84.ルートの生まれ方










 チームを強くするには大きく分けて2つの方法がある。
1つはいつでも味方でいて傍にいて、手取り足取り甲斐甲斐しく接し才能を開花させる型。
2つ目は敵として現れ、苦しめることによって土壇場の底力を引きずり出す荒療治。
夏未は後者と思っていたが敵になりきるには夏未は優しすぎ、そして円堂を想いすぎていた。
人を想うことには悪いことではないし、むしろたくさんの人を大切に思うべきだとは思う。
中世ヨーロッパの時代は騎士は女王を守るために忠誠を誓っていたし、守り支えとなりたいという力は時として実力以上の力を引き出すこともある。
想いきれないから人は非情になれるのだ。
はリトルギガント戦を控え特訓に励んでいる豪炎寺や鬼道、不動を順に眺めゆっくりと首を横に振った。




「さーん、さーん!」
「んー?」
「んーじゃないですよ! ちゃんと俺の練習見ててくれましたかあー?」
「ううんー?」
「もうっ、ちゃんと見て下さいよー! 俺と豪炎寺さんが同時にシュートを打つっていう新しい必殺技作るの手伝ってくれるんじゃなかったんですかあー?」
「お手伝いってボール拾い? ほーらはーいいくよー宇都宮くーん」
「どこに蹴ってるんですかさん!」
「ほんとだよ、ちゃん俺に恨みでもあるわけ?」




 虎丸に向けて蹴ったはずのボールは大きな弧を描き、不動の頭めがけて落下する。
不動は器用にボールを胸と膝で受け止めると、にいと笑って豪炎寺と虎丸を見つめた。




「知ってるか、2人で駄目なら3人でって言葉を」
「3人寄れば文殊の知恵だよあっきー」
ちゃん俺の話に茶々入れないで」
「さすがさん、その手を初めから考えてたんですね!」
ちゃん、俺の出番掻っ攫わないで」
「そういうことか・・・。付き合え不動!」
「幼なじみクン、ちゃんにツッコミ入れて」





 言葉をことごとく無視され名言を奪われ、ボールまで取られた不動が豪炎寺と虎丸を猛然と追いかける。
あんな調子で本当に必殺技は完成するのだろうか。
やはり雷門中のサッカー部のぶっつけ本番魂を色濃く受け継いだ以上、豪炎寺たちも実戦で試した方が案外上手くいくのではないだろうか。
実戦をセッティングしてやればいいのだが、生憎とたかが一ご意見番に広い顔はない。
は厳しい表情で練習を見守っているかつてのリトルギガントオペレーターにして現イナズマジャパンオペレーター夏未の隣に並ぶと、わかったと尋ねた。





「いいえ・・・。わからない・・・、あのリトルギガントとどう戦えばいいのか・・・」
「ま、そりゃそうだよね仕方ないって」
さんはわかるの? いったいどうすればいいの?」
「それを考えるのが夏未さんのお仕事でしょ。ま、わかるとできるは違うけど。あーボール拾いかったるい、やめたやーめた」
さん、あなたねえ・・・!」
「ここには夏未さんいるからお任せしちゃお。いやあ、夏未さんいるから楽できて超嬉し!」





 人を何だと思っているのだ。
こんなちゃらんぽらんな子を師として崇め、目標にしてしまったのか。
夏未は何の躊躇いもなくグラウンドの外へ出たと、特にを呼び戻すわけでもなく熱く練習を続ける豪炎寺たちを眺め驚きの声を上げた。
に対して緩すぎる。
そして、緩いことを誰も気に留めていない。
まるではそうあるのが当然とでも思っているような時間の流れに、夏未は眩暈がした。
これがと言ってしまえばそうなのだがしかし、こうしてふらふらしているから立て続けに厄介事に巻き込まれるのだと彼女も周囲もわかっていないのだろうか。
いくらガルシルドの野望が潰えすべてが終わっていても、究極の不運体質ならば道中で何が起こってもおかしくはない。





「私はどんなに背伸びしてもさんみたいに大らかにはなれないわ・・・」
ちゃん、ああしてない時はすごく考え込んでいるからああしてる方がみんな安心するのよ」
「たまに相手チームに行ったりはしてますけど、そこは夏未さん似ましたね!」





 こうしてる方が雷門にいた頃と同じで、私たちもほっとしませんか?
好きな時に現れて気まぐれで物を言って颯爽と去っていく、雷門にいた頃の
なるほど確かに、これが自分たちにとっては変わらない姿だった。
夏未はが去った方角を見やり苦笑を浮かべると、不在の穴を埋めるべく再びグラウンドを見据えた。







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