24.謎はすべて解けた?










 本当に宇宙人が大嫌いでたまらない。
は次々と現れるテレビ画面上部のニュース速報を腹立たしい思いで見つめていた。
朝から晩までニュース速報。
突然割り込む緊急ニュース。
ニューステロップを見ているのか番組を観ているのかわかったものではない。
朝から夕方までよくもまあ多くの学校を破壊するものだ。
そんな目立つ行為をして、宇宙人ごっこが終わった後彼らは日本で生きていけるのだろうか。
いや、日本どころか海外でも生きていけなくなるかもしれない。
そうなれば彼らは本当に宇宙に飛び立つしかない。
民間のロケットが開発されたという話も聞かないし、民間人が居住できる宇宙基地が完成したというニュースもない。
ああ、わかった。
宇宙ではなく彼らは深海へと潜伏するのか。
水深7000メートルくらいまで潜れば、さすがにマスコミも追いかけてはこないだろう。
がらがらどかんという校舎が破壊する時に聞こえた不快な音からも遠ざかり、完全なる静寂の中過ごすことができる。





「水族館行きたいなー・・・」




 海のことを考えていると、無性に水族館に行きたくなってきた。
鬼道がいなくなってからペンギンを見ることができなくて、ペンギン不足なのかもしれない。
カップルと親子連れでごった返しているかの場所へ1人で行くのは少し難しい。
かといって友人を誘おうにも、そんな心境じゃないと断られそうだ。
親と行ってもいいが、両親も最近は忙しい。
父はまた出張に出てしまったし。




「半田が元気なら誘ったのになー」



 なんだかんだであちらこちらを怪我している半田を誘うわけにもいかない。
遊ぶ前に溜め込んだ理科の宿題を片付けろと叱られそうだ。
理科はどうも苦手だ。
なぜ水を入れたら爆発したり色が変わるのか、そんなことを考えていると頭の中はクエスチョンマークでいっぱいになる。
国語も英語も数学も終わらせたのに理科だけは手付けずとは、これは我が幼なじみに知れたら大目玉を食らいかねない。
今ここに彼がいなくて良かった。
は心の底からほっとしかけ、少しだけ複雑な気分になった。
意外と涙もろい豪炎寺だが、まさか泣きながら電話をかけてくるとは思わなかった。
なぜこっちにかけてくるのだ。
普通そこは家族であるおじさんあたりではないのかとツッコミを入れたくもなったが、素直に言われるがままに応じ、気にかけてしまったのは良くも悪くも付き合いが長いせいなのだろう。
あそこまで弱気になった彼を見たのは久々だった。
夕香の交通事故以来だと思う。
あれから電話はちっともかかってこなくなったが、それで不安が解消されたわけでもなく、そのことにはまた困惑していた。
どこにいても傷跡のように心に存在を残していく男だ。
これでは別れた意味がないではないか。




「なんか、私ばっか修也のこと心配してるみたい。ほんとにメンタル弱いエースストライカーなんだからもう・・・」




 そうだ、帰ってきたら心配させた侘びということで水族館に連行しよう。
鬼道に連れて行ってもらうことも考えたが、ペンギン以外は興味がないであろう彼をわがままに付き合わせるのは申し訳ない。
その点、豪炎寺なら何も考えなくていいから楽だ。
ペンギンもイルカもアザラシもどれも満遍なく興味がなさそうなので、どこへ引きずり回してもテンションの上下を気にする必要がない。
そうだ、どうせ行くなら夕香も連れて3人で行こう。
宇宙人を倒した頃には夕香のリハビリも終わって無事に退院できているだろうし、夕香は可愛いものが好きだからきっとイルカやペンギンも好きになる。
夕香の名前を出せば渋ることもないだろうし。
持つべきものはシスコンの兄と目に入れても痛くない妹である。
夕香が絡めば幼なじみは自らの苦痛を厭わない。
そういう男なのだ。
そこまで考え、の脳裏にふと嫌な予感がよぎった。




「・・・わかった、だからあの時あの三つ子、修也に・・・・・・」




 あの時、宇宙人のグルと思われる男たちは確かに夕香のことで話があると言った。
夕香の話題を正体不明の連中に持ち出され、いい気分になるわけがない。
自分を逃がした後、何かがあったのだ。
いつでもどこでも誰の前でもと呼ばわる彼があの場で名前を呼ばずに『彼女』と呼んだのもきっと、係わらせたくなかったからだ。
帝国や影山のことで色々あったから、あの時は頭の回転が速い豪炎寺がとっさに機転を利かせて存在を悟らせないようにしてくれたのだ。
弱気になっていたのも三つ子連中に夕香という、何事にも動じない豪炎寺が唯一にして致命的な弱味を握られていたからだ。
変なことを言わなくて良かったと、は当時の自らの発言の妥当性に安堵した。




「なんで修也ばっかり・・・。夕香ちゃん、今度こそ夕香ちゃん守らなくちゃ・・・」




 野球部から金属バットを拝借していて良かった。
ホームランもバントもよくわからないが、振り回せばそれなりに攻撃力はあるだろう。
半田もたまにはいいことを言うものだ。
スター性のある人物ばかりが友だちでなくて良かった。
半田の友だちレベルがぐんと上がった。




「でも隠してて係わらせたくなかったってことは、私も気付かないふりしといた方がいいのか・・・」




 影山だけでなく宇宙人を名乗るキチガイ集団にまで目をつけられるとは、幼なじみもいつの間にやらものすごいストライカーになったものである。
地球を救うための戦いに参加してほしくないほどに、宇宙人にとっては脅威の存在なのか。
近くにいたから全然わからなかった。
もしかしたら修也と名前で気安く呼ばわってはいけないような、地球全体の宝物レベルの稀有な存在なのかもしれない。
立派に成長したものである。
外見ばかり立派になって、中身が伴っていないのが惜しくてたまらない。
夕香を見捨てろとは言わないし思いもしないが、もう少し打たれ強くなってもいいじゃないか。




「・・・ま、完璧人間だったら私みたいなサッカーできない子とは付き合わなかっただろうけど」




 時計がぽーんと昼の3時を告げ、はテレビのチャンネルをお気に入りのドラマの再放送へと変えた。
画面に映り出たのは雪国のサッカーグラウンドと雷門中サッカー部の姿だ。
あのカビ頭、私の大好きなドラマの再放送まで潰しやがった。
今日こそあのカビ頭をボコボコにしてもらわなければ気が済まない。
公開断髪式とかやってくれないだろうか。
たとえそこが雪国であろうと、バリカン片手に駆けつけたい。




「あ、れ・・・・・・?」




 雷門中の10番が豪炎寺ではない。
知らない人だが、また新しい仲間を加えたのだろうか。
それはわかっても、なぜ彼がいない。
まさか、もう手遅れだったというのか。
新入りの10番をDFに据え始まった宇宙人との試合を、はぼんやりと観ていた。







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