どういうつもりだと詰め寄られ、どうって何だよと白を切る。
何かやっただろうと糾弾され、何って何だと尋ね返す。
何を訊かれているのかわかっているが、あっさりとは言いたくない。
に何かしたのは時期やタイミングは違うがお互い同じだ。
不動はの部屋の前で呼び止めてきた豪炎寺と鬼道を睨みつけた。
適当に言い繕った理由で煙に撒けるほど豪炎寺たちはに暗くない。
の様子がおかしいことは暇さえあれば、いや、暇がなくてもを見つめ続けている彼らには一目瞭然だったはずだ。
そこまで見越した上であえてを部屋から追い出すような発言をしたのは、異変の原因が自身にあるとアピールしたかったからかもしれない。
天邪鬼だった頃から自己顕示欲は誰よりも激しくて、も面倒な人に好かれたと思う。
不動はポケットに手を突っ込むと壁にもたれかかった。




「俺がちゃんに何しようと俺の勝手だろ、ほっとけよ」
「お前だけの問題なら放っておくが、を巻き込むのなら見過ごせない」
「なんだ、鬼道クン自分がちゃんに相手してもらえないからって俺に嫉妬してんの? ちっちぇえの、鬼道クン」
「なんだと?」
「やめろ鬼道。・・・は手強いぞ」
「知ってる。ちゃんのこと誰よりも知ってるであろう幼なじみクンが苦戦してるくらいだから、ちゃんとの付き合い浅くてしかも保護者代理はもっと分が悪いってこともな」





 それでも好きになったんだから仕方ねぇだろと嘯くと、何か言いたげだった鬼道も押し黙る。
自分の感情すら上手くコントロールできないのに、他人の思いをどうこうできるわけがない。
ましてやの感情だ。
こちらがどんなに声を大にして愛を叫んでも、の心は今目の前にある扉のように固く閉ざされたまま開かない。
好きになった時期に違いはあっても、スタートラインに立ったまま動けないのだから立場は変わらない。
互いに牽制し合っている間に新たな異国の元祖幼なじみとやらが現れ横からを掻っ攫おうとするなど、行く先には困難しか待ち受けていない。
しかしそれでもなおが好きなのだ。
様々な子から好かれている子を好きになって良かったとすら思っている節さえあった。





「俺は、たとえちゃんが俺のこと保護者代理としか見てなくてもちゃんが好きだ」
「開き直ったな、不動」
「隠す必要なんてないからな」
「・・・いや、ちょっとは隠してほしいかも」





 さっきから丸聞こえすぎて、さすがに知らんぷりできなくなったんだけど。
きぃとわずかに開けられた目の前の扉からのっそりと聞こえてきた声に、豪炎寺たちは顔を見合わせた。
そうだ、ここはの部屋の前だった。
大して厚くはない扉の向こう側から話が聞こえるのはありうることなのだ。
はじとりと3人を見回すと困ったように眉根を寄せた。
手招きされたので部屋に入ると、容赦なく床に座るよう床を指差される。
客人を地べたに座らせ自らは椅子に腰かけるとはさすがはだ、中学生にして既に女帝の風格を漂わせている。
は並んで正座した豪炎寺たちを見下ろすと、用は何と尋ねた。





「いくら私がアイドルだろうと、出待ちまでしなくていいんじゃない?」
「出待ちするつもりはなかったんだよ。俺がちゃんに会おうと思ったらこいつらが邪魔してきたんだよ」
「あっきーはそもそも何のために私に会いに来たわけ。食堂から追い出したのはあっきーでしょ」
ちゃんと2人きりになりたくて会いに来たってんじゃいけねぇのか」
「いけないことないけど、だから私に会って何したかったの。会えばいいんならもう会ったでしょ、はい用事おしまいさようなら」
「そうやってすぐに突き放そうとするつれないちゃんにもぞくぞくする」
「ひっ、あっきー怖い目が怖い、そんな目で私を見ないでなんか食べられそう私!」
「そうだやめろ不動! を害するつもりならば今すぐ立ち去れ」
「人のこと言えんのかあ鬼道クーン? 俺聞いちゃったぜ、一昨日の夜鬼道クンの部屋からって苦しそうに呼んでる鬼道クンの声。鬼道クンこそもうちゃん食ってんじゃねぇの、夢の中で」






 名誉棄損とプライバシーの侵害だと声と体を震わせた鬼道が不動に抗議する隣で、やだ鬼道くんいつぞやのキチガイ悪魔と同じで魂食べちゃうデスイーターなのと、
が頓珍漢な驚きの声を上げる。
どうしてこんな不思議系を通り越した、ある意味では他の誰よりもキチガイじみた発言しかしないを好きになってしまったのだろう。
ここまで悪化する前に、もう少しましにするチャンスが共に過ごしてきた10年近くの間にあったのではないだろうか。
豪炎寺は揃いも揃ってのためにならない健全な欲望を口にしているW司令塔を一瞥すると、訊きたいことがあると切り出しの前に一冊の本を突き出した。
経由で託されたものなのだから、贈り物の意図はも知っているかもしれない。
は差し出された絵本を見つめ、ことりと首を傾げた。





「なぁにこれ、どうしたの」
が渡したんだろう。ほら、半田から預かっていた」
「あああれ。エロ本じゃなかったんだ」
「俺を鬼道たちと一緒にするな。これを読めとメモには書いてあったんだが、意味はわかるか?」
「かぐや姫が欲しかったらこの世の金銀財宝貢げってことじゃないの?」
「それだけは違うと思う。かぐや姫はそんなに強欲じゃない」
「じゃあ知らない。半田が言うとおり読めばいいんじゃない?」





 半田の奴め、目つきと同じく勘も鋭い豪炎寺によりにもよってかぐや姫の絵本を贈るとはどういう料簡をしているのだ。
夕香でもわかる幼児レベルの大きな文字に華やかな絵柄の絵本にするとは捻りが足りない。
いつもぱっとしないのが半田なのだから、挿絵のない文字だけの本にすれば良かったのだ。
は手渡された絵本を豪炎寺に突き返すと小さく舌打ちした。





「どいつもこいつも大した用じゃないのに何なわけ。鬼道くんもどうせなぁんにもないんでしょ」
「・・・そうだな。体調が悪そうにしていたから様子を見に来たんだが、元気そうで良かった」
「・・・鬼道くんってさあ、ほーんと優等生。もちょっと羽目外していいんだよ、でないと人生味気ないまんま歳取って終わるよ」
「俺は時々、はこのまま成人していいのかと不安に思うことがある・・・」
「やぁだ、だからナイトの鬼道くんがいるんでしょー。頑張らないと、あっ、今のダジャレないからねなぁに修也その死んだゾンビみたいな目!」





 ゾンビはとっくに死んでいるし、俺の目は元からこうだって忘れたのか。
そうやってすーぐに人の言い間違い粗探ししてぐちぐち言う!
いやちょっと待て、問題はゾンビではない。
鬼道クンいつの間にお姫様公認の騎士になりやがったんだ出し抜かれてた!
豪炎寺の心ない言葉の数々に逆上したが、ベッド脇に潜ませていた鉄パイプを振り回す。
確実に人間を仕留めるべく振り回された殺傷力溢れる物干し竿時々アイアンロッドが、猛攻をかわした豪炎寺をすり抜け窓ガラスに直撃した。






女の子からのDVも立派なDV(ドラマティック・バイオハザード)です






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