久し振りの試合、久し振りの高揚感、久し振りの勝利。
イプシロン改を倒してもまた新しい宇宙人チームが出てきたが、豪炎寺はそれでも満足していた。
縛るものがなくなった体というのはこんなに軽かったのか。
和気藹々と楽しくサッカーをするといった試合ではないし敵でもなかったが、サッカーができるというのがこれほど嬉しいこととは思わなかった。
爆熱ストームの特訓はしていたが、やはり11人でやるサッカーの方が11倍楽しい。
当たり前のことが嬉しかった。
ライオンは出せなかったが粘り強い努力と特訓の結果マジンは出せたので、きっとも驚いてくれる。
昔のようにすごいね修也やったじゃんと褒めてくれる。
呪いも無事に解いたから、今まで以上に喜んでくれるはずだ。




「おかえり豪炎寺!」
「・・・ただいま。ありがとう、みんな」




 なぜ今まで一緒に戦えなかったのか鬼瓦刑事が説明する。
本当に夕香は無事らしい。
と一緒に病室を出た直後エイリア学園の手の者に出会った時は本当に驚いた。
夕香を人質同然に扱われ仲間になるよう脅された日々は、今でも思い出すと辛いものがある。
本職の刑事たちに任せている間も不安でたまらなかった。
本当に大丈夫なのかと、彼らを信頼していても怖かった。
夕香だけでなく、あの時たまたま一緒に居合わせていたにまで害が及んでいたらと考えると気も触れんばかりだった。
どうやら、思っていた以上にの存在は大きなものになっているらしい。
ずっと一緒にいたから当たり前だと思うが、同じ考えをが持っているかといえばそこに自信はない。
円堂たちに笑顔で迎えられ、知り合いが半分ほどしかいない雷門イレブンとサッカーに興じる。
染岡や風丸はどうしたのだろうとふと思ったが、面と向かってどうしたとは訊けない。
度重なる宇宙人との戦いで傷つき、離脱してしまったのであればゆっくりと養生してほしい。
彼らの思いを背負って戦うのが、遅れて馳せ参じた者の務めだった。




「みんな強くなったんだな」
「地上最強にならなければ宇宙人には勝てない。豪炎寺、お前の必殺技もすごかった」
「土方のおかげだ。・・・俺には動物は出せなかったがな」
「動物・・・? はっ、ペンギンでも出したかったのか?」
「ライオンだ。・・・俺の幼なじみは一筋縄じゃいかないだろう、鬼道」




 からかうように言うと、鬼道がはっとした表情になりこちらを見つめてくる。
どうしてそれを知っていると顔が告げている。
まさか本当にペンギンの告白を受けたのかと少し不安になりながらも見返すと、鬼道がふっと口元を緩めた。




「すぐ目の前にいるのに手を伸ばしても届かない、そんな感じだ。どうすれば俺の言葉は届くと思う?」
「また言えばいい。何度でも立ち向かえばいずれわかるさ」
「随分と余裕だな。敵に塩を送ったつもりか?」
「何をやっても俺はの一番にはなれないからな。あのいけ好かない奴に比べれば、鬼道の方がまだましだと思う」
「誰のことを言ってるんだ?」




 仮にの呪いが完全に解けたとしても、それでがこちらに目を向けることはないのだ。
同率ではなく唯一の本物の一番になりたいと思っても、今更そんな特別な地位につけるはずがない。
それでいいと、それでも構わないけれども手放すのは嫌だから傍に居続けて今日まで過ごしてきたのだ。
一番になりたいと願うのは小学校に入学する頃を境にやめた。
今はこの温度がちょうどいい。
熱くもなく冷たくもない常温が心地良い。
特別何かを言わなくてもわかってくれる、遠すぎず近すぎずの距離が。




「ところで・・・、一之瀬はいつの間に彼女を作ったんだ? 木野はいいのか?」
「押しかけ女房というやつだ。同じFW同士仲良くしてやってくれ」
「・・・ああいう賑やかできゃんきゃんしてる子は正直・・・」
も充分賑やかなんだが」




 そうだろうか。
はもう少し控えめでクールな明るさだったと思うが。
それとも自分にだけ冷たく接していたのだろうか。
そうかもしれない、ならありうる。
しかしダーリンはないだろうダーリンは、海外ドラマじゃあるまいに。
面白そうだから、帰ったらにダーリンとでも呼ばせてみようか。
の驚いた顔が見てみたい。
ダーリンって修也ヘディングのしすぎで頭おかしくなったんじゃないのだとか叫びそうだ。
ああ、考えていたらますますに会いたくなってきた。
これは本格的にまずい、もう少し自立しなければいつまで経っても傍に置きたがる癖が抜けない。
豪炎寺は気を紛らわせるかのように、転がってきたボールを円堂が守るゴールへとぶち込んだ。






























 ダーリンと呼ばれた。
突然、何の前触れもなくダーリンと呼ばれた。
えっと、俺いつの間にこいつの旦那になったっけ。
発言した張本人のは何が面白いのかにこにこ笑っているし、見守る風丸たちもニヤニヤとした笑みを浮かべ、生暖かい目で見守っている。
何だ、新手の集団苛めか。
気分転換を図ろうと思いやっているのかただの気まぐれだか知らないが、心臓に突き刺さるジョークはやめて欲しい。
せっかく怪我が治ってきたのだから、今になって改めて内蔵を抉るようなことはしないでほしい。




「ダーリンって誰だよやめろよそういう新手の苛め!」
「そ? 喜ぶかと思ったけど違うのかあ」
「どこの誰が喜ぶんだよ! ここ日本、外国じゃないんだって!」
「私の友だち元彼のことダーリンって言ってたから、男子ってダーリン呼ばわりされると嬉しいのかなって。違うの?」
「お前に言われてもこれっぽちも嬉しかねぇよ! だいたい、くん付け飛ばして何がダーリンだ」
「半田は半田でしょ。それに半田くんってちょっと言いにくい」
「それは慣れだっての! ・・・なあ、お前ほんとにあの理由で俺と仲良くなったのか? だったらさあ、もっといい扱いできるだろ」
「あの理由?」




 他のクラスの風丸が首を傾げ、を見つめる。
は半田が言い風丸が疑問に思う理由とやらを思い起こした。
理由なんてあっただろうか。
それなりに昔のことだからよく覚えていない。
のんびりゆったりまったりとスクールライフを送れると思いきや豪炎寺の転入で世界ががらりと変わり、瞬くうちに今まで以上にサッカー漬けの日々になってしまったから、
たかが転入時の自己紹介など覚えていないのだ。
むしろ、半田が覚えているというのが信じられない。
どれだけ私のこと大好きなのだ。
モテ期はまだ継続中なのか。




「理由・・・えーっと・・・」
「・・・忘れたのか? ほら、初恋の」
「あ、ああそうだったね! ごめん半田、私実はその人の顔全然覚えてないんだよね。適当に言ってみただけなんだ」
「はぁ!? じゃあ俺なんでお前のお守りさせられてたんだよ!」
「半田が扱いやすそうで手頃だったんだろ、大方」
「おお染岡くんそんな感じ! そうそう、半田を初めて見た時すごくびびっときたんだ。この人は何があってもぶれない人だから信頼していいって」




 意味がわからない。
ぶれないというの表現にも素直に納得できない。
それは、中途半端で平均的だからどちらにも転ばないということなのだろうか。
だがそれはぶれないと言うよりも、どっちつかずと言った方が正しい気がする。
私の直感ってか勘は当たってたんだよとは熱弁しているが、いつ当てられたのかもわからない。
信頼されているというのは嬉しいのだが、何をもって信頼されているのかわからないので手放しで喜べない。
どこを気に入られたのか気になってきた。




「え・・・、結局いつ確信したわけ、俺がいい奴だって」
「秘密。でも私は今でも半田のそういうとこ好きだし、ずっとその思い持っててほしいって思ってるよ」
「だからどこが好きなんだよ・・・」




 気付かないということは、心の底から常にそう思っているということだ。
付け焼き刃の偽善的な言葉ではなくて、心からの思いを告げたということだ。
あの時からばっさりと斬り捨てられてはいたけど、でも半田が仲間思いだってことはちゃんと知ってるよ。
は考えすぎて頭を抱え込んだ半田に再び、ダーリンと呼びかけた。






夫婦って、ずっと一緒にいると思考が似てくるんだって






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