言ったからそれで許されるとでも思っているのか。
普段からあまり口を開かない人前で喋り慣れていない奴が、ウルトラ級に難しいテーマを上手く説明できると思っているのか。
円堂はすべてをサッカーバカだからという理由で片付けようとしたただの馬鹿に、馬鹿と非難を浴びせた。
ああいう連中にはみたいな強力なのがいた方がいいからそのまま残らせたって、いや、確かに豪炎寺の言うとおりだけどだからって帰って来たがってるをほんとに残すなよ!
にけちょんけちょんに言われる回数においては豪炎寺と半田に並んで多いと自認している円堂は、後半に待ち受けるであろう怒りのを思いぞっとした。
ただでさえ強いザ・キングダムが切れたの指示で動いてみろ。
味方に堂々と刺され敗退する地獄絵図が簡単に想像できる。
不動は不在が決定した味気ないベンチにどっかりと腰かけたまま、豪炎寺に言い放った。




「あんたちゃんバカでもサッカーバカでもなくてただのアホだな」
「せめてサッカーバカと呼んでほしい」
「いや、馬鹿だろ。最終兵器敵に貸す馬鹿は馬鹿かアホとしか言いようねぇだろ」
「そうだぞ豪炎寺、がかわいそうだって思わないのか。悪い思い出しかない所から早く帰りたがってたのに置き去りにして、どうしてお前はいつもを苛めるんだ」




 またもやとの再会を阻まれた風丸が、腕組みをして鋭い視線で豪炎寺を睨みつける。
多少の非難は覚悟していたが、まさかここまで批判の嵐が巻き起こるとは思っていなかった。
もしかして、取り返しのつかないことをやらかしてしまったのだろうか。
豪炎寺は小さく息を吐くと、ザ・キングダムベンチのを見やった。
こちらに帰れなかったことがよほどショックだったのか、ベンチに座ったままぐったりと項垂れている。
のローテンションが移ったのかロニージョたちも沈んだ表情のままで、期待したような劇薬の効果はまだ表れていない。
同点から始まった後半も本来ならば点を取りに行くべき状態なのに、攻めるどころか守りに徹したパスしか回さず王者の覇気がどこにも感じられない。
前半よりも悪化した動きに苛々ばかりが募っていく。
これはいったいどういうことだ、話とはまるで違う状態じゃないか。
豪炎寺は、土方と吹雪のサンダービースト改で失点してもなお調子の上がらないザ・キングダムを見つめに詰め寄りたくなった。






「・・・ねー、まだー?」
「・・・まだ?」
「まだ試合終わんないのー? 家族が心配でサッカーやってる場合じゃないんでしょ。だったらとっととこんなかったるいサッカーやるのも観るのもやめて帰ろうよー」





 こんなつまんないサッカーさせるために子どもを世界に送り出したパパたちチョイスミスだよーとベンチでぼやくを、ロニージョは眉根を寄せ顧みた。
どこの誰だか未だによくわからないが、ここへ来た時からずけずけと臆することなく物を言う。
発せられる言葉のどれもが内臓を深く抉ったり刺したりする刃物だから、今ももれなく体のどこかがちくりと痛んだ。
RHプログラムに負けない負担を課すの言葉には、聞き流すことができない不思議な力がある。
ロニージョの視線に気付いたはのろりと顔を上げると、悔しいでしょと返した。





「自分の親がどんな人かも知らない赤の他人にあれこれ言われて腹立ったでしょ。俺の家族は間違ったことはしてないって言い返したくなったでしょ」
「それは・・・」
「お宅らのパパママは間違ったことは今はまだしてないし、したとも思ってないと思うよ。でもこれからまだあんたらがそういうだらけたサッカーしかしないんなら、パパたちは後悔する」
「・・・夢が悪夢になる」
「そんな感じ? せっかく世界で戦ってるんなら家族はかっこいいとこ見たいし、見せたいって思わない? 私はおんなじイケメンでもきらきら輝いてるイケメンにばっかり目がいくけど」





 私の大会メモリアルブルーレイすごいからね、フィーくんマークくん風丸くん風丸くんフィーくん風丸くんで輝くイケメンばっかに編集してるからねと豪語したは、ロニージョに歩み寄るとにいと笑った。
大会の思い出に手のかかる王様チームも入れときたいんだけど、かっこよくなる気はなぁい?
今なら特別、あそこのイケメン入れる枠はあるとロニージョではない選手を指差したに、ロニージョも小さく笑い返す。
どこまでも変わったことしか口にしない女の子だが、なるほど確かに敵に回ると面倒で厄介な相手だ。
苦しい生活の中でも子どもを世界大会へ送り出してくれたのは、大会で活躍することが自分だけではなく家族の夢だからだ。
夢を胸に抱いた選手は、実力の巧拙は関係なしに輝いて見える。
輝きの原料は家族の思いだ。
ロニージョはどうどうとしきりに尋ねてくるに向かって大きく頷いた。
ここまで強くなれたのは、特訓の成果だけではなく家族の支えもあったからだ。
だからまだ戦える。
子どもをサッカー大会に送り出して良かったと心の底から思わせることができるようなプレイが、今からならまだ間に合う。
ロニージョはへらりとした笑みを残しベンチに残ったにありがとうと呟くと、フィールドの中央へと戻った。
パスが回った瞬間、頭の中に軽快なサンバのリズムが流れ始め体が弾む。
誰の監視も制約も受けないサッカーができるのは随分と久しぶりのような気がする。
ボールを蹴るのが心から楽しい。
ロニージョは迫り来る鬼道や風丸を踊るようにいなすと、円堂に向き直った。
突如変貌したチームに驚いていた円堂だが、こちらを見るなり表情を引き締める。
RHプログラムに体を支配された時は、この瞬間が訪れるとは思いもしていなかった。
ありがとう円堂、そして名前も知らない監督。
ロニージョのストライクサンバV2が、円堂の真イジゲン・ザ・ハンドを打ち破りゴールに吸い込まれた。








































 サッカーバカに騙され帰還を許されず、サッカーバカの言葉に乗せられて負かすべき相手を強く立ち直らせた自分は、とんでもない馬鹿だ。
は時間が経つにつれ監督いわく本来の力以上の力を発揮しているらしいザ・キングダムの華麗なるプレイを眺め、ベンチで落ち込んでいた。
またやってしまった。
敵に塩を送り味方を窮地に追い込むのはオルフェウス戦で十分満足したのに、また同じことをやって豪炎寺たちを苦しめてしまった。
進化を続ける必殺技の競演にはとてもドキドキするが、イナズマジャパンのゴールが脅かされるたびにドキドキがひやひやに変わる。
ロニージョのストライクサンバは、円堂1人の力では止めることができない超強力な技だ。
飛鷹たちの力を借りてようやくゴールを阻止する現状を見て、円堂はもっと強力な技を覚えない限り使えないと思ってしまう。
決勝に進むにしても、シュートを自力で止められない円堂にゴールを守らせておくのは不安だ。
はストライクサンバV3を4人がかりで止め、最後の攻撃に出た鬼道たちへと視線を移した。
円堂よりも一足も二足も早く新必殺技を編み出していたらしいヒロトと吹雪が雄叫びを上げている。
必殺技が完成していなかったら、延々とアマゾンリバーウェーブに飲み込まれ流されそこまでだっただろう。
は辛くも勝利を収めたイナズマジャパンにほっと胸を撫で下ろすと、晴れ晴れとした表情でベンチに引き揚げてきたロニージョたちを出迎えお疲れ様と労いの言葉をかけた。






「言っとくけど私、手抜きはしなかったから」
「わかっている。君は俺たちを立ち直らせてくれた。本当にありがとう」
「わかっていればよろしい。かっこよかったよ、強くて綺麗で、アマゾンリバーウェーブの攻略法もあやふやなくらい」
「さすがの君もわからないんなら、俺たちはもっと自信をつけられるよ」





 すっかり明るくなったラテン系ロニージョと談笑していると、隣のベンチからと呼ぶ声が聞こえてくる。
あの馬鹿幼なじみめ、人を勝手にレンタルして何が今更だ。
おまけに相棒まで人の許可なく持って行って、肉刺に気付いて持ってくれるような紳士ではない彼の意地悪が疲れ切った体にじわじわと更なる疲労感を与える。





「よくやった、おかえ「わぁん風丸くんやっと会えたああ! あのねあのね、いっぱい言いたいことがあるけどとりあえず風丸くんだー!」
「よしよし、俺もに嫌われたんじゃないかと思って不安だったけど、今のこれを見た感じは安心していいのかな? もう怖くないからな、よしよしぎゅうー」




 やっぱり心のイケメンよりも見た目も中身もイケメンな風丸くんがいいよう、後で風丸くんシーンの編集しようっと。
は3日分ほどの思いを込め、風丸にぎゅうとしかみついた。






「・・・物騒になったな、これ・・・」「アイアンロッドG5、ただし先っぽ重たくて使いにくい」






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