部外者で場違いだから嫌だと言い張ったにもかかわらず、ほとんど身内だから遠慮するなと言われ大会関係者エリアに連行される。
第一印象そのままの強引さと破天荒さを遺憾なく発揮するヒデに促され、8対0という大量失点による準決勝敗退に沈みどんよりと落ち込んでいるオルフェウスの控室に足を踏み入れる。
負けた後のチームには接したことがあるが、今回はいくらフィディオがいるとはいえまったく関係のないチームの部屋だから非常に居心地が悪い。
身の置き場所をどこにも見つけられず、場の空気に耐えられずフィディオたちが顔を伏せているのをいいことに回れ右をして立ち去ろうとする。
あれ、ちゃん?
沈んだ声音ではあるものの確かにフィディオの声である呼びかけに、反射的にはいと答える。
どうしよう、ものすごく後ろを振り向きたい。
あんな声を聞いたら、フィディオを見ずにはいられない。
背を向けたままのに、フィディオは弱り疲れ切った声で話しかけた。





「ごめんねちゃん・・・。ちゃんがいるからかっこいいとこ見せようって思ったんだけど、逆に無様なとこを見せちゃったよ・・・」
「ううん、フィーくんかっこよかった。私、今日もずっとどきどきしてたよ」
「ありがとう・・・。・・・でもごめん、俺、世界一になれなかった・・・」





 約束守れなかったと悲しげに嘆くフィディオの声を聞き、たまらず振り返りフィディオに駆け寄る。
椅子に力なく座り項垂れいているフィディオの前に膝をつき、フィーくんと呼びかける。
豪炎寺相手だと汗臭い汚いと非難して滅多なことでは触らないが、フィディオの体には何の躊躇いもなく触れられそうだ。
は激闘の跡が色濃く残る汗と砂にまみれたフィディオの頬を伝う一筋の涙を見て、ぎゅうと心臓が締めつけられるような痛みを覚えた。
泣くほどに悔しくて、太刀打ちできない試合だったのか。
涙を拭ってやるべく手を伸ばすと、ふと顔を逸らされ手が行き場を失う。
しまった、涙に動揺し深入りしてしまった。
おずおずと手を引っ込めたは、どうすればよいのかわからなくなりヒデを見上げた。
あ、こいつ自分がここまで引きずってきた癖に目を逸らしやがった。
連れて来るならアフターフォローまでばっちり面倒を見てほしいのに、肝心なところで放置プレイとはなんとサディスティックな男なのだろう。
どうしたものかと思考と動作が固まったの耳に、ばんと勢い良く扉が開く音が飛び込んでくる。
誰だ、場の雰囲気も考えず押し入ってきた部外者は。
はフィディオと呼ぶクラスメイトにしてキャプテンの声を聞き、ああもうと腹立たしげに呟いた。





「あれ、? やっぱり来てたのか」
「・・・あのね円堂くん、どうして円堂くんは「いいんだちゃん。・・・守、すまない。もう一度戦うという約束を果たせなかったよ」
「・・・なんでお前たちが、こんな・・・」
「とてつもない相手だったよ、リトルギガントは」





 円堂には見えないように素早く涙を拭い、弱々しくはあるが円堂に話しかける。
本当は試合を思いだすのも辛いだろうに、次にリトルギガントと戦う円堂のために伝えようとしている。
フィディオがそんなことをしなくてもいいのだ。
フィディオたちオルフェウスの戦いはこちらも最初から最後まですべて観ていたから、円堂に話して聞かせるのはフィディオでなくてもいいのだ。
フィディオやブラージたちの話を黙って聞いていた円堂の表情が見る見るうちに険しさを帯びる。
は膝の上で小刻みに震えているフィディオの手を見下ろし、目を伏せた。





「おそらくは・・・、いや、後は自分の目で確かめるべきだ」
「確かめるって、何を・・・?」
「円堂くん、行こ」
「でも「円堂くん」・・・わかった、行こう」
「ごめんねちゃん・・・、ありがとう」





 わずかに顔を上げ笑おうとするフィディオに向けてゆっくりと首を横に振り、円堂を連れ控室を出る。
信じられないと呟く円堂にうんと答える。
並んで通路を歩いていると、円堂がどう思うと尋ねてくる。
何がと短く問い返すと、円堂は真っ直ぐな目でを見つめた。






「オルフェウス程のチームを相手に必殺技を使わずに勝つって、できるのか?」
「フィーくんたちの攻撃は、悪く言えばカテナチオカウンターごり押しのワンパターン。強いからそれでいいんだけど、分析してたら攻略はできると思うよ」
「でも必殺技は? だって知ってるだろ、フィディオのオーディンソードやブラージのコロッセオガードの威力は」
「知ってるよ。・・・円堂くん、今から救いようのないこと言っていい?」
「え、お、おう?」





 常に救いようのないフォローが追いつかない罵詈雑言や非難を浴びせるが、珍しく改まって悪口宣言している。
の辛辣な言葉は聞き慣れてきたが、慣れをもぶち壊すような暴言の未知の領域を聞くことになるのだろうか。
はぱたりと立ち止まると、じっと円堂を見つめ返した。
雷門中に突然現れクラス中の視線を話題と心を奪っていた美少女のぱっちりとした瞳の中に、お世辞にもイケメンとは言えない丸顔が映っている。
見た目に騙されちゃ駄目だ、が観賞用って言われてることを忘れたのか、俺。
円堂はごくりと生唾を飲み込むと、すうっと開かれたの口を凝視した。






「こうすれば勝てる、こうすれば点を取られないってのは私でもわかるの。
 必殺タクティクスなんて大層なこと言ってるけどボールは1個だけなんだから、特別なことしなくてもフォーメーションぶっ壊すことくらいはできるっていうか、思いつくわけ」
「お、おう」
「でも実際に戦ってみると点は取られるわ勝てないわ。わかってるのにできてないってどういうことだと思う?」
「・・・・・・レベルが合ってないんだ」
「どっちが悪いってわけじゃないんだろうけど、そういうこと。攻略法がわかってても実働部隊がそれに見合った強さないと意味ないわけ。リトルギガントはほんとにできるくらいに強いのよ」
「・・・は、俺らが弱いって言いたのか?」
「そう聞こえるかもしれないから、一応前置きしたんだけど」





 弱いとは思ってないよこれはマジと会話の中で初めてフォローらしいフォローをしたに、円堂はは、と再び問いかけた。
伊達にキャプテンをやっているわけではないから、チームを見る目も少しは肥えてきた。
がどんな人物かは豪炎寺との一連のごたごたを介して知るようになったし、何よりも、イナズマジャパンのキャプテンに就任する前からはクラスメイトで友だちだ。
だから、満点はもらえないかもしれないが今のが何を思って言っているのかはなんとなくわかる気がする。
あっけらかんとしているように見えて、実は心の中ではとんでもなく難しく考え込んでいるのがだ。
勇ましく見えるに誰もが意識していてもいなくても頼り任せきりにしてしまうが、は任されたそれらを下請けに出すことなくすべて処理している。
今日もきっとそうだ。
はまだ処理しきれていないから、だから今もなお心のどこかでは悩み苦しんでいる。
円堂はなぁにと言って首を傾げたに向かって、意を決して口を開いた。





、俺や鬼道、不動や佐久間がいたらジ・エンパイア戦はあんな指示はしなかっただろ」
「うわ、それ今更訊く? もう時効でいいじゃーん」
「責めてるんじゃない。がさっき俺に言った風に思うようになったのは、が見つけた攻略法を実行できるだけの力がチームになかったからなんだろ?」
「どうだか。ド素人のはったりがほんとに通用するかどうかもわかったもんじゃないしねえ」
、俺たちはをド素人と思ってない。はすごいゲームメーカーなんだよ」
「ゲームメーカーと言うよりも、あなたの場合はゲームクラッシャーと言った方がいいかもしれないけどね」





 不意に割り込まれた第三者の声に、円堂とが声のした方を顧みる。
声の主の姿を認めただただ驚きの表情を浮かべている円堂の隣で、が口元をわずかに緩める。
引き連れた初老の男とゴールキーパーを見て、ああやはりと予想が確信に変わる。
友人の姿を見間違えるほどまだ日本を、雷門を忘れてはいない。





「円堂くん、まだるっこしいこと嫌いだからずばっと言ったげる。今のイナズマジャパンはリトルギガントみたいに必殺技使わずに勝つなんてことできない」
「・・・それはいい、いや、良くはないけど、なんで夏未がこんな所に」
「円堂くんも聞いたでしょ、フィーくんたちは分析されてたって。あーあ、それもこれも試合に来なかったから説明が面倒になる」
「ご意見番がいるのはイナズマジャパンだけじゃないってことよ。私、リトルギガントのチームオペレーターになったのよ」





 情報収集から戦術の分析までなんでもやるわ。
そう言い切り綺麗に微笑む夏未を、は夏未に負けない笑顔でもって応酬した。







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