次々と起きだしてくる選手たちに1人ずつおはようと声をかける。
試合前の緊張から眠りが浅く、目の下に隈がある人はいないかと真っ直ぐ顔を見て体調の確認をする。
よし、今日もイケメンはイケメンでフツメンはフツメン止まりだ。
は顔色チェックを終えると、難しい表情を浮かべ朝食を口に運んでいる鬼道の隣に腰を下ろした。




「鬼道くんちゃんと寝た?」
「ああ。眠らないと体力が保たないからな」
「鬼道くんはずっと試合に出てるからねえ。たまにはあっきーとチェンジすればいいのに」
「そういう挑戦ができるほどの時間はないんだ。それに不動には不動の役目があって、それは俺にはできない」
「なるほど?」
「よくわかっていないようだがそうなんだ。ところで、俺の顔に何かついているのか?」
「うんついてる」
「じゃあ取ってくれないか。いつまでもの前でだらしなく食べかすをつけていたくないんだ」
「食べかすじゃないけど、取っていいの?」
「・・・何を取る気だ?」
「鬼道くんがちゃんと寝たのかわかんないから、ゴーグル取っ払おうかと」





 そろそろと伸ばされる指から逃れるべく顔を逸らすと、がずるーいと非難の声を上げる。
ずるくなどない、どちらかといえば甘えておねだりしてくるの方がずるい。
興味を持ってくれるのは嬉しいが、できれば外見だけではなく中身にも関心を持ってほしい。
鬼道はゴーグル越しにの横顔を盗み見ると、苦笑いを浮かべた。





「そんなに俺を心配してくれるとは、は優しいな」
「鬼道くんのお目目は大事な商売道具でしょ。リトルギガントのはっやーい動きについてってもらわないといけないんだから、そりゃ心配もしますううー」
「やはり速いかな、向こうは」
「フィーくんたちにも苦戦してたくらいだから本物はもっと厳しいと思うよ。ま、私もあのチームの本気見たことないからなんとも言えないんだけど」
「本気、か」
「はっ、まさか鬼道クンあれが奴らの本気とでも思ってたとか? おめでたい奴」




 ゲームメークの匂いを嗅ぎ取ったのか、食べかけのトレイを手にした不動がテーブルにやって来る。
は当たり前のように残されているトマトを手に取り不動の口に突っ込むと、ちらりと目線を夏未へと向け小さな声で呟いた。




「あのきっびしくて容赦ないことでおなじみの夏未さんと、サッカーバカのボス円堂くんグランパのチームだよ? どんな秘密兵器持ちだしてくるかわかったもんじゃないって」
ちゃん、マネージャーに叱られるどころじゃ済まないぜ」
「だから聞こえないようにひそひそこっそり喋ってんでしょ。あっきー、ベンチ暇だからって告げ口したら駄目だからね」
「しねぇよ! てか今日も俺ベンチスタートって決まってんの?」
「違うの?」「違うのか?」




 だってあっきーはあっきーだからベンチだと思ってた。
お前はベンチから試合を分析するのが仕事の第一段階だろう。
反論しようにもそうするだけの気概をごっそり削ぎ落とされるような鬼道との連携必殺技を前に、何も言い返せない。
不貞腐れそっぽを向いた不動に鬼道とは顔を見合わせると、にやりと笑みを交わした。





「私と一緒に試合観るのあっきー嫌い?」
ちゃん独占できんのは嬉しいけど、俺はサッカーやってるとこをちゃんに見てほしいんだよ」
「じゃあ早くゲームメークして早く出てこい。待ってるぞ、不動」
「鬼道クンなんでそんなに上から目線なんだよ、気に食わねえ!」





 悔しかったらあっきー身長伸ばしなよ。
うるせぇちゃんそういう問題じゃねぇんだよ!
はミニトマトを再び手に取ると、潜在的に身長を伸ばしたがっている不動の大きく開かれた口に栄養の素を放り込んだ。



































 ほれ見ろ、やはり本気はまだ出ていなかった。
はどさどさと重い音を立て地面に落とされていくリトルギガントイレブンが装着していた重りを見下ろすと、ちょんと豪炎寺の脇腹をつついた。
20キログラムは物理的には重いだろうが、あまり自慢はできない我が幼なじみの心に圧し掛かっている無駄でしかない重りはキログラムで測れる重量ではない。
重たさでは大丈夫、負けてない。
言葉の真意はわからないが不快な気分にはなった豪炎寺は、を顧みるとどういうことだと声をかけた。
この期に及んでまでまだまっとうなことを言えないとは、今日もは元気らしい。
は豪炎寺を見返すと、豪炎寺の胸をこつんと叩いた。





「いちいちやることなすこと言うこと重たいってとこでは修也負けてないよ。大丈夫大丈夫、修也は重い」
「どうしてはそんなに軽く言うんだ。俺が重いのはとバランスと取るためだ」
「そんなの誰も頼んでないじゃん。あ、でも頼みたいやつはある」
「何だ、言ってみろ」
「優勝トロフィーテイクアウトしてきて。約束・・・して大丈夫かなあ」
「指切りするか? もう約束は破らない、約束は守るためにするんだからな」
「きゃあ修也言ってることもかぁっこいいけどやっぱ重たーい」





 顔と口はかっこいんだからやることもかっこよくしておいでよ。
はそう告げ背後に回ると、10年間の思いを込めいつもよりも若干溜めて背中を叩いた。






今日のおまじないはすごく気持ちが入ってたな






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