12.忍者無双 ~疾風伝~










 幼なじみと言っても所詮は性別も性格もまるきり違う赤の他人だ。
だから、どんな交友関係を持っていようとよほどのことがない限り干渉しない。
そうしていたのだが、今日ばかりは干渉したい。
なぜよりにもよって鬼道なのだ。彼のどこが気に入ったというのだ。
ペンギンか、ペンギンなのか。
豪炎寺は、鬼道本人のことは天才ゲームメーカーにして優れたサッカープレーヤーだとしか思っていない。
しかし、やはりまだ帝国という点では割り切れていなかった。
たとえ以前からオニミチと呼ばわり面識があったとしても、鉄骨落下の時に命を救ったとしても、もう少し警戒心というものを持つべきではないだろうか。
サッカーどころか受身もろくに取れないに簡単に吹き飛ぶほどのボールを蹴りつけた挙句、怪我まで負わせたのだ。
痣は打撲という病名で、立派な怪我だ。
実際にその痣を見たわけではないが、がわざわざ確認してくるくらいに酷かったのだ。
気付かれていないと思っていたのだろうが、時折痛そうに顔をしかめてもいた。
引きずってでも病院に連れて行きたかったくらいだ。
本当に、何をどうしたら仲良くなるという道が出てくるのだろう。
マントにゴーグルをつけた一見するとただの変人が、の言うイケメンになるのか。
そうだとしたら、常日頃からにかっこいいかっこいいと言われている自分や風丸はどうなるのか。
豪炎寺は、今度こそがわからなくなった。




「・・・で、それを俺に言われても困るんだけど」
「同じに気に入られた男としての意見が欲しい」
「別にいいじゃん。てか、なんで豪炎寺は俺や風丸がとつるんでるのには文句言わないのに、鬼道には文句言うんだよ。わっかんねー」
「半田や風丸は信頼している。だが鬼道は・・・・・・よくわからない」
「何だよそれ。ただの豪炎寺の焼き餅にも思えるけどな。焼き餅焼き餅」
「そんな餅は焼かない」
「なぁに、2人で餅パーティーでもすんの?」




 ひょっこりと現れたに、豪炎寺は口を閉ざした。
人がこんなにも心配しているというのに、こいつはまたのんびりと。
餅パーティーって何だよと半田はにツッコミを入れると、豪炎寺をちらりと見やった。
たまには彼のために一肌脱いでやるか。
どうせサッカーじゃ大して役に立っていないのだし。




、最近帝国の鬼道と仲いいんだって?」
「そうそう。今じゃすっかりメル友でさー」
「マジかよ。どんなメールしてんの?」
「大したことないよ。こないだなんて、今日はいいお天気だからサッカー日和だねって送ったら、帝国は屋内練習場だから関係ないって返信きた」
「うわ、それ切ねぇ!」
「あと、紫がいいんじゃないかとか」
「紫? 何だそれ」
「リボンの色。結局赤にしたんだけどね、修也も暖色系好きだから」




 そうだったよねと尋ねられ、豪炎寺は無言で頷き返した。
紫なんかよりも赤の方がよほどに似合う。
そもそも紫って何だ。
そんな毒々しくていかにもデスゾーンという色をに勧めるとは、やはり油断ならない。
は昔から赤やオレンジといった温かみのある色が似合うのだ。
紫のスカートなど穿いてきた日には、文句しか言うつもりはない。



「なんで豪炎寺の趣味に合わせてんだよ。別にの好みでいいじゃん」
「ああ・・・、そういえば改めて思うとなんでだろ。文句言われるのが鬱陶しいから?」
「だから、どうして豪炎寺がの服やら色に文句言うんだよ。なんかそれっておかしくね?」



 彼氏でもそこまで束縛しないと思うけどと指摘され、と豪炎寺は顔を見合わせた。
ずっとこの調子で過ごしてきたから、おかしいという感覚がなかった。
豪炎寺のセンスも悪くはないので文句を言われたら彼の指示通りに物を選んでいたし、ほとんど反論もしなかった。
それが当然だった。今更変えられそうにもない。




「まあ、赤は私も好きだから別にいいよ。さすがに紫はねー・・・、ないでしょ」
「紫はありえない。譲歩してオレンジだ」
「だから、そこで豪炎寺が譲歩する意味がわかんないんだよ・・・」




 仲が良いのか悪いのか、結局豪炎寺はを自分好みにしようとしているだけのような気がする。
普段は何かと反抗的なだって、嫌と言いながらも最終的に折れている。
やっぱり豪炎寺の鬼道に対する不信感はただの焼き餅だ。
イケメンで女子からも多大なる人気を集めている豪炎寺が、可愛くはあるが口を開けば7割方罵詈雑言しか口にしないに焼き餅とは。
今でこれだから、もしもに彼氏でもできたらどうなってしまうのだろう。
豪炎寺のご機嫌指数がとてつもなく酷いものになりそうな気がして、半田はその日が来ないことを祈ることにした。





































 全国大会で雷門イレブンの記念すべき1回戦の相手は、忍術を得意とする戦国伊賀島中だという。
は春奈から教えてもらった3ページにも渡る情報の初めの3行だけ読み、のんびりと控え室へと向かっていた。
私の代わりに激励してきてと夏未から頼まれたのだから行くしかない。
夏未が欠けた美少女分は自分で充分補えるだろう。
もしかしたら多すぎるかもしれないとは、相手が夏未だから思いにくい。




「ということで、夏未さんに代わってなんとなく応援に来ました。みんな、ファイト!」
「えっ、それだけですか!?」
「それだけって? うーん、じゃあ・・・・・・、何言う?」



 あっけらかんとしているに春奈は拍子抜けした。
何か役に立つことを言ってもらえたらと思って情報を渡したのだが、ちゃんと読んでくれなかったのだろうか。
恐る恐る聞いてみると、すごいよねあんなにたくさん集められるなんてさすが春奈ちゃんと褒められ頭を撫でられる。
これはこれで嬉しいが、褒められるために渡したのではないのだ。




「さって練習行こ! 忍者かー、飛び道具はやめてほしいよねー」
「影分身の術とか使ってきたりしそうだな!」
「お、円堂くん詳しいね! さては忍者マンガ好きだな?」
「風遁・螺旋手裏剣! なんちゃって」
「なんかそれっぽいよ円堂くん!」




 フィールドで始まった練習をじっと見つめる。
チームの調子も上々で、いつもどおりの力を発揮できそうな様子だ。
練習を見届けた後はスタンドで観戦するつもりだった。
マネージャーでもない一般人はベンチに入れないし、そこで観ようとも思わない。
言いたいことがあればハーフタイムの時に会えばいいのだし。
練習をしている雷門イレブンの間に一陣の風が走り抜けた。
どこからともなく現れた戦国伊賀島の少年に眉を潜める。
練習に割り込んできて勝負しろと持ちかけてくる無礼加減に、嫌気が差す。




「ったくもう、余計なのがごちゃごちゃと・・・。修也と風丸くんと勝負するなんざ見た目どおりのアホねあの子」
「見ただけでわかるんですか?」
「私にはわかるのよ、全身から滲み出るアホの子オーラが・・・」
さん、そんな不思議ちゃんキャラよりもツンデレの方があなたには似合います!」
、ごちゃごちゃうるさい目金くんの眼鏡を地面に叩きつけて、ぐちゃぐちゃに踏み潰したいな☆」
「それはヤンデレです!」



 ドリブル勝負を始めた風丸たちだったが、途中で乱入してきた戦国伊賀島の選手によって勝敗つかずとなる。
一応無礼を詫び姿を消した霧隠という少年に、はぶちりと切れたのだった。







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