屓からではなく、は良くても悪くても小悪魔どまりなのだ。
間違っても桃太郎に成敗を依頼しなければならないレベルの手に負えない子ではない。
慣れればたぶんそれなりに扱い方もわかってくるんだろうとは、日伊幼なじみや風丸でもなく半田の言葉である。
ただの人間の代表のような半田に言われた。
だからはおそらくは常人よりも少しだけ素行に難がある女の子なのだ、たぶんきっとmay be。
デスタの心ない悪意の塊しかない評を聞いた豪炎寺たちの中で怒りのボルテージがぐんぐんと上がっていく。
相手を憎むことが自称魔王たちの力の源泉だとわかっていても、怒りを抑えることができない。
それに今もしが口を聞ける状態ならば、好きな子のこと散々馬鹿にされて悔しくないわけ何か言い返すかやり返すかしなさいよと復讐を勧めているに違いない。
自らの心の平穏のためならば、それを阻害しようとする相手を容赦なく排除するだ。
多少の人道に外れた発言があって当然だった。






ちゃんを取り返すにはあいつらに勝たないといけないみたいだね」
「ああ。フィディオ、今だけは休戦だ」
「・・・俺は元々豪炎寺を相手にしてなかったけど。君がシュートに持ち込めるように全力でバックアップすると約束する」
「せっかくの決め台詞に水を差すようで悪いが、頭に花の冠を乗せて言うと全部台無しだな」
「ああそうだった。魔王とやら、はいこれ」
「・・・あ?」
「これ邪魔になるからちゃんの頭に載せておいてくれるかな。そう、そうゆっくりと優しく、そう、やればできるじゃないか!」
「・・・フィディオ、お前やっぱの幼なじみだなあ・・・。敵にぱっと見フレンドリーに話しかけるとことかと被って見えるよ・・・」




 
 まさかお前も鉄パイプとか振り回したりしないよな?
やだなあ守、俺はオーディンソードしか出せないってば。
どこにも朗らかさがないにもかかわらずにこやかに談笑する円堂とフィディオを見下ろしていたデスタが、こいつらも鬼かと呟いた。






「「「お前たち天界で何してきたんだ」」」






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