またか、また敵になったのか。
いったい何のためにはライオコットに来たのだ。
豪炎寺はもう何度目かもわからない、敵に塩どころか自らを贈った幼なじみを見やり眉をしかめた。
今回は相手がフィディオでキチガイでないからまだいいが、フィディオだとフィディオで複雑な気分だ。
は日本の幼なじみではなくイタリアの幼なじみを選んだというのか。
が手を貸さずとも、円堂とサッカーがしたくてたまらない病を患っているフィディオはきっと試合をしていた。
そうだというのに俺の幼なじみはまた余計なことをしにふらふらと。
豪炎寺はスパルタ式気遣いが嬉しいのか恨めしいのかよくわからなくなり、いつになくきりりと真剣な表情でフィディオたちに指示を与えているから目を逸らした。
の隣でサッカーの話をするのは自分の役目で自分だけのポジションだったのに、フィディオに奪われてしまったようでちっとも面白くない。
たとえ今日だけのスペシャル仕様だとしても、土足で踏み荒らされたようでむしゃくしゃする。
日本に帰ったら、が嫌だと音を上げ降参するまで隣に張りついていようと思う。
FWだって、あまり得意ではないがディフェンスやマークはできるのだ。
不機嫌さ丸出しの豪炎寺に気付いたがあーもうと叫ぶ。
敵にいるなら最後まで敵役でいろ。
うっかり実現しそうな叱責の言葉を口に出しそうになり、豪炎寺は慌てて口を噤んだ。





「今日は特別、フィーくんぼっこぼこにしちゃうくらいまでやっていいから手応えちゃんとつかむこと!」
「本当にやっていいのか? 俺は本気でやるぞ」
「やれるものならやってみたらいいよ。俺とちゃん、それにオルフェウスは負けないよ」
「きゃーフィーくんかぁっこいい!」





 フィディオの隣できゃっきゃと、決してこちらには向けられることにない黄色いはしゃいだ歓声を上げるをうるさいと一喝する。
リトルギガントと戦う時はもっとすっきりとした気持ちで戦えるだろう。
が敵にいるとに気を取られてしまいそうで、まるで一種の必殺タクティクスに陥ってしまったかのような錯覚を覚える。
豪炎寺はとフィディオに背を向けると、減らず口ばかり叩くイタリア組に一泡吹かせてやろうと決意に拳を握った。






































 薄々気付いていたし認めてもいたが、改めて目の当たりにするとその成長ぶりには驚かざるを得ない。
イナズマジャパンチームの中で唯一リアルタイムで試合を観ていたという優位点はあるにしろ、フォーメーション変えても本物そのままの強さを引き出すの洞察力が恐ろしくてたまらない。
人数が倍になったようだという率直な感想をFWとDFを全員が担当するという荒業で実現させ、限界ギリギリまで運動させるは容赦ない。
縁もゆかりもそれほどない他人のチームに対して非情なまでの采配を振るう彼女にはきっと、恐れるものは何もないのだろう。
と出会ってそれなりの時間が経ち彼女の采配の特徴も理解できるになったが、試合を重ねるたびには強く逞しく、そして鋭くなっていた。
フットボールフロンティアの頃は豪炎寺のシュートを中心に据えたゲームメークを展開していたが、イナズマジャパンに帯同し不動という優れたゲームメーカーを師に迎えたことで、
他の手段もより柔軟に考えることができるようになった。
豪炎寺と一時的にでも離れたことにより、は格段に強くなった。
幼なじみ離れを果たそうとしているはこれからもっと強くなる。
何者にも捉われることなく己が道を選び進むことができるに迷いはない。
にとってフットボールフロンティアインターナショナルは、豪炎寺との歴史の1つの転換期だと鬼道は思っていた。
2人が歩んできたサッカー人生の集大成の1つが世界への挑戦で、世界一という大きな目標が成し遂げられることによっては豪炎寺の呪縛から完全に解き放たれることができる。
ライオコットから戻って来たはまだ豪炎寺に幼なじみだがしかし、彼だけのものではなくなる。
目指すものを手に入れれることができたはもう、豪炎寺に対しては何も望みはしないはずだ。
本当のスタートはここから始まるのだろう。
鬼道はふと視線を感じ、フィールドからオルフェウスベンチへと顔を向けた。
にこっと笑いかけたが口をぱくぱくと動かしている。
『わかった?』。が言わんとしている質問の答えに気付いた鬼道は、笑みを返すとに倣い同じように口バクで返事を返した。





「ベンチスタートというのもいいな、と話せる」
さん向こうのベンチだけどね、お兄ちゃん」
「それでもだ。同じ立ち位置から見るのは楽しい。手を引くよりも、隣で歩く方が俺の性に合っている」





 手を引かずとも、は1人で歩いていける強い意志の持ち主だ。
だから、が道に迷い困っている時にそっと支えてやる影のような、騎士のような存在でありたい。
見守っていてほしいのではなく、見ていたい。
彼女がこれから進む道を見守っていたい。
そして願わくば、が進む道が自らの歩み道と同じであればいい。
人に何かを強制したり、あるいは引き止めるだけのカリスマ性はないと自負している鬼道は、の人生の道を変えたいとは思わなかった。
どれだけ好きになっても好かれても、籍を入れても所詮は他人だ。
互いを尊重し高め合っていくことが鬼道の理想とする将来像だった。




「穴があるとこ気付いてくれた鬼道くんはさっすがー。夏未さんもリアルタイムでこのくらい気付かないとまだまだまだまだ」




 誰も気付いてくれなかったどうしようかとも思っていたが、気付いてくれて良かった。
まともなサッカーはここ最近ご無沙汰だったので勘の鈍りを危惧していたが、鬼道と不動も更にパワーアップしていた。
この調子ならば、後は円堂のどんがらがっしゃん次第だがリトルギガントといい試合ができそうだ。
豪炎寺の新必殺技も、口にこそ出していないが実はものすごく楽しみにしている。
ファイアトルネードを見せるなんてわがままはもう言わない。
今はただ、エースストライカー豪炎寺修也の世界大会でのシュートが見たかった。
は30分あまりの試合を終えグラウンドに座り込んだ円堂や鬼道、フィディオに歩み寄るとフィディオにだけタオルを手渡した。





「ありがとフィーくん、わがまま聞いてくれて」
「俺こそ手伝ってくれてありがとう。守と戦えて楽しかったよ」
「いつまでもどんがらがっしゃんでうずうずしてる円堂くんでごめんねー。円堂くんどーう、私とフィーくんの愛のスパルタ特訓でできそう?」
「どんがらがっしゃんじゃなくてガン!シャン!ドワーン!だよ。ありがとなフィディオ、必殺技の姿が見えてきた」
「あのフォーメーションのおかげで決勝の戦い方がつかめた、ありがとうフィディオ、
「決勝戦のスタメンはわかんないけど応援だけはするから、鬼道くん」
「応援だけじゃなくて、も今度はイナズマジャパンで戦ってくれ。俺たちと一緒に」
「えー、夏未さんいるからいいじゃーん私ベンチじゃなくてスタンドがいいー」
「駄目だよちゃん。俺とはまた会えるから、ちゃんと豪炎寺たちと一緒にいてあげるんだ。だってこれはちゃんのさ「フィフィフィフィーくん昨日の続きする!? してほしい!?」えっ!?」






 それは駄目なのサプライズなの。
えっ、でもそういうサプライズは下手をすると死者が出るよ!?
ごたごたとまたもやろくでもない密談を始めたフィディオとを前に、円堂と鬼道は顔を見合わせ苦笑いを浮かべた。






『林』だとオーディンソード覚えそうだな






目次に戻る