鬼道は悩んでいた。
沖縄に炎のストライカーと噂される男がいると聞きやって来た沖縄の地で悩んでいた。
日課の電話をかけようと思っているが、豪炎寺のことを伝えようか伝えまいかで悩んでいた。
結局、彼がいなくなったことは告げずじまいだった。
宇宙人との戦いはテレビ中継もされていたらしいので、は割と早い段階で豪炎寺がいなくなったことに気付いたはずだ。
以前は、豪炎寺の離脱については彼が直接に話していただろうと勝手に考えていた。
しかし今日出会ったバーンとかいう宇宙人の話しぶりから見ると、どうもその線はないような気がしてきた。
世界で妹と家族の次くらいにを大切にしているであろう豪炎寺が、自分からわざわざに迷惑がかかるようなことを言うわけがない。
そうだとすればは誰かに尋ねるでもなく、詳しい経緯を知ることなく過ごしているということになる。
どこで何があって彼がキャラバンを去ったのかを知ることなく、また、毎晩電話をかけてくる人物が隠し事をしていると知っていた上で。
今になって悩むのはすべて、あの時きちんと話せなかったからだ。
話していれば、後ろめたい思いをすることなく素直に再会の可能性がある喜びと興奮を分かち合えたのに。
男の嫉妬は醜いと言われる理由を、鬼道は身をもって知った。




「・・・今からでも遅くはない、言おう。そして謝る・・・・・・」



 覚悟を決めてへと電話をかける。
波の音が聞こえるけどと尋ねてくるに沖縄にいることを伝えると、いいなあと弾んだ声が返ってきた。




『こないだまでは福岡にいたのに今度は沖縄かあ。沖縄に宇宙人がいるの?』
「いや・・・。・・・炎のストライカーと噂される男がいると聞いて、沖縄まで来たんだ」
『炎のストライカー? なんだか暑苦しそうな人。で、見つかった?』
「何も思わないのか?」
『何って何を?』
「炎のストライカーが豪炎寺かもしれないとか・・・」
『ああ・・・、そういうこと』




 沈黙が流れ、鬼道の心臓が慌ただしく鼓動を刻み始める。
やはりまずかったか。
今になって急に豪炎寺の話を振って戸惑ってしまったか。
どうしよう、タイミングをかなり間違えてしまったかもしれない。
1人で焦っていると、電話からのもしもしと言う声が聞こえてきた。




『ごめんね鬼道くん。え、炎のストライカーって修也なの? あの人そんな大層な通り名持ってんの?』
「そこから訊くのか・・・。そういうのはの方が詳しいだろう、一緒にいたんだから」
『いやあ、私、実は修也が他の人に何て呼ばれてるかとか全っ然知らないんだよね。私にとって修也は腐れ縁のサッカー馬鹿ってだけで、それ以外何も思ったことないから』
「そうか・・・。会った炎のストライカーは豪炎寺ではなくて宇宙人だった。・・・すまない、豪炎寺がいなくなったことをずっと黙っていて」
『ううんいいの。鬼道くんこそごめんね、なんだかずっと気を遣わせちゃってたみたいで。でも大丈夫だよ、別に修也の話出されても寂しいとか思わないから』




 それとも寂しいって思っちゃうのは鬼道くんの方なのかなと尋ねられ、鬼道は違うと即答した。
違う、そんな優しい理由ではない。
ただ、に豪炎寺のことを考えてほしくなくて、大好きな人が『修也』と呟くのを聞くのが嫌で、故意に豪炎寺の話を避けていたのだ。
本当に優しいのはだ。
鬼道くんは優しいという前提があるからなのだろうが、人の心の黒くて醜い部分を見ようとせずに、白くて綺麗なところだけを汲み取ってくれる。
長所を見つけるのが上手いのかもしれない。
だからゲームメークもさらに冴え渡っているのかもしれない。




『じゃあ鬼道くんたち、今は炎のストライカー探してるの?』
「いや、今日は大海原中という地元のサッカー部と試合をしてきた。なかなか面白いゲームメークをする奴がいた」
『へえ! 鬼道くんが言うくらいだからきっとすごい人だ!』
「俺たちのプレイのリズムを割り出し、そこから逆算して仲間に指示を出している。リズムはトゥントゥク言いながら刻んでいる」
『テンツク?』
「違う、トゥントゥクだ。にはちょっと難しいかもしれないな」
『む、なんだかその言い方ちょっといじわる』




 どうせ天才ゲームメーカー様には勝てないもん、鬼道くんいじわるだと文句を言い連ねるを宥めているうちに、豪炎寺のことで悩んでいた心も少しずつ晴れてくる。
リズムでゲームメークの話は今度会った時に話そうと思う。
あれは実際に見ないと真似できない。
使いこなせる人を選ぶゲームメーク術だし、いくらでもリズム感がなければできない。




『あ、あのね、鬼道くんにお尋ねしたいことがあるんだけど!』
「俺に? 何だ」
『うん、あのね、練習メニューの組み立て方教えてほしいなって。
 半田たち退院したらやっぱりサッカーしたいらしくて、だったら早くみんなに合流できるような特訓リハビリメニュー考えなきゃでしょ?』
「ああ、があいつらの相手をしてくれるなら安心して任せられるな。基本は雷門にいた頃と変わらないから、あいつらに訊けばわかるはずだ。
 あとは個人の不得意な部分を補うようにすればいい」
『なるほど! あと、そういう今日やったことみたいな記録はメモしといた方がいいのかな。メモの仕方もわかんないけど』
「書いた方がいいが、書き方はがわかりやすいように書けばいい。本格的なんだな、随分と」
『え? 何言ってんの鬼道くん。今は入院してても半田も染岡くんもみーんな同じ雷門イレブンなんだから、同じように接するのが当たり前じゃない?』





 こう言っては悪いが、途中で転校してきた鬼道よりも半田たちの方が雷門歴は長いのだ。
彼らだってフィールドにこそ立っていないが、戦える身ならば円堂たちと同じ思いで宇宙人にぶつかっている。
少し怪我をしているだけで、心は同じなのだ。
宇宙人との戦いに絶望して自らの意思で身を引いたのではなく、戦おうにも戦えない怪我を負ってしまったから戦っていないだけなのだ。
心が折れたわけでもないのに精神面でも戦力外扱いされてしまっては、半田たちはこれから何を目標にリハビリをし、特訓していけばいいというのだ。
技術的に戦力にならないことはわかるが、せめて心だけはキャラバンに一緒に乗せておいてほしい。
そうでもしなければ、彼らが心にも深い傷を作ってしまう。
どんな形であれ仲間だと思っていてほしい。
連絡ひとつ寄越さない甲斐性なしの豪炎寺のことばかり考えずに。




『みんなも宇宙人に相当ストレス溜めてるみたいだから、敵も少し残しといてね』
「じゃあ早く怪我を治してもらわなければならないな」
『みんな若いから大丈夫、そろそろ良くなるよ!』




 その後も少し鬼道の話を聞き電話を切る。
なんだか、少しだけ温度差が違うような気がした。
半田たちのキャラバンへついていきたいという願いと、鬼道たち実働部隊の間に違和感を感じた。
こうなったら、半田たちが元気になったら徹底的にバックアップチームに発破をかけ、帰って来た円堂たちが驚くくらいに立派に復活したところを披露しなければ。
新しい必殺技とか作ってみるのもいいかもしれない。
作り方はよくわからないが、とりあえず動物図鑑でも用意した方がいいのだろうか。
その辺りは染岡に訊いてみよう。
ドラゴン的なものの出し方がわかれば、半田でも何か出せるようになるかもしれない。
そうだ、バックアップチームの練習は将来的には役割分担制にしよう。
誰だって1つくらい得意分野があるのだから、そこを互いに教え合えば全体のレベルがきっと上がる。
風丸たちがキャラバンへ戻る日も近付く気がする。
我ながら素晴らしい考えだ、早速みんなに話してみよう。
は引き出しから新しいノートを引っ張り出すと、ぐりぐりと落書きを始めた。






フィールドで一緒に戦う人だけが仲間じゃないよ






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