宇宙人を倒したはずが、また新たなる宇宙人が現れた。
エイリア学園にはいったいどれだけの数のサッカー部員がいるというのだろう。
フルメンバーで紅白戦ができるほどに部員がいるなど、帝国学園規模の大きさなのだろう。
宇宙というか、キチガイたちの間でサッカーがそこまで人気を博しているとは思わなかった。
野球部員たちはもう少しキチガイ内での野球人気を煽るべきだ。
宇宙人たちに勝利し歓喜に沸いていた円堂たちの前に現れた新たなる宇宙人を見て、はまたしても不愉快な思いをしていた。
まだまだこれからもテレビ番組が潰れるのかと思うと、日々の楽しみがなくなって寂しいことこの上ない。
宇宙人を名乗るキチガイがまだいるのならば、小出しにせずに一気にお披露目してほしい。
そうでなければ、終わらない戦いを強いられているようで不安ではないか。
はテレビの電源を切ると自室へと戻った。
机の上には真っ白な理科のプリントが高く積まれている。
帰ってきた鬼道たちに宿題を手伝ってもらおうと思っていた目論見があっさりと外れた。
このままでは登校日の提出に間に合わない。
宿題もできない子というレッテルは貼られたくない。
品行方正なさんという面子を保っていたいのだ。
せめて宿題くらいは片付けておきたかった。




「・・・あ」




 意味のわからない理科の宿題と格闘すること2時間後、の携帯電話がコール音を響かせる。
発信元は鬼道だ。
旅に出てからというもの、鬼道は毎日電話をかけてきてくれる。
今日は何をした、あれをした、このフォーメーションはどう思うかなど、話の内容は多岐に渡っている。
心配させまいとしているのかとても丁寧に話してくれ、も心地良く聞いていた。
本当に鬼道はマメな人である。
彼の優しさは神クラスだと思う。




、今時間はいいか?』
「うん。試合観たよ、勝利おめでとう!」
『ありがとう。・・・だが、また次がいるとはな・・・。しばらくはまだ雷門に帰って来れそうにない』
「そうみたいだねー・・・。早く帰ってきてほしいんだけどなー」
・・・・・・。、帰ってきたら伝えたいことがあるんだ』
「今じゃ駄目なの?」
『直接会って話したい。いいか?』
「うん、じゃあ楽しみにしてるね!」




 今日の試合のフォーメーションについて意見を求められ、思ったことをそのまま伝える。
正直今日は試合どころではなかったのだが、それでも返した言葉に鬼道は満足してくれたらしい。
やはりに訊いて良かったと嬉しそうに言われると、こちらも嬉しくなる。
鬼道の話によれば監督は思ったことをちっとも口に出さない人らしく、すべて自分たちで考えなければならないらしい。
そんな監督でもやっていけるのは、ひとえに鬼道がいるからだと思う。
監督の考えを通訳して円堂たちに伝えてと、チーム内での鬼道の重要性は高まるばかりだ。
加えて毎日こちらにも電話をかけてくるとは、大変ならば電話タイムは休息時間に代えてもらって一向に構わないのだが。





「鬼道くん、すごく大変そう」
『だがやりがいはある。監督も口には出さないだけで、ゲームメークの才能はあるんだ』
「でも昼間は試合とか練習して、空いた時間は私の相手してってそりゃいくら鬼道くんが天才でもきついんじゃない?」
『・・・俺がこうやって毎日電話するのは迷惑か? 迷惑ならやめる、すまない』
「いや、私は全然いいんだけど、鬼道くんきつくないの? 無理してない?」
『大丈夫だ。、俺はとこうやって話している時間が一番落ち着くんだ。といるこの時間が好きなんだ』




 一緒にいる時間が好きや落ち着くなど、そんな言葉は初めて聞いたかもしれない。
いつも一緒にいると疲れるだの胃が痛くなるだの言われていたから、鬼道の言葉に思った以上にきゅんとした。
さすがは鬼道だ、優しければこうも人を癒すことができるのか。
気を利かせて言ってくれているだけなのだろうが、そんな気遣いもは嬉しかった。
ただでさえ忙しそうな鬼道に気を遣わせていることが不安でもあったが。




「えへへ、ありがとう鬼道くん。でもやっぱり無理はしないでね」
『ああ。・・・頼ってばかりだな、俺は』
「いいよいいよ、私で良ければ肩でも背中でも貸すよ。鬼道くんは頼られてばっかなんだから、誰かに頼らないと壊れちゃう」
は頼もしいな』
「まあね!」




 電話をかけてきた時よりも心なしか柔かくなった鬼道の声に安心すると、は電話を切った。
今までは着信履歴はどこを見ても『修也』と表示されていたのに、最近は『鬼道くん』が占めてきた。
このままではそのうち全部が鬼道になってしまいそうだ。
それはそれで少し寂しいが、向こうがかけてこないから仕方がない。
こちらからかける気は毛頭ないし。




「ほんっとに鬼道くんはいい男だなー。彼女さんになる人が羨ましいや・・・」




 そういえば鬼道に好きな女の子はいるのだろうか。
いるのならば、その人が知り合いならぜひとも彼の恋路に協力したい。
明日それとなく訊いてみよう。
はふっと笑うと、再び宿題に向き合った。





























 鬼道は切れた電話を見つめ、頬を緩ませていた。
何を勘違いしたのか通話が苦痛になっていると思っていたらしいが、誤解が解けて良かった。
今日も相変わらず元気だったし、戦術眼も冴えていた。
なによりも、試合を観てくれていたことが嬉しかった。
好きな人に応援してもらっていると知ると、やる気は2倍にも3倍にもなるのだ。




「よう鬼道、電話してたのか?」
「円堂」
「すっかり鬼道の日課になっちゃったな、への電話。・・・元気だった?」
「ああ。・・・豪炎寺のことは訊かれなかった。俺が言わなかったからかもしれないが」




 試合を観ていたならばすぐに気付いたはずだ。
雷門の10番が見ず知らずの少年になっていたことと、グラウンドのどこを探しても豪炎寺がいなかったことに。
それでも尋ねてこなかったのは、既にキャラバンを降りたことを豪炎寺本人から聞かされていてからだろうか。
鬼道にとっては羨望と嫉妬の対象でしかない2人の間柄ならば、充分にありえることだった。
豪炎寺が不調だった理由も、彼が抜けてしまった本当の理由も、ならば知っている気がした。
そう思っても尋ねなかったのはやはり、どんな形であっても彼のことを考えてほしくなかったからだと思う。
無意識のうちの情報を取捨選択し、耳に聞き心地の良いことだけを話して聞かせる。
我ながら小さな男だと思う。
敵がいなくなった隙を突く、小ずるい方法だとも。





「変わってるよなって。なんであんなにサッカーの戦略わかるんだろ」
「・・・それを俺に訊くのか」
「だって鬼道はゲームメーカーで、も似てるじゃん。共通点があるのかなって」
のあれは、豪炎寺のおかげだろう」
「それはなんとなくそうだとは思ってるけどさ」
「豪炎寺はFW、しかもエースストライカーだ。どうすればより効率良くあいつのパスが通るのか考えながらボールの動きを見てたんだろう。
 ずっとそうしていればおのずと戦略が見えてくる。にとってのゴールは豪炎寺で、豪炎寺にパスが通れば後はどうとでもなると思ってるからな」





 豪炎寺を中心に見ているという表現は比喩でもなんでもなく、事実なのだ。
例えば円堂などは視界のギリギリ隅にしかいないだろう。
が攻撃陣の指摘を多くするのはそのせいだと思う。
もちろん、チーム全体のことをわかっていなければできない指摘ばかりなのだが。




「鬼道は、の話をしてると嬉しそうだな」
「まあな」
「豪炎寺もいい幼なじみ持ったよな! 風丸じゃないけど、なんで豪炎寺はの良さに気付いてないんだろう」
「俺としては、このままずっと気付いてもらわない方がいい」
「そっか! じゃあ鬼道もまずは、鬼道を中心に見てもらえるようにしなくちゃな!」




 笑顔でさらりととんでもなく難しいことを言うものだ。
それができればここまで苦労はしないし、回りくどいこともやっていない。
俺を、俺だけを見てくれと言えたらどんなにいいだろうか。
鬼道は円堂の励ましを胸に、次なる奪取作戦を練るのだった。






鬼が居ぬ間になんとやら






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