ダイヤモンドダストとかいう宇宙人チームと同格のキャプテンたちなのか、3人がなにやら話し合っている。
話の内容は聞こえないが、聞いたところでどうせわかりはしないのだから聞きたくもない。
下手に聞いて厄介事に巻き込まれるのもごめんだ。
話はまだ終わらないのかな、男の長話ってあんまり好きじゃないんだけどな。
床にうずくまって時間が経つのを待っていると、いつの間にかうたた寝をしていたらしく、ゆさゆさと体を揺さぶられる。
はっとして顔を上げると、目の前に赤毛の少年2人が仁王立ちしている。
宇宙人の2人が何の用だろうと思いぼんやりしていると、1人がおいと声をかけた。




「何してんだてめぇこんな所で。まさか俺たちの話盗み聞きしてたんじゃねぇだろうな・・・」
「やめなよ、彼女怖がってるじゃないか」
「いや、怖くもなんともないんだけど。盗み聞き? 私が寝てたの起こしてくれたのお宅らじゃないの?」
「てめぇが寝る前に何も聞いてねぇかって言ってんだよ」
「何って何を? あ、そうだった。宇宙人にクレームと返品をしに待ってたんだよね」




 は脇に置いていたボールを取り出すと、何かと突っかかってくる方の赤毛の胸に強引に押しつけた。
なんでこれ持ってんだよと言われたので落ちてたと答えると、拾うなほっとけと叱られる。
拾うなほっとけとはどういうことだ。
これのおかげでこちとらサッカーグラウンドが使えなくなったというのに。
はむうと顔をしかめると、赤毛の頬をぐにぐにと引っ張った。




「てめっ、何すんだよ! 大体これ俺のじゃねぇよ!」
「宇宙人のお友だちでしょー! お友だちの不始末片付けんのはお友だちの役目だってわっかんないの!?」
「どんな責任転嫁してんだてめぇは! 友だち困らせるようなことすんなよ!」
「まあまあ落ち着いて2人とも。・・・君、俺たちが怖くないの? 俺たち宇宙人だよ?」
「え、なに、今から私に怖いことすんの? 来るなら来なさい、今日はマイフレンドがくれた鉄パイプ3本あるからまとめてボコボコにしちゃうから」
「・・・うん、できないね。君の方がよっぽど怖いよ」




 最近の女の子は、鉄パイプを花束のようにカモフラージュして持ち歩くのがトレンドなのだろうか。
鉄パイプをくれるような子はただの友だちではないと思うが、それを言うと怖いのでやめておこう。
は頬を引っ張るのをやめると、今度はがしりと腕をつかんだ。




「ちょうどいいからちょっと来て。土木工事手伝え」
「なっ、馬鹿言うんじゃねぇよ! なんで俺がてめぇに付き合わなきゃなんねぇんだよ! グランにしとけグラン」
「グランって誰よ」
「俺だよ。こっちはバーン、仲良くしてあげてね」
「え、名前もっかい言って」
「バーンだよ」
「だからそのバーン!っていう爆発音じみた自主規制音どけて言ってくんない?」
「いや、バーンは規制するための音じゃなくて、名前がバーンって言うんだよ。・・・駄目だバーン、俺の手に負えない」




 キチガイの世界ではピーじゃなくてバーンなのかと訳のわからない納得をし始めたを見下ろし、バーンはげんなりした。
放っておけば良かった、こんな女。
寝かせといてあげなよというグランの言葉を素直に聞いていれば良かった。
グランもお手上げな少女の相手などできるわけがない。
しかも土木工事って何だ。
ガゼルは何をこいつにしたのだ。
ため息をついているバーンの隣でグランがふふふと笑った。




「そういえば君、今日の試合で解説してたよね。すごいね君、サッカーやるの?」
「ううん、やったことない観てるだけ。でもああなるってことくらい見りゃわかるでしょ」
「まあ確かに俺らにとっちゃ潰しやすい弱点ではあるな」
「でも残念、あの弱点は今日限り。次に戦う時は円堂くんはたぶんリベロ」
「リベロ・・・? スイーパーじゃなくて?」
「今日の試合観てわかったでしょ。アフロも入って今のあのチームは今までよりも攻撃的。攻めなきゃ勝てないってことはわかってるから、円堂くんを無理やり前に押し出した。
 だったら守り固めるスイーパーよりも、より攻撃に加われるリベロの方が今の宇宙人バスターズにぴったり」
「おい・・・、そういうの俺らの喋っていいのか? お前あっちの味方だろ」
「敵も味方もないのよそれが。だって私、仲間にもなれない部外者だもん」




 だから今日の解説も中立だったでしょと問われ、グランとバーンは顔を見合わせた。
そこらにいる監督よりも恐ろしいというか意味がわからないというか、彼女が円堂たちの仲間でないことにまず疑問を抱いてしまう。
地上最強のチームになると謳っているらしいが、やたらと選手をかき集めずとも彼女のような人物が1人いた方がいい気もする。
円堂たちとは敵であるこちらにとってみれば安心できる要素だったが、彼女の身には不安なことが多く付きまといそうだ。




「バーン、一緒に行ってあげなよせっかくだし」
「そうそう、ついておいでよしっかりみっちり扱き使うから」
「なんでグランは連れてかねぇで俺なんだよ」
「チョイス理由は顔・・・? ダイヤモンドダストのキャプテンもそうだけど、宇宙人にも結構イケメンいるんだね!」
「はっ、ざまあねぇなグラン! おい行くぞとっとと連れてけ」
「おう。あー、えっとグランくん? 顔色悪いけど寒いんだったらもっと暖かい格好するか大人しく寝といたほうがいいよ!」




 宇宙人に対してとことんまでに恐怖心を抱いていないらしい。
グランはバーンを引き連れ騒々しくスタジアムを後にしたの背中を見つめ、彼女こそ正真正銘の宇宙人なのではないかとぼんやりと思った。






























 汗を掻くのは久し振りかもしれない。
バーンは穴に土を入れていた手を休めると、額に浮かんだ汗を拭った。
河川敷のどこにでもあるサッカーグラウンドに開いていた穴は、いわくサッカーボール型ボイスレコーダーのせいでできたらしい。
一般人にとってはそれなりに重いあれをスタジアムまで運んでくるとは、なかなか逞しい少女である。
宇宙人を扱き使っているあたりからふてぶてしい奴だと思っていたが、どうもそれだけではないようだ。




「ちょっと休憩しよっか、バーン!くん」
「何度も言うけど、俺の名前がバーンだから。爆発音ぽく言うのやめね?」
「やあねぇ、そんなに私に名前教えたくないの? 意外と傷つくんだけど」
「俺も、これほど自分の名前通じなかったことねぇからどうすりゃいいのか悩んでんだよ」
「異文化コミュニケーションの難しさってやつだね」
「主にてめぇがコミュニケーションぶち壊して、同一文化を異質なものにしてんだけどな」




 土を入れた地面を踏み固め地ならしをしているをバーンはじっと見つめた。
もしかしてあのお方が接触を図っているのかもしれないと思っていたが、マスターランクが出てきた今となってはもう強化は必要ないのだろう。
バーンとしても巻き込むつもりはなかった。
巻き込んだつもりが巻き込まれて、調子が狂うということになりかねない。
今だって現に彼女の思うがままに扱き使われている。
人使いの荒い女だ、周囲の友人がかわいそうにも思えてくる。




「お前サッカー好きか?」
「うん、好きだと思うよ」
「何だよ、そのあやふやな言い方」
「今日久々に円堂くんたちの試合生で観たけど、あんまり楽しくなかった」
「宇宙人相手に戦ってるからじゃねぇのか?」
「そうかなとも思ったんだけど、カビ頭相手にやってる頃はまだ楽しいっていうか、ドキドキしてたんだよねぇ・・・」
「そのカビ頭って呼び方やめてやれよ。俺そいつ知ってるけど、根はいい奴なんだしさ」




 カビ頭だなんてレーゼがあまりにも哀れだ。
カビ頭呼ばわりされるまでにきっと彼もまたこの子に良からぬことをしでかしたのだろうが、それでもカビは酷い。
このままだと、ろくに名前を認識されていない自分もケチャップとかチューリップとか呼ばれるようになるかもしれない。
それは嫌だ、カビ頭と同格は断固拒否する。




「てめぇはなんであんなに詳しくなるほどにサッカー好きになったんだ」
「昔からずっと一緒にいた腐れ縁がサッカー馬鹿だったから。かっこよかったんだよー!」
「なに、そいつのこと好きなのか? 惚気話?」
「ううん。・・・まあ、最初に仲良くなったサッカー馬鹿があれだったら惚気話の1つや2つできたかもしれないけど。
 今もかっこいいんだけどね、今日の試合観てたらなーんか別人みたいだった」




 ただでさえ少なかった愛情がゼロになったのかもしれない。
それってつまり嫌いってことだよねと逆質問を始めたを、バーンは嫌いって言うなと叱りつけた。
昔からずっと一緒にいる幼なじみならこちらにもいるからよくわかる。
そいつに嫌いだなどと言われるととんでもなくショックだ、考えたくもない。
どこが嫌われたのだろうと邪推してしまう。
殊にのような子は平気な顔でさらりときつい事を言うので、本人はどうとも思っていない言葉を突き刺された時の衝撃は2倍にも3倍にもなる。
バーンは再び土を固める作業に戻ると、入れ替わりで休憩を始めたに向かって口を開いた。





「たぶんそれは嫌いじゃなくて、そいつの変化についてけてない戸惑いだ。遠距離恋愛でありがちな悩みを宇宙人にぶちまけてんじゃねぇ」
「でも変わったなら変わったくらい言ってほしくない?」
「それは言わねぇあっちが悪い。でもいいか、大嫌いとかは絶対に言うな。お前の大嫌いはそいつにとってはたぶん、他の何よりもでかいショックだ」
「そうかな?」
「そうだよ。・・・ほら、終わったぞ穴埋め!」
「ああ、すっごい完璧! ありがとバーン!くん」




 これでまたリハビリできると喜ぶに笑いかけられ、バーンも思わず笑い返した。
宇宙人以外の奴とこうした時間を過ごすのは久々のことだった。
沖縄よりもこちらの方がとても楽しい。
名前が通じないのは空しいが。




「あ、ねぇねぇ、どうしても名前言わないんだったら私が勝手に付けていい?」
「やめてくれ」
「どうして。ケチャップとかわかりやすくない? もしくはチューリップ、可愛いね!」
「苛めだぞそれ。・・・南雲でいい」
「へ? 南雲が名前?」
「そうだよ。南雲晴矢っていうんだ」
「ほう、南雲くん! 別にバーン!で隠すほど恥ずかしい名前じゃないよ?」
「そりゃどうも。てめぇは?」
「宇宙人名乗ってるキチガイに教えるの嫌なんで、異邦人でお願いします」
「お前にぴったりだな」




 何それどういう意味怒るよ南雲くん。
宇宙人の俺らにとっちゃお前はいろんな意味で異邦人なんだよ!
修復されたばかりのグラウンドで騒ぎ始めたバーンとを、橋の上からグランが楽しそうに見下ろしていた。






私、バーンさん好きだからね?






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