河川敷のサッカーグラウンドに賑やかな声が響き渡る。
今までは杉森とシャドウの2人きりだったが、半田たちも増えた今はすっかり立派なチームだ。
チームじゃなくてコンビだとからかう日々とももうさよならだ。
はベンチに腰かけ練習を眺めては、手元のノートに気になったことなどを書き留めていた。
些細な事でもいいからなんでも言ってくれと頼まれたが、技術はないのでどこを見ればいいのかもわからない。
こんなことになるのなら、選手たちの動きだけでなく個人技も見ておくべきだった。
イケメン以外にも目を向けるべきだった。




「なあなあ、せっかくだから新しい必殺技とか考えたいんだけど」
「いいねえ。単体? それとも連携技?」
「連携するなら俺とやらない、半田?」
「マックスかあ。どう思う?」
「いいんじゃない? MF同士だし左右から攻め上がっていけば」
「てことはシュート技か。よし、やってみようぜマックス」




 コーチが適当な相槌しか打たないせいか、半田たちは自分でメニューを考えて練習をしている。
初めに完全役割分担制だと通告したのも良かったのかもしれない。
1人で11人の面倒を見るのは疲れるしまず手に負えないと思い、自身が楽をするために提案したのだが、こうもあっさりと受け入れられるとは思わなかった。
何事も口に出して言ってみるものである。
なんでも言ってくれという言葉にわがまままで入るとは。
これからも、ダメ出しされるまでちょくちょく色々と言ってみよう。




「円堂くんたち超攻撃型チームにするだろうし、じゃあこっちもシュート技作った方がいいのかなあ・・・」



 若葉マークもつけたばかりのなんちゃってコーチだが、風丸たちを実働部隊に合流させるという目標がある以上は、素人だとか玄人だとか言っていられない。
特訓のしすぎで治ったばかりの体を再び痛めたりしないように、初めは数時間の軽い練習からさせた方がいいのだろう。
責任の取り方もわからず、そもそも取ることができない子どもでも人様の家の子どもを預かっているのだから、何も起こらないようにきちんと見ておかねば。
幸いにして彼らは聞き分けはいいようなので、リハビリスケジュールに文句を言う気配はなさそうだ。
どれだけ信頼を寄せているのだ、たかだか友人に。




「みんなー、そろそろおしまいにしよっかー!」
「もうちょっとやりたいな・・・」
「うーん、でも病み上がりでいきなりはあんまりおすすめできないよ」
「俺らの体のことちゃんと考えてくれてるんだ。は優しいな」
「だってもう怪我してほしくないもん。まーた入院なんてことになったら染岡くんも怒るよ」
「確かにそうだな。何でこっち戻ってきたんだーとか言いそうだ」
「でしょでしょ! さ、今日はやめてまた明日!」




 グラウンド整備の当番もいつの間にやら風丸たちの間で決めていたらしい。
本当に自立した人々だ、こっちがいなくても彼らだけでやっていけそうにも思える。
はノートを閉じると土手を駆け上がった。
今日はこの後染岡の元へ行ってシュート技の相談と、今日の内容を話してみるつもりだ。
FWのシャドウは相変わらずダークトルネードしかやらないから話にならない。
相談しようと思っても会話が成立しないので難しいだろう。
だからといって染岡と話が合うかといえばそれはそれで疑問だが、彼ならばわかってくれる気がする。
人付き合いの苦手な我が幼なじみが認めた人物だからいけるはずだ。
根拠はどこを探しても見つからないが。




「夕香ちゃんはこの時間だとやめた方がいいかなー」




 夕香もリハビリで体力を使うのか、最近は眠るのが早くなったと聞いている。
時刻も夕方だと夕香もお疲れのピークだろう。
今日はそっとしておこう、また時間がある時に会いに行けばいい。
明日は練習の前に必殺技についてのミーティングをやってみよう。
そちらの方が練習に方向性が見えて効率的な気がする。
かつてない能動的なサッカー思考に陥っていたは、360度どこから見ても不審者としか思えない男が目の前に立ちはだかるまで、それの存在に気付いていなかった。





「・・・・・・え?」
さんですね? 我々はエイリア学園の志に賛ど「人違いだから退いてそこ」




 三つ子ではなく1人だったが、は男が敵であることだけは認識した。
こいつらとは何があっても絶対に係わってはいけない。
何をされても、絶対にだ。
一向に退こうとしない男の脇を抜けようとすると、手に抱えていたノートを奪われる。
触らないでと叫ぶが意に介することなくぱらぱらと捲られる。
大したことを書いたつもりはないおよそ落書き帳に近い代物なので見られても構わないのだが、勝手に奪っていいわけがない。
これが交換日記だったらどうしてくれるのだ。
地球だけでは飽き足らず、乙女のプライバシーまで侵略する気か。




「返してよそれ!」
「・・・せいぜい特訓させることだな、我々のために」
「あんたら潰すためにみんな特訓してんの!」




 手渡されたノートをひったくると、は男の前から駆け去った。
この間の骨男といい今日の男といい、人違いなどではなかったようだ。
確実に狙われている。何の必要だか狙われている。
こちらが何をしでかしたというのだ。
影山の時といいアフロディの時といい、何もやっていないのに酷い目に遭う。
お守りのストラップがないから災厄を招いているのかもしれない。
さすがは名前も忘れたあの人だ、これをくれた時にとっておきのおまじないをかけてくれたに違いない。
そうだとすれば、早くお守りを返してもらわなければ。
もらいたてのネックレスにはまだそういった特殊効果が付加されていないらしい。
一生つかないかもしれない、何といっても豪炎寺からのプレゼントなのだ。
俺だと思えなんて言われやや強引に渡されたものだから、本来彼が受けるべき厄介事もこちらが引き受けているのかもしれない。
本当にろくな事をしない奴だ、返品してやろうか。





「キチガイの仲間なら南雲くんに訊けばわかる? いやでも、南雲くんもあれで一応キチガイだしなあ・・・」




 それに、同じキチガイでも南雲たちとは違うタイプのキチガイのようにも思える。
そもそも同タイプのキチガイならば土木工事の時点でアウトで、UFOか何かに連行されていた。
だとしたら、無関係のキチガイを巻き込むのはやめた方がいい。
キチガイが結託すると面倒だ。




「・・・ま、とりあえず私はみんなをキャラバンに送り出しちゃえば用済みなわけだし」




 期間限定の責任者なのだから、期間が過ぎれば狙われることもなくなるはず。
そうだとわかれば早く風丸たちをキャラバンへ送り出すことに全力を挙げるべきだ。
もっといい練習方法を考えて、負担になりすぎない必殺技を考えて、そうだ、過去の強豪チームの戦術なんてのも研究すべきかもしれない。
頑張ろう、たくさん練習している風丸たちに負けないように、しっかりとサポートしてバックアップできるようになろう。




「鉄パイプ生活になろっかなー、また・・・」



 今度は本当にぶん殴っても誰も怒らないだろう。
あの不動だって使っていいとゴーサインを出してくれるはずだ。
はややくしゃくしゃになったノートを鞄に仕舞うと、稲妻総合病院へと向かった。






アフロディの方がよっぽど酷いこと言ってる気がする






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