14.青いマントの救世主










 ボクシングには、セコンドと呼ばれる選手を介添えしたりする補佐の人がいるらしい。
サッカーにセコンドはいないが、もしあるとしたら豪炎寺のセコンドは間違いなくここ数年自分だった。
だが今日は違う。
は、変わったユニフォームに合わせマントも新調した少年の背中を見つめた。
個人の能力が伸びすぎたおかげで歯車が狂ってしまった雷門イレブンを救うことができるのは、彼しかいなかった。
急に響木に雷雷軒に呼び出され、そこで話を聞いた時は驚いた。
サッカーに関してはずぶの素人だというのに、なぜ豪炎寺も響木も、天才ゲームメーカーと賞賛される鬼道までもが意見を求めてくるのだろう。
には考えても考えてもわからない謎だった。
わからないまま、今日はここに立っている。
思った以上にサッカー部に係わってしまった。




「鬼道くんは、ほんとに雷門を救う騎士になるんだね・・・」
「それは信頼してくれていると受け取っていいのか?」
「もちろん! ・・・鬼道くんの雷門としての初めての舞台が、素敵なものになりますように」



 つい先日由来を知り直した背中のおまじないを鬼道にもやってみる。
超合理主義者の鬼道がこんな子供だましの願掛けなど気にしないと思っていたが、案外嬉しそうな顔をされる。
そこまで好評なら商売にしてみようか。
ぼんやりと考えながら、フィールドへ現れた鬼道の後を続く。
敵も味方も観客も驚きの渦に包まれる中、動じることなく雷門ベンチへ向かう彼の後ろをついていく。
戸惑いながらも天才ゲームメーカーの加入を喜んだのを見てほっとする。
豪炎寺の時もそうだったが、彼らはなんだかんだで来る者拒まずの受け入れ態勢はいつでも万全なのだ。




ちゃん知ってたんだ・・・」
「うんまあ・・・。黙っててごめん、あと、来るのも遅くなって」
「間に合えばそれでいい。君は今日はここにいてくれるんだね」
「はい、響木さん」



 試合が始まるが、やはりパスが繋がらない。
繋がらないから攻め込むことはおろか、守備の壁にさえ綻びが生じてくる。
それもこれも、特訓して皆が強くなったせいだった。
そこまではわかっているのだが、改善する方法はわからない。
鬼道にそう話すと、後は任せておけと言われた。
試合の動向も気になるが、は鬼道の修正方法により興味があった。
だから、1点を先取されても特になんとも思わなかった。
あの守備ならば入れられるのも時間の問題だとわかっていた。
それに、10分経てばきっと鬼道がなんとかしてくれる。
残りの50分で巻き返せばいいだけなのだ。




「あとは無限の壁かー。どんなのだろ、壁山くんのザ・ウォールみたいなやつかな」
「ここまで失点ゼロなんです。きっと相当厚い壁なんですよ・・・」
「なるほど。ゴール前のDFがしっかり場所固めてるから3人で壁作っちゃうのかもね」



 そうだったらすごく難しいよねえと話しているうちに、染岡と豪炎寺がドラゴントルネードを放つ。
GKとDF2人が築いた強固な壁を目にして、は小さくあららと呟いた。
なんとなく言っただけなのにまさか当たるとは、超能力でもあるのかもしれない。
そのうちテレビ出演とかもしちゃうかも。
芸名は何にしようかとほんわり考えていると、前半を終えた円堂たちが帰ってきた。
後半は染岡の1トップでいくと宣言する鬼道に異を唱える声を聞き、はひょこっとチームの輪に首を突っ込んだ。




「何揉めてんの、半田」
「鬼道は染岡の1トップにするとか言い出したんだよ。俺たちのサッカーは豪炎寺と染岡の2トップだろ!? もなんとか言ってくれよ」
「なんとか」
!」
「ああごめん。いいじゃん別に染岡くんの1トップ。いくらサッカーバカの修也でも、トップになれないからって拗ねたりしないよ」
「けど・・・!」
「無限の壁って3人じゃないと作れないんだから、染岡くんにDF1人剥がしてもらってる隙にシュート決めればいいんでしょ。
 むしろごめんね染岡くん、攻撃フェイントなんかにしちゃって」




 こういう話してたんでしょと言って鬼道を顧みると、少し間を置いてそうだと返される。
言おうと思っていたことをすべて言われてしまった気がする。
前後の話をおそらく聞いていなかったであろうは暢気なものだが、鬼道の心中は複雑だった。
1トップにすると聞いただけでここまで的確に指示を飛ばせてしまうとは、試合中に相手の動きをすべて看破していたに違いない。
恐ろしい才能だと思った。予想以上のものに驚きもした。




「修也も別にいいでしょ、トップ下がっても」
「ああ。頼んだぞ染岡」



 ピッチへ戻っていく豪炎寺の背中を叩き押し出すと、は鬼道に近付いた。
ごめんねと謝るに何のことだと尋ねる。




「さっき突っかかってきた、どこもかしこもぱっとしない半田って子。鬼道くんのことすごいとはわかってるんだけど、メンバーが大切であんなこと言っちゃってるだけだから・・・」
「気にしていない。・・・他に何か、試合で気になったことは?」
「うーん・・・。無限の壁やってるDFって意外と足速いから、実際1トップでも厳しそう・・・」
「わかった」




 イナズマ落としも炎の風見鶏もイナズマ1号も阻まれる。
無限の壁を破る手立ては考えたはずなのに、壁には亀裂も入らない。
このまま負けちゃうのかな。
今までも何度も負けそうな試合はあったが、今日ほど負けを身近に感じたことはなかった。
何がいけなかったんだろう。
パスの乱れは鬼道が修正してくれたおかげでなくなった。
染岡の1トップも、そこそこいい機能は果たしていたはずだ。
せっかく鬼道を呼んだのに負けてしまうなんてあんまりだ。
1点でもいい。せめて、1点でも取ってほしい。
は祈るような気持ちでフィールドを見つめた。
鬼道がボールを蹴り上げる。
そういえば合体技では、我が幼なじみはいつもオーバーヘッドキックをしているな。
円堂と豪炎寺、そして鬼道が編み出した必殺技が無限の壁に突き刺さる。
あと少し、壁に穴を空けてくれ。
スタジアム中に歓声が響き渡り、は思わず立ち上がった。
すごい、本当にこのチームすごい。
決勝点となる2点目が決まり試合終了のホイッスルが鳴ったと同時に、の心の中はハグ態勢に入っていた。







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