は、豪炎寺家にて説教を受けていた。
正座もさせられているので、足が痺れて痛くてたまらない。
堪りかねてまだ続けるんですかと尋ねると、サッカーは90分間あると返される。
90分間フルタイムでお説教を受けるものなのだろうか、あれは。




「もう滅多なことで人に抱きつくな。免疫がない奴だっているんだ」
「だって鬼道くん、春奈ちゃんに抱きつかれてたから大丈夫かなあって・・・」
「妹と他人を一緒にするな。雷門に来て早々怪我をさせる気か」
「あ、あれには私もびっくりしたんだよ!? そんなに首締めちゃったっけとか、あ、そういや鬼道くんって潔癖症だったって思い出したりして!」



 千羽山戦で勝利を収め、ベンチに凱旋してきた円堂たちを喜んで迎え入れた。
半田と鬼道が握手を交わしているのをほっとした思いで見ていると、こちらを向いた鬼道と目が合う。
笑いかけてくれたことが嬉しくて、勝利へ導いてくれたことが嬉しくて、雷門に来てくれたことが嬉しくて鬼道に抱きつく。
帝国で春奈と抱き合っていたのを見たから、きっと鬼道は優しく抱き留めてくれる。
そう思っていたのだが、鬼道はぴくりとも動かない。
今日は鬼道なのかあははと笑って見ていた円堂たちも、鬼道の異変に気付く。
大変だ鬼道が息してない、きゃあお兄ちゃんかっこ悪いと周囲が騒ぎやたらと深刻な事態になり、は犯人として豪炎寺からお叱りを受けていた。
なぜ彼から叱られるのかがそもそもわからない。
ちなみに鬼道はすぐに息を吹き返し、今は何やらものすごく落ち込んでいるらしい。
そこまで嫌がられると悲しくなる。




「・・・でも、どうしよ・・・」
「何だ」
「いやだって、私鬼道くんには相当酷いことしてるでしょ。イエローカード2枚どころじゃないからね。そろそろ本気で我が家が鬼道くんとこに買い上げられるかも・・・」
「何言ってるんだ」
「うわあどうしよう・・・。鬼道くんが許してくれるまで鬼道くんのメイドでも下僕でも奴隷でもしますって言ったら、パパとママには迷惑かかんないかな・・・」
「落ち着け。そういう考えを持っていることこそ鬼道に失礼だぞ」
「お帰りなさいませご主人様とか言う練習しとくべきかな・・・。あ、でもご主人様じゃないや、坊ちゃん? あれ、鬼道くんの下の名前って何だっけ」
「有人だ。・・・、いいから少し落ち着け」




 本格的に鬼道に対して歪んだ印象を持ち始めたを宥めていると、ピンポーンとインターホンが鳴る。
相手を確認すると、顔の輪郭云々よりも真っ先にゴーグルが見える。
まずい、今彼を中に入れるわけにはいかない。
2つか3つくらい『まずい』が重なっている。
しかし、追い返すこともできない。




、もう正座は崩していいから黙ってどこか隠れてろ」
「だめ、足痺れて動けない。ああもうどうしよ、半田にしときゃ良かった」
「急にすまない豪炎寺。・・・誰か来ているのか? ・・・まさか」
「すぐ帰らせるから上がってくれ。、今すぐ出てい「お帰りなさいませ有人様、か・・・」




 リビングへ入ろうとした鬼道の動きがぱたりと止まる。
足音に気付き扉へと目をやったの顔が真っ青になる。
どうしようが頭の中でいっぱいになり、入りきれずに溢れてくる。
ははっと気付いた。
そうだ、今ちょうど正座をしているではないか。
今こそやるべき土下座ごめんなさい。
豪炎寺は、またもや不可解な行動を始めようとしているの体を躊躇うことなく床に転がした。
ついでに固まっている鬼道の体も大きく揺さぶり、正気に返らせる。




「いいか。さっきまで俺に話した内容は絶対に喋るな」
「でも、そしたら我が家が崩壊するよ。や、ややややっぱ言わなきゃ、私パパママ大事だもん!」
「・・・何か俺に話があるのか、。大丈夫だ、もう落ち着いているから何でも言ってくれ」
「あのですね鬼道くん! 度重なる鬼道くんへのご無礼をチャラにしてもらおうとか考えてないんで、鬼道くんが許してくれるまで私をメイドなり下僕なり奴隷なり扱き使ってくれていいよ!
 その代わり慎ましくも平穏な我が家を潰すのだけは・・・」

「・・・、お前には俺がそんなに鬼畜に見えたのか・・・」
「いや、鬼道くんはどっかの修也と違って優しいよ!? でも、さすがに優しさにも限度ってあるし・・・!」




 やはりこの子は、サッカーの戦術以外に関してはとことんまでに頭が弱いらしい。
おそらくもう、自分が何を言っているのかもわかっていないのだろう。
優しいと言ってくれるかと思いきや鬼畜発言である。
本当に彼女には振り回されてばかりで、だからこそ目が離せない。
に抱きつかれあまりの嬉しさと恥ずかしさに卒倒したことは、鬼道の中では抹消したい過去だった。
春奈にお兄ちゃんかっこ悪いと駄目出しされたのも辛かった。
後で聞けばサッカー部ではのハグは名物行事らしく、その行為のほとんどを風丸が引き受けているらしい。
これを逃す手はないのにお兄ちゃんたらと叱られ、鬼道は本気で落ち込んでいた。
の方で迷惑行為だと認識してしまったようで、ダブルで悲しい。




「ごめんね・・・。もう鬼道くんに抱きつかないから。やっぱ風丸くんにしとく」
「・・・それがいい。それから、鬼道は俺と違って優しいらしいからたぶん家も無事だ」
「ほんと・・・?」
「ああ。それよりも大丈夫か? 足が痺れて立てないんじゃないのか?」
「わ、ありがとう! 修也はいつも引っ張り上げるから、鬼道くんの優しさがほんと目に沁みるや・・・」




 鬼道の手を借りよいしょと言って立ち上がると、はへにゃりと笑いかけた。
帝国の鬼道がこれからは雷門の鬼道になる。
制服は似合うのだろうか。友人はできるのだろうか。
同じクラスになれたら嬉しいが、きっと半田は困るだろう。
1つのクラスにサッカーバカは3人もいらない。
クラスマッチでは優勝を大いに狙えるだろうが。




「悪いが、今日は豪炎寺と2人で話したいことがあるんだ。少し席を外してくれないか?」
「あ、うんわかった! じゃあ修也、鬼道くんも許してくれたからもうお説教はなしってことで!」
「気を付けて帰れ。ついでにあれも持って帰れ」
「あれは夕香ちゃんにあげるって言ったじゃん。じゃ!」




 ひらひらと手を振り部屋を出たがマンションの外に出るまで見送ると、豪炎寺たちは改めて部屋へと入った。
仲が良いんだなと言うと、豪炎寺が苦笑する。



「俺としては、お前とがいつの間に親しくなったことの方が不思議だ」
「俺も、帝国のことで絶対に嫌われるか怖がられると思っていた。・・・ああ思われていたのは心外だったが。変わった子だ、見ていて飽きない」
「ただでさえ足りていない頭のネジを、お前がボールをぶつけたせいで更に失くしたからな」




 ちくりと嫌味を言われた気もするが、こればかりは鬼道は弁明の余地がなかった。
命を救ってやったという思いよりも、酷いことをしてしまったという自責の念の方が今でも強い。
本人が大して気にしていなくて幼なじみの豪炎寺が気にしているというのも奇妙な話だったが。
お互い本当に、無意識のうちに相手を思いやっているのだろう。
改めて豪炎寺と話してみると、『豪炎寺先輩とさんの天然ぶりにいちいちショック受けてちゃ駄目!』という春奈のアドバイスがいかに的確なのかよくわかる。
さすがは我が妹だ、その情報に狂いはない。



「それで、俺に話とは? まさかの話したさに来たわけじゃないだろう」
「いや、のことだ。・・・豪炎寺、お前は帝国でのをどこまで知っている?」




 鬼道の口から唐突に告げられた真実に、豪炎寺は耳を疑った。






今更だけど、イナズマ界のサッカー試合時間って前・後半各30分なの? シニアになったら90分なの?






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