の日課は病院通いともう1つあった。
雷門中のサッカーグラウンド整備である。
使う人がおらず復興活動もまずは校舎から始められるので、グラウンドは未だに荒れ放題だった。
ドリブルをしても、地面に散らばった瓦礫によって軌道が変わるくらいに使い物にならないグラウンドだと思う。
ドリブルも何もできないには、それを確かめる術はないのだが。
しかし、それにしても一向に捗らない作業だ。
今日などは遂に工事関係者と校長から、ここに機材を運ぶからちょっと退きなさいと言われてしまった。
今までの作業は何だったのだろうか。
1人でずっと寂しく、腰やら首やらを痛めながら頑張っていたのに。
無駄に痛めて老けてしまったようにも思えて、悔しくもなる。





「お・・・!?」




 ころころとサッカーボールが転がってきて、はよろりと立ち上がりボールを手に取った。
どこから転がってきたのだろうか。
まさか、仮初めの保管庫まで壊れてしまったのだろうか。
そうだとしたら、いったいどれだけの数のボールを拾い集めればいいのだろう。
まったく、こういう仕事は部員の仕事なのに半田ったら使えないんだからもう。
ボールが転がってきた方を振り向いたは、ボールの持ち主らしい人物を発見し歩み寄った。
雷門中サッカー部のジャージを羽織っているが見たことがない顔だ。





「はい、これ」
「・・・ま」
「ま?」
「お前のオーラは俺には眩しすぎる・・・」
「ん? ああ、神々しい美しさとかそういうことか! 雷門中の人? 残念だけどここのグラウンド使いもんになんないよ」
「稲妻町のことはよくわからない。来たばかりだから・・・」
「転校生さん! 私もちょっと前にこっち来たんだよ。うーん、サッカーグラウンド他のとこ案内する?」




 暗い雰囲気100パーセントの少年がボールを抱えたまま無言で頷く。
よほどサッカーがしたいらしい。
さてはフットボールフロンティアで優勝した雷門中サッカー部に憧れて転校してきたのか。
見た目とは裏腹にミーハーなのかもしれない。
は手早く荷物を纏めると、少年を引き連れ河川敷のサッカーグラウンドへと向かった。
ここが荒らされていなくて良かった。
はベンチに座ると、ボールを蹴りだした少年を見つめた。
なかなか巧みなボール捌きだ。
FWなのか、シュートの練習をよくしている。
懐かしいなあ、昔もこうやって日がな一日修也の練習見てたっけ。
ふふふと笑みを浮かべて眺めていると、少年がじっとこちらを見つめてくる。
どうしたものかと思い首を傾げると、ぽーんとボールが緩やかな弧を描いて飛んでくる。
サッカーできないんだけど勘違いしちゃってるのかな。
ボールを持ったままではいけないのでフィールドに出てくると、やらないのかと尋ねられる。
一応気にはかけてくれていたらしい。
サッカーに興じてすっかり忘れられていると思っていた。





「私とサッカーするの?」
「練習の手伝いをしてくれ」
「まさか連携技!? サッカー未経験者の私にはいきなりハードル高すぎるんだけど」
「連携技じゃない。とりあえず蹴ってくれ」
「ふむふむ」




 とりあえず蹴ってみて、うっかり川にボールが落ちてしまったらどうしてくれるのだ。
恥ずかしいではないか、フォローの準備はできているのか。
は突然の要望に大いに戸惑いつつもボールを地面に置いて、なんとなく身構えてみた。
ボールって普通に蹴れば転がるものなのだろうか。
どこで蹴ればいいのだろう、つま先、それとも足の甲?
つま先で蹴ったら痛そうだから、足の甲で蹴ってみよう。
大丈夫、運動神経は豪炎寺ほど良くはないがまったくないわけでもないのでただ蹴るくらいならばたぶんできる、きっとできる、できなくちゃ困る。





「よっしそのくらいならやってみよう。いっくよー!」




 高さや威力の期待はしないから、とにかく真っ直ぐ転がってくれますように。
川に落ちたら恥ずかしいので、川にだけは落ちませんように。
ぽーんと蹴り上げると、願いが届いたのか真っ直ぐ、しかしやたらと高くサッカーボールが綺麗に舞い上がる。
邪魔にならないようにすぐさま離れて、少年の必殺技とやらを見物する。
体を捻り、回転しながら身に纏うのは黒い炎。
この動きは知っている。
真似はできないけれど、いつでもすぐに思い浮かべることができるくらいにずっと見続けているから見間違うはずがない。
唯一違うのは炎の色だけだ。




「・・・・・・いっやー、みんな案外できるもんなんだー?」
「ダークトルネードという。いいボールだった」
「お宅と色違いってだけで他はほとんど一緒の必殺技やってる知り合いにずっと昔やってたから・・・」
「そうか」
「サッカー上手なんだね。もちょっと早くこっちに来てれば円堂くんたちと宇宙人バスターできたのに」
「闇に生きる俺に救世主は似合わない」





 言っていることがよくわからない。
闇だの影だのとネガティブ精神もいい加減にしてほしい。
なにやらこちらまで気分が落ち込んでしまいそうだ。
これで初めに眩しいと言ってくれなかったら嫌味の1つでも言っていた。




「でもせっかく上手なのに1人じゃなー・・・。どっかからキーパーくらい拾ってきたら?」
「当てがない」
「そっかそうだよねそういや。おすすめはそうだなー、帝国のイケメン源田くんとか、あとあと・・・」
「顔で選ぶつもりか?」
「強い上にイケメンなの! もしくはあそこ、御影専農に行っておいでよ。髪形は変だけどあそこのキーパー強いから」




 少年に御影専農の場所を教えると、はグラウンドから背を向けた。
今日もまた現実逃避をしてしまった。
本気で宿題が片付かない気がしてきた。
言うほど運動はしていないし汗も掻いていないが、お風呂にゆっくりじっくり浸かって疲れを癒したい。
長風呂をするともれなく眠たくなるので、そうなるとますます宿題が終わらない。
ちゃん宿題終わったのと母からお説教を受けるのも嫌だ。
目の前の少年は特別勉強ができるようにも見えないし、たとえできたとしても頼みにくい。
会話が続かないし、話が噛み合わないから難しいのだ。
世の中に我が幼なじみ以上に話が噛み合わない人物がいるとは思わなかった。
必殺技から性格から、人を戸惑わせるには事欠かない人物である。




「じゃ、私もう行くから。またね、えーっと・・・」
「闇野カゲト。シャドウと呼んでくれ」
「そうそう、闇野くん」
「・・・・・・」




 性格も暗いが、名前も暗いんだなあ。
名は体を現すとはよく言ったものだ。
何をやってもそこそこできてそこそこ満足できる半田。
風のように素早い風丸。暑苦しい豪炎寺。
上手い具合にできている。




「・・・どっかに理科が得意なリカちゃんとかリカオくんとかいないのかなー・・・」




 できれば明るい性格の女の子かイケメンがいい。
は金属バットを隠した花束を肩に担ぐと、夕焼けに染まる赤いサッカーグラウンドを後にした。






ゲームのシャドウさんは他の追随を許さない電波ってマジですか






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