円堂たちがもたもたと手続きを済ませている間に、さっさと処理を済ませる。
1人だけ違うカウンターで手続きをしたことには誰も気付かなかったようで、のんびりとソファーに腰かけ円堂たちの準備を待つ。
昨日一足先にライオコットを発ったフィディオに一緒に帰ろうと誘われもしたが、最後の瞬間までイナズマジャパンの一員でいたかったから今もここにいる。
お土産に何を買ったあれを選んだと楽しげに話している1年生たちは、フィールドの外に出ると試合中の頼もしさが吹き飛んでいる。
綱海は相変わらず空が苦手なようで飛行機は嫌だと駄々を捏ねていて、最年長者の風格が海の泡のごとく消えてしまっている。
みんな元気だなあ。
だらりと足を伸ばし寛ぎながら呟いていると、背後から当たり前だと声をかけられる。
声の主は後ろを振り返ったを真っ直ぐ見つめると、ゆっくりと隣に腰を下ろした。





「大会が終わってやっと解放されたんだ。はしゃぐのも仕方ないだろう」
「鬼道くんははしゃいでるようには見えないけど」
「やった優勝だ俺たちは世界一だ!」
「えっ」
「・・・とでも言ったらほら、は驚くだろう。俺だってもちろん喜んでいる、嬉しいさ」
「そ?」
「そういうこそ、どうして試合が終わった後浮かない顔をしてたんだ? 何か問題があったのか?」
「ううん別に。終わったなあって思ったら寂しくなっちゃって」






 終わったという単語が重くて深くて、自らが発したにもかかわらず言わなければ良かったと思ってしまう。
鬼道はの横顔をちらりと見ると、おもむろにの頭に手を乗せた。
撫でることに慣れていないせいか手つきはぎこちないが、痛くならないように細心の注意を払い加減を調節しているのがわかり、おかしくなる。
思わず吹き出したに、鬼道はゆるりと頬を緩めた。
やはりは笑っていた方がいい。
真剣な表情を浮かべているは美しいが、笑っている彼女を見ている方がほっとする。
ずっと見ていたい、見守っていたくなる魔性の笑みだった。






「俺はと会って、将来の夢を見つけたんだ」
「ああ、なんかちょっと前からそれっぽいこと言ってたような気もする。どんな夢?」
と同じものを見ることだ」
「えっ、なぞなぞ?」
「いいや、夢だ。は帰ったらまた、サッカー部からは一歩引くんだろう」
「そうだね」
「違う道を歩いていても、見ている方向は同じでいたい。雷門に戻ってからも、試合の時にはアドバイスをしてくれないか?」
「それはできないお約束」






 できないかもしれない約束はしない主義だからと続けると、鬼道の眉根が少し下がる。
鬼道の望みは叶わない願いだ。
だから下手に約束をしても、鬼道をぬか喜びさせ期待させてしまうだけだ。
人にむやみに期待はさせたくない。
期待して叶わなかった時が辛いなら、初めからそう思うことになるきっかけを与えなければいい。
は鬼道にごめんねと告げると、のっそりと腰を上げた。





「私もう行かないと」
「まだ少し早くないか?」
「ううん、もう時間。女の子は準備に時間かかるから、ちょっと時間多めに見積もっとくもんなの」
「そうか。俺はに教えられてばかりだな」
「鬼道くんは教えがいあるし、たくさんいろいろ教えてくれるから大好き。ゴーグルもありがと、宝物にするね」
「できればそれを使う日はなくなってほしいが」
「ああ、それは無理すぐに使っちゃうかも。またね鬼道くん、修也にもよろしく言っといて」
「ああ、またな」






 座ったまま見送る鬼道に軽く手を振り、搭乗口へと歩き出す。
行き先に不信感を抱いたのか鬼道が名を呼びかけるが、聞こえないふりをして背を向けたまま歩き続ける。
振り返ってはいけない。
ここで振り返ったら、この場でゴーグルを使う事態になりかねない。
思い出は綺麗なままで、笑顔のままであってほしい。
は顔を伏せると、小声でさよならと呟いた。






俺は今、違う道を進むを見送った気がする






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