良くも悪くもわかりやすく単純なサッカーバカたちだ。
は円堂までもが前線に飛び出しリトルギガントへ反撃の猛攻を続けているイナズマジャパンに向け、褒め称える意味で馬鹿と呟いた。
サッカーボールを追いかけることにあんなに目を輝かせ、これが決勝戦でなければもっと賑やかにわいわいとプレイしていそうだ。
チームをコンスタントに離脱していたので円堂大介の最後のノートとやらも言葉も存在自体を知らないが、円堂たちは大介の記した言葉に大きく感化されたらしい。
さすがは円堂グランパだ、サッカーに人を引きずり込む円堂の求心力の高さは祖父譲りらしい。
選手それぞれの個性に合った言葉があるとは、それはぜひ聞いておくべきだった。
は言葉の影響を受け特訓した末完成させたというヒロトの天空落としがロココのゴッドハンドXを破ったのを目にし、へえと感嘆の声を上げた。
同じFW仲間の染岡が知らなかった未知なる必殺技を幻の一夜を共に過ごしただけにすぎないDFの小暮が知っているとは、チームの情報伝達の仕組みに大きな疑問を覚えてしまう。
幻の一夜仲間はもう1人いるというのに、2人とも仲間外れは良くない。





「なんで小暮くん教えてくれなかったの。キャンプファイアーで薪拾ってエッフェル塔作るって約束した仲なのに」
「それは五重塔だよ。だってさんふらふらしてていなかっただろー。いたら相談してたって」
「む」
「ヒロトさんすごいんだよ! 実はもう1つあるんだけどさんこれは知ってるよね!」
「えっ、私修也と宇都宮くんとあっきーのしか知らない」
「えっ、さんどこ見てたの!?」





 どこを見ていたとは心外だ。
練習中はきちんと風丸を見ていたし、試合中も進化した風丸の風神の舞・改をうっとりと見つめていた。
風丸は後半に入った今は不動と交代しベンチにいるので、これでますます風丸と間近で見ることができる。
やはり隣にいるべきなのは馬の尻尾のような面白い髪型をした不動よりも、イケメンポニテの風丸だ。
不動には不動の良さがあるが、風丸には風丸にしかないかっこよさがある。
不動のことは保護者代理としか思えず彼と恋人繋ぎをしてデートをするという妄想はしたこともないが、不動はとても素晴らしいイナズマジャパンの秘密兵器ジョーカーだ。
はFWにポジションチェンジしたロココと相対したものの、あっさりと突破された不動に首を捻った。





「むーん、あれじゃ必殺ぐるぐるぐるぐるができなぁい」
「ぐるぐるぐるぐるぐる? くるくる回るのか?」
「そ! ぐるぐる回って修也たち3人で打つシュートなんだけどね、あっきーのパワーがFW2人に足りてないのか修也がヒーロー気取ってんのかできてなくて」
「そっか、はずっと豪炎寺たちにつきっきりだったんだ。でもがいるのに完成してないってことは、よっぽど難しい技に挑戦してたんだな」
「みんな個性の塊だもん、ぶつかるの止めるの大変だったんだよー」
がいなかったらぶつかったままだったかもしれないんだから、やっぱりの力は大きいよ。に応援されたらやらなきゃって思うし、それに俺は応援されっぱなしで豪炎寺は満足しないと思う」






 に貪欲なまでに何かを求める豪炎寺が、強請る前に与えられた発破だけで満足するはずがない。
やればできたじゃんすごいよ修也といったような称賛の言葉はもちろん欲しいだろうし、今日の気持ちの籠もった背中のおまじないを見るに、技の成功は最低条件とでも思っているかもしれない。
男は、いつだって好きな女の子にはかっこいいところを見せたがる見栄っ張りな生き物だ。
かっこよくても無様でも常にに見られている豪炎寺が、醜態を見せつけるわけがない。
クールでストイックな豪炎寺の仮面は、の前でだけぱかりと割れる。
は攻略の糸口を見つけようやくパスが繋がりだし、ボールをキープした豪炎寺へと視線を向けた。
隣に虎丸と不動が走っているところから、未完成の必殺ぐるぐるぐるぐるをやろうとしているとわかる。
ぶっつけ本番で完成させるのが雷門中から流れてきたチームの癖とは以前言ったが、決勝戦でもそれを実行に移すとは肝が据わっているのか無鉄砲なのかわかったものではない。
練習中も噛み合っていなかった呼吸やら何やらが、本番でぴたりと合うはずがない。
予想通り、あっけなく相手GKの手に収まったシュートにはああと嘆きの声を上げた。





「ぐるぐるも駄目でグランドファイアも駄目で、修也の時代は終わったか・・・」
「諦めるのは早いぞ。あの豪炎寺はそうあっさりと諦めると思うか」
「修也結構あっさりサッカーやめたりサッカー遠ざけたりサッカーやめて医者になるとか言い出すくらいにあっさり屋さんだもんなあ・・・」
「うーん、じゃあはいいのか? 今日あんなに気持ち込めて背中のおまじないしたのに、それに合うだけの力を出さないなんて豪炎寺ずるいと思わないか?」
「あ、それはこっちが気持ち入れ損みたい」
「そうだろ? だから豪炎寺はまだまだやらなきゃいけないんだ。大丈夫だ、が鍛え上げてきた豪炎寺はすごい選手だ。豪炎寺が約束を破るわけがない」
「・・・確かに修也は守るって言ってくれた」
「じゃあもっと大丈夫だよ」





 が見てるから大丈夫だよと重ねて言い笑う風丸につられ、頬を緩める。
そうだ、豪炎寺は約束を守ると言った。
守るために約束はするものだとかっこよく言いきった。
1年前取り損ねた優勝トロフィーを見せてくれたフットボールフロンティアでも、彼は約束を守ってくれた。
今はまだ体が完全に温まっていないだけだ。
豪炎寺は情熱的な男だから、もっと発熱しないと本気が出ない。
熱くなるために、リトルギガントのイケメンの必殺技ヒートタックルをダイレクトで受け止めてきた方がいいかもしれない。
ヒーローは遅れて活躍するものだ。
だから今はまだ、焦らずじっくりと体を温めておけばいい。
FWは豪炎寺だけではないし、特訓の末に新必殺技を編み出したのも小暮いわく彼だけではないらしい。
本日大活躍のもう1人の幼なじみバカヒロトが、鬼道と吹雪と共にゴール前に躍り出る。
今この場に玲名ちゃんがいたら玲名ちゃん基山くんにましになったなくらいは言ったかもしれないのに、基山くんってばちょっとずれてるなあ。
一足先に3人での高難度必殺技ビックバンがリトルギガントゴールに迫る。
そろそろ出番だよ、修也。
は自分では割ることができないゴールを鋭い視線で睨みつける豪炎寺に、心の中で発破をかけた。







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