すべての力を解放した選手は輝いている。
勝つために自己を押さえ込んでいた心の重りを取り払い、悔いの残らない楽しいプレイをしようと気分を変えたチームは強い。
勝つことが一番の喜びではない。
本当の喜びは全力を尽くし、思い切りサッカーボールを追いかけることだ。
楽しいサッカーの先に世界の頂点があれば、喜びはもっと大きなものになる。
世界の頂点はおまけなのだ。
は再び防戦一方となったイナズマジャパンと思いのすべてを吐き出し猛攻を浴びせるリトルギガントを見比べ、ぎゅうと両手を握り締めた。
リトルギガントは全力を出した。
イナズマジャパンも全力を出しているが、今の全力は本当の力ではない。
イナズマジャパンの本当の強みはチームワークの良さでも光るゲームメークセンスでも勝利への執念でもなく、より強い相手と戦うことに喜びを感じるサッカーバカ精神だ。
勝とうと思いすぎると、失点することを恐れ円が狭くなる。
勝ちも負けも関係ない、ただ一途にサッカーを楽しむことが今のイナズマジャパンには欠けている。
相手の強さと気迫に飲み込まれようとしている今は本当の強さに気付いていないかもしれないが、外からずっと試合を観てきたファンは彼らの強さを知っている。
楽しいサッカーが見たいなー。
のぼやきに反応した久遠がくるりとこちらを向く。
見たら楽しいかと問われこくりと頷くと、久遠が微かに笑う。
こうしているとただのダンディーなイケおじさんなのだが、ここで心を許してはいけない。
はいつも何かしら言葉が足りていない寡黙すぎる監督のフォローをすべく久遠の隣に並ぶと、鬼道ににこりと笑いかけた。




「鬼道くん今日もすっごく冴えてる! 新しい必殺技もできてたんなら教えてくれたら良かったのに、なぁんにも知らなかったからびっくりしてどきどきしちゃった」
「それも策のうちと言ったら驚くかな?」
「鬼道くんならほんとにそう思ってそう」





 強張っていた鬼道の表情が緩み、心にも余裕が生まれたように思える。
次いでは不動へと視線を移すと、同じようにへにゃりと笑った。





「あっきーさっきのは残念だったけどそれ以外は超いいじゃん。ゴール前にさっさと戻って来れる辺りはさっすが後半から出ただけあって体力余ってるう」
「そうやってない余裕引き出そうって魂胆だろ。はいはい、お望み通り底力出してやるって」
「嘘はやぁよ。次、修也」
「・・・・・・、俺は」
「待ってる。試合が終わる時までちゃんと見てるから、余計なこと考えないでサッカーしてきて。でもってもひとつ私と約束して」
「何だ」
「修也が楽しいって思えて、かつ、私に見せたいサッカーを見せて」





 言いたいことを言って満足したのか、そそくさとベンチに引き下がるの背中を見送る。
は何もわかっていない。
幼なじみのことをわかっていないのはこちらだけではなく、もこちらを何も理解していない。
その約束はとっくの昔に叶っているのだ。
いつも見せたいサッカーを見せているのだ。
無様なサッカーをすることは今までずっと練習や試合に付き合ってくれていたに申し訳がないから、が満足とまではいかなくても納得してくれるようなサッカーを見せようと努力しているのだ。
がどんなサッカーを見たがっているのかはわからない。
怖いサッカーが嫌いだということしか知らない。
わからないから、常に自分の中で最高を見せているつもりだ。
それはもちろん今日も変わらない。
に見てもらって初めて強くなれる。
だから、が自ら見ていると言ってくれた今はもっと力を出せる気がする。
いいや、気ではなく本当に出すのだ。
円堂やヒロト、リトルギガントの選手たちが次々と必殺技を編み出し進化させている中、自分も大きくなるのだ。
初めて覚えた必殺技は、と2人で作ったファイアトルネード。
世界の頂点に立つための最後の切り札も、と作った必殺技。
ここで見せなければ男が廃る、目指せ甲斐性なし男の蔑称返上。
豪炎寺はパスを受けると脇目も振らずゴールに向かって走り出した。
左右を顧みれば、円堂と虎丸がいる。
役者は揃った、勝利の女神もいる。
円堂と豪炎寺、虎丸の中心で巨大な竜巻が巻き起こる。
失敗した時にはおぼろげにしか見えなかった大好きなサッカーボールが、今ははっきりと見える。






「「「ジェットストリーム!」」」





 完成した必殺技がロココのタマシイ・ザ・ハンドに食らいつく。
魂の、思いの強さなら誰にも負けない。
見てるか、これが俺がずっとに見せてきて、今一番見せたい俺の姿だ。
ボールの向かう先の視界が開け、高々と試合終了を告げる笛が鳴った。






あ、終わった。10年が、終わった。






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