フットボールフロンティア―――全国中学サッカー大会当日、はまたもや厄介事らしきものに巻き込まれようとしていた。
一緒に開会式を観に行ってくれるサッカー好きの友人も彼氏もいないは、今日ものんびりと選手控え室への侵入を試みていた。
しかしさすがは全国大会の開会式だ。
いつものようにふらりと立ち寄るにはガードが固すぎた。
今日くらい大人しく観客席で選手たちを見守っておけという神のお告げなのかもしれない。
仕方がない、諦めるか。
ゆっくりと何かの控え室らしき前を通り過ぎていると、急にドアが開いた。
部屋の中から現れた少女としばし見つめ合う。
よし、知り合いではない、先に行こう。
小さく会釈して通り過ぎようとしただったが、あのと呼ばれ両手を握られたため動けなくなる。




「あの、どちら様ですか・・・?」
「お願いします、手伝って下さい!」
「いやいや、何を!?」



 話の内容を聞く前に部屋に引きずり込まれる。
女の子だからと油断したのがまずかったのか。
ベンチに座らされ固まっていると、先程の少女ががばりと頭を下げた。
真っ白な制服と帽子とプラカードを差し出して。



「担当の子が急に来れなくなっちゃって、あの、代わりにやってくれませんか!?」
「・・・何を?」
「プラカード持ちです。これ持って歩くだけだからそんなに難しくないですし、あっ、お気に入りの中学校の札持ってくれてもいいですし!」
「お気に入りのチームかー・・・」



 一番に応援しているのはやはり雷門だ。
母校だし知り合いも多くいるし、応援しないわけがない。
しかし帝国も捨てがたい。
今やすっかりメル友の鬼道もいるし、何よりもイケメンが2人もいる。
いや、鬼道も入れておこう、3人だ。
帝国のプラカードを持っているのが自分だと、それだけで半田たちを驚かせることもできるだろう。
は差し出されたプラカードの文字を見つめた。
どこからどう見ても雷門としか読めない。




「よっし、じゃあこの雷門中ってとこのプラカード持つ! 前に続いて歩けばいいだけ?」
「はい! あと、髪の毛は帽子被るから下ろしてもらって・・・」
「オッケーオッケー。ふっ、修也たちの驚く顔見るのが楽しみだわ!」




 既に着替えが終わっている他の少女たちは急いで出て行く。
なるほど、のんびりとしている時間はないのか。
しかしテレビ中継もされそうだから、ここは日本中にちゃんの可愛さを見せつけるべく気合いを入れねば。
鼻歌を歌いながらスカートのホックを止め、帽子を被る。
痣もだいぶ薄くなっているし、これで薄着できるようになる。
鏡の前でばちりとウィンクすると、は悠々と入場口へと向かった。

































 円堂たちは入場直前の最後のミーティングを終えていた。
そろそろ出番である。
先導してくれる子はどこかと探すが、雷門中の子だけ見つからない。
ここでもトラブルが発生しているのだろうか。
なんてついていないのだ、俺たち。
どうするどうするとざわついていると、雷門中と書かれたプラカードを手にした少女がすっと円堂たちの前を通り過ぎた。
さらさらの明るい茶髪を下ろし、帽子を深く被り口元にうっすらと笑みを刷いた少女を円堂たちはじっと見つめた。
なんだか、先程余所の中学校のプラカードを持っていた女の子よりも随分と可愛らしく見えるのは気のせいだろうか。
秋と土門が綺麗な子だねと話し合っている。
よし、調子は上々だ。
は笑みを深くすると、帽子をちょっとだけ上げた。




「はぁいみんな」
「あれ、ちゃんどうしてここに? プラカード係だったっけ?」
「雷門のやる予定だった子が来れなくなったらしくて、そこらへんで代わりにスカウトされたの。どう、びっくりした?」
「雰囲気違うからわかんなかった。すごく綺麗な子だねって土門くんと話してたの」
「そうそう。いやー、どこのお嬢さんかと思ったらだったのかー。さすが観賞用」




 少々気になる言葉を言われた気もするが、ここは気にしない方向でいこう。
まぁねと言うと、は雷門中イレブンの先頭に立った。
ただ歩くだけと言われたが、リハーサルなどしていないのでよくわからない。
どこ経由でどこまで行くのと円堂に尋ねると、俺もよく聞いてなくてさと返される。
うーんと2人で悩んでいると、豪炎寺が呆れたように口を挟んだ。




「グラウンドを半周して、先に並んだ学校の隣に行く」
「なるほど。じゃあ曲がるタイミングは修也に任せるとして、出発!」




 大丈夫なのだろうか、こんな右も左もわかっていない子を先頭にして。
円堂たちはどきどきしながら進むが、当のは至って楽しそうに行進している。
豪炎寺の指示に合わせ動く姿は少しぎこちないが、とりあえず所定の位置につきほっとする。
みんなの視線を感じて気持ち良いよね、そうだよなと暢気に雑談している円堂とに豪炎寺は額を押さえた。




「お、鬼道! 怪我の具合はもういいのか?」
「人の心配をしている場合か?」
「あれ、鬼道くん? こんにちは鬼道くん、ほんとに怪我もう大丈夫? 無理しちゃ駄目だよ」
「・・・か・・・? ああ、もうだいぶ良くなった。雷門のプラカード持ちとは知らなかった」



 後ろこそ向かないが、きゃいきゃいと鬼道と会話を始めたに円堂と豪炎寺は思わず顔を見合わせた。
いつの間に仲良くなったのだろう。
帝国にいい思い出はないだろうに、やはり彼女がよくわからない。
しかも鬼道もなにやら上機嫌だ。
同じ質問をしたのに、こうも返答が違うと寂しくなる。




「推薦招待校・・・? やだ、あの子の方が目立って見えるじゃん。いいなー」
も充分目立っていたぞ。その服もよく似合っている」
「やだ、鬼道くんったら」
「ははっ、、いつの間に鬼道と仲良くなってたんだな!」
「かくかくしかじかあってさー。あ、でも円堂くんたち応援してるからね!」
「そっか! 良かったな豪炎寺!」
「俺に振るな」



 そのうち横からふらっと現れた男にを取られてしまうかもしれない。
案外その日って近い気もするのだが、豪炎寺はわかっているのだろうか。
前方の列で妙ににぎやかにしている鬼道とを見つめ、風丸はぼんやりとそう思った。






開会式のテレビ中継は、ママが録画してくれてた!






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