おそらくは誰も予想しなかったであろう急ごしらえの小娘監督の暴言に、選手の1人が睨みつけてくる。
いい根性をしているではないか。
これだけの反抗心があれば、まだまだ捨てたものではない。




「どう、1人で抱え込んでそれで解決できた?」
「・・・・・・」
「できないってのは自分が一番よくわかってるんじゃない? あんたがそうやって見栄と意地張ってるから、守ってあげたい仲間は傷ついてるってわかったでしょ」
「仕方がなかったんだ! 俺がRHプログラムの実験を受ければチームには手を出さない。奴は約束してくれた!」
「どこまでおめでたい頭してんの? 大人の約束ほど破られやすいやつはないの。私なんかすぐに帰してくれるって話が3日もくそじじいの家に監禁されてたし」




 ほんとは今頃向こうのベンチであっきーとベンチトークしてるはずなのに、なぁんで私こっちでみんなの敵役やってんだか。
はぽそりと呟くと、イナズマジャパンのベンチを羨ましそうな眼で眺めた。
視線に気付いたのか、不動がこちらに顔を向けへらりと片手を挙げてくる。
お世辞にも気分の良いとはいえない不動の笑みが、とてつもなく懐かしくほっとするものに感じられる。
心が弱った時は、どんなニヤリ笑いも天使の微笑みに見えるらしい。
きっとこの要領でいけば、いつもはただただうるさいだけの豪炎寺の説教も天使の歌声に聞こえるのだろう。
不動や豪炎寺でこのグレードアップなのだから、平時で既に神クラスの風丸を視界に入れたらどうなるのだろうか。
眩いばかりの後光に目が潰れるかもしれない。
と呼ばれた暁には耳が溶けるかもしれない。
困った、目は鬼道のゴーグルで守ることができるが声は防ぎようがない。
このままでは耳とさよならしかねない。
はぎゅうと目を閉じると、風丸がいるであろう中盤に向かって叫んだ。





「風丸くん、試合終わるまで私に絶対話しかけちゃ駄目!」
「えっ、どうしたんだ「きゃあああ喋っちゃ駄目! とにかく駄目! 駄目ったら駄目!」
「・・・風丸、に何をしたんだ」
「何もしてないよ。・・・でももしかして、俺が外に送り出したから向こうにいなきゃいけなくなったことを怒ってるのかもしれない」
がそのくらいのことで怒るものか。豪炎寺ならまだしも風丸、お前が送り出したんだ」
「でも鬼道、もしもあの時俺がを引き留めてたらはあっちにいなかったかもしれないんだ。やっぱりは怒ってるんだよ」
「仮定の話を進めて勝手に落ち込むな。これもきっとの考えなんだ。俺はそう信じたい」





 自らに危害を及ぼす存在を蛇蝎のごとく嫌い、徹底的に制裁を加えようとするだ。
たとえガルシルドの下についていようと、きっとなりに何か考えた上で敵対しているはずだ。
のほほんとお気楽にのんびりしているようでここぞという時のフットワークは風丸以上に軽く素早いなので、今もの頭の中はいかにガルシルドを出し抜くかでくるくると回転しているのだろう。
の行動とちらほらと聞こえてくる言葉を拾う限りはガルシルドの陰謀やそれに苦しめられているロニージョたちのことを知っているようだし、
敵にスパイを送り込んでいると思えば精神的ダメージも大きくない。
むしろ、がロニージョたちの不調と不協和音をどう克服させていくのか楽しみですらあった。





「ゲームメーカーって本当に頼もしいな。鬼道もも、2人とも何を考えているのかわからない」
「俺を見直したか? 少しはに見合う男になったか?」
「それを決めるのは俺じゃなくて本人だろ。ああ、今まではに何やっても喜ばれてたから駄目って言われてショックだ。豪炎寺って意外とタフなのかな」





 駄目て言われたら尚更抱き締めて頭撫でて声かけたくなってきた。
早く試合終わって戻って来ないかな、
風丸は物欲しそうな目でを見つめ、彼女の指示によりフォーメーションをがらりと変えたザ・キングダムに視線を戻すと表情を引き締めた。







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