染岡と見たことのないFWがしきりに必殺技を披露している。
サッカーを始めて結構な時間が経つがまだ元気とは、彼らの体はどうなっているのだろう。
は草むらに座り、染岡たちのサッカーをじっと眺めていた。
染岡の足捌きに不穏なものを感じるが、やめるように言った方がいいのだろうか。
でも染岡くんいかつい顔して怖いしなあ。
あの顔で睨まれたら本当に怖いだろうしなあ。
怖い思いはできる限り避けたい。
怖い思いはさせないと頼もしい約束をしてくれた豪炎寺も今はいないのだし。
しかし、染岡の容態も気になる。
どうしたものかと考え込んでいると、背中をちょいちょいとつつかれた。




!」
「わ、風丸くん! 久し振りだね、どうしたの、休憩?」
「ああ。さすがにちょっと休みたくなってさ」
「そっかそっか。あっ、膝枕とかしちゃう?」
「やってくれるならお願いしていいかな」




 女の子の膝枕って初めてだなあと言うと、風丸は気持ち良さそうに目を閉じた。
鬼道ほどに飢えてはいないが、やはりいるのといないとでは心の余裕に大きな違いが出てくる。
張り詰めていた緊張の糸がふっと緩み、ほっとする。
風丸は目を開けると、にこにこと笑って見下ろしてくるの頬をゆっくりと撫でた。
この手触りも懐かしい。
いいなぁ豪炎寺、こんなにふわふわのほっぺを何年も触ってるんだからなあ。
心中の呟きが口に出ていたのか、がきょとんとした表情を浮かべている。
違うのかと尋ねると、はぶんぶんと首を横に振った。




「修也は突然のハグに見せかけた圧死行為と手を引っ張る以外は触んないよ。風丸くんくらいだよ、こんなにたくさん撫でてくれるの」
「そうなんだ。なんだか俺の特権みたいだな」
「ほんとだ、風丸くん専用みたい」




 2人でくすくすと笑い合っていると、の胸元でしゃらりと金属が擦れる音がする。
何かと思い手を伸ばすと、どこかで見たことがあるネックレスが手の中で輝く。
どこで見たのだろうか、これを。
見た場所とシチュエーションを思い出した風丸はああと声を上げた。
やっともらえたんだとに言うと、何のことと返ってくる。




「これ、いつ豪炎寺からもらったんだ?」
「なんで修也からってわかったの?」
「一緒に買いに行ったんだよ。ほら、青い髪留めの」
「あ、そういえばそんなこと言ってたかも! これはねー、風丸くんたちが旅に出る前の日くらいにもらったんだ。
 俺だと思えって言われちゃって、ほっとくわけにもいかず毎日つけてる」
「へえ。さすが幼なじみってとこかな、によく似合ってるじゃないか。可愛い」
「ありがとう!」





 口うるさくないしダメ出しもしてこない静かな子だから気に入ってるんだとが言い、ペンダントトップを天に掲げる。
風丸は起き上がりの隣に座り直すと、一緒にネックレスを見上げた。
こんなに健気で可愛い幼なじみをほったらかしにして、どこに行っちゃったんだ豪炎寺。
本人は気付いていないのだろうが、会話の節々に見え隠れする寂しげな表情を風丸は見逃していなかった。
強がっていてもやはり寂しいのだろう。
お前がふらっふらしてるから鬼道が入り込んできて、それはお前が望むことじゃないだろうにどうするつもりなんだ。
風丸は豪炎寺のことも鬼道のことも、どちらも同じくらい好きだった。
日夜に電話をかけている鬼道を見れば必死だなとエールを送りたくなるし、今日も鉄橋の上でなにやら話し合っていた時も、想いが伝わるといいなと願っていた。
の反応を見る限りでは、また不戦敗を喫したようだが。





「・・・鬼道から聞いた?」
「ううん、修也がいないのは雪国での試合で知った。鬼道くん優しいから、私が悲しむんじゃないかと思って隠してくれてるんだよ」
「・・・それだけじゃないと思うけど」
「うん?」
「いや、なんでもない。そうだ、久々にあれやってくれないかな、背中のおまじない」
「いいよ! あっ、私も風丸くんにぎゅってしてほしい!」
「どうしよっかなー・・・。さっき鬼道にずっとされてて、ちょっと焼き餅妬いたかも」
「見てたんだ!? むー、でも鬼道くんと風丸くんのハグはちょっと違うから・・・」
「冗談だよ。ほんっとと一緒にいると飽きないなあ」





 両腕を広げおいでと言うと、が笑顔で抱きついてくる。
ああなんだかもうほんとに可愛いなあ。
どうしてこんなに可愛く育ったんだろう。
あいつが世の中の穢れたものを全部シャットダウンして純粋培養したからなのかなあ。
でも口は達者だよな、そこもまたいいんだけど。
抱きついてくるがじっとグラウンドを凝視していることに気付き、風丸も顔をそちらへ向ける。
どうしたんだと尋ねると、染岡くんがとが呟いた。





「染岡くん、最近無茶な戦いした?」
「ああ・・・、真帝国との戦いでちょっと・・・。でも本人は大丈夫だって言ってるよ」
「そうなの? でもなんか、あの足やっばそうな気がするんだよねー・・・」




 気のせいだと思いたいが、気のせいではないだろう。
伊達にサッカー選手たちを見てきたわけではないのだ。
特に、染岡などは豪炎寺を見ていたらもれなく一緒に視界に入ってくるほどに意外にも観察している選手なのだから、少しの異変でもわかりやすい。
なんだかんだで試合では豪炎寺を中心に見ていた、なんともほろ苦いエピソードのおかげである。
自分をメインに見られているなど、豪炎寺は露とも思っていないだろうが。





「染岡!」




 明日の痛みが限界に達したのか、染岡が地面にうずくまる。
ああやっぱり思ったとおりだった。
染岡の様子を見に駆け出す風丸の後に続き、もベンチへと向かう。
監督らしい女性がを追い抜き、風丸の前まで行くとなにやら命令している。
ざわめき揉め始めた輪の中で、ひときわ大きく風丸の反論の声が響き渡った。





「本人がやると言ってるんです! やらせてやってもいいじゃありませんか! 今の俺たちに必要なのは、自分の体がどうなろうと戦うという気迫です!」
「風丸くん・・・?」
「円堂、お前だってわかるだろ。染岡は最初から雷門中サッカー部を支えてきた仲間なんだ!」




 風丸の様子がおかしい。
様子というよりも、言っている内容が上手く理解できない。
いつもならすとんと入ってくる風丸の言葉に頭が違うと叫んでいる。
健康な肉体あってこそのスポーツだ。
体を壊してまでやるのは違う。
それでは宇宙人や世宇子、佐久間たちと変わらないではないか。
そうだというのになぜ、風丸はこんな事を言うのだろう。
宇宙人との戦いは、風丸の精神をここまで追い詰めてしまうほどに過酷なものなのだろうか。
ますますもって宇宙人が許せない。
やはり鉄パイプをもう一度調達してこようか。
この際カビ頭でなくても構わない。
宇宙人の親玉だかキャプテンだかにがつんと3発はお見舞いしてやりたい。
は、風丸の変調の原因を宇宙人のせいだと実に都合良く決めつけた。
そうだ、そうに決まっている。
そうでなければ、風丸がいかにも危険な発言をするわけがないのだ。





「あの熱さ、嫌いじゃない」
「いるならいるって言ってよ闇野くん」
「シャドウだ」
「はいはいシャドウね。闇野くんも連れてってもらったら、宇宙人バスターツアー」
「俺の今のシュートでは宇宙人に勝てない。完成したその時にチームに加えてもらう」
「実戦で技を磨くっていうか、基本あのチームぶっつけ本番で必殺技完成させてるんだけどね」
「お前からダークトルネードのアドバイスがなくなる時までは駄目だ」
「あっそ」




 相変わらず会話のパスをしようという努力が見受けられない2人だなあ。
これでいいと2人が2人とも諦めているのかもしれない。
杉森は今日もてんで噛み合っていない会話をつらつらと続けているシャドウとを眺め、苦笑いを浮かべた。






こういうタイトルのプリキュアあったよね






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