思っていた以上に多くの人にたくさんの心配をかけていたらしい。
は雷門中へ戻ってエイリア石を刑事に渡すなり豪炎寺の隣から強奪し、大丈夫かどこ行ってたんだよ心配させやがってと矢継ぎ早に質問を飛ばしてくる半田に
とりあえずおうと答えた。
何をそんなに必死になっているのだ。
当事者よりも慌てているのがおかしくて思わず吹き出すと、笑うなと叱られる。
そう言うのであれば、笑わせるなと言い返してやりたい。




「ほんとのほんとに大丈夫か?」
「全然大丈夫じゃないけど仕方ないじゃん、もう起こったことなんだし」
「なんか投げやり!? ていうか泣かされたのか!?」
「半田、人のこと言えないでしょそこは。でもやっぱ泣いたってわかる? 目腫れぼったくて可愛くない?」
「可愛い可愛い。おかえり、ちゃんと話せたか?」




 風丸に頭を撫でられ可愛いと褒められ、はこくりと頷いた。
風丸のお墨付きをもらったのなら、安心して前を向いていられる。
風丸の審美眼は絶対なのだ。
は風丸にぎゅうと抱きつくと、なんとなく居心地が悪そうにしている豪炎寺からぷいっと顔を背けた。
やはり風丸のハグが一番落ち着く。
優しくて温かくて、目いっぱい甘えたくなる。
1年生が風丸を中心にまとまるのももっともである。





「今までどこにいたんだ?」
「内緒・・・って言いたいとこだけどそうだなー、私が日本で一番好きなとこ」
「俺はその逆だ、一番嫌いと言ってもおかしくない」
「でもそこでを見つけて仲直りできたんなら好きになるよ、豪炎寺も。俺たちも一応河川敷とか鉄塔広場とか探したんだけど、道理でが見つからないわけだ」
「みんな試合して疲れてたのに、更に骨折らせちゃってごめんね。文句は全部修也に言って」
「うん、そうだな。はなーんにも悪くないもんな、よしよし」




 久々に見る花畑はとても綺麗だ。
相変わらずの言い分には首を傾げる点があるように思えるが、風丸が納得しているのでそれはそれとして受け流していいのだろう。
確かにあれは、よくよく聞けば豪炎寺の方が圧倒的に悪かった。
お前それでも幼なじみかと、どれだけの人数が豪炎寺を糾弾しただろう。
いっそ関係をリセットした方がいいという鬼道の自らの願いを9割ほど練り込んだ発言にも、今回初めて賛成者が出たくらいだ。
今の様子を見る限りでは、鬼道の願いは断たれたようだが。
は風丸から離れると、鬼道の元に歩み寄った。
この間のことなんだけどと切り出すと、鬼道の体が大きく揺れる。
あれ、返事は言わない方がいいのだろうか。
こちらもまだ返事らしい返事を用意しているわけではないのだが、途中経過くらいは報告した方がいいと思ったのだが。




「さっきもたくさん電話してくれてありがとう。電話したかったんだけど修也が駄目って」
「いや、気にしないでくれ。本当にもう大丈夫なのか? 豪炎寺に何かされなかったか?」
「いやあ、そのことなんだけどさあ・・・。やっぱ鬼道くんってすっごく紳士的だよ、私鬼道くんのこと好きだよ」
・・・! じ、じゃあ・・・」
「でもね、鬼道くん知ってた? こないだのあれ、修也見てたんだって。見てたってのにあの人乙女の体におまじないとか抜かしてきてねっ、ほんっと信じらんないマジ最悪」
「・・・わかった、よくわかったぞ。豪炎寺、に何をした! 無関心さはどこへやった、今すぐ俺とと春奈に謝れ!」
「ヘ、春奈ちゃん? なんで?」
「そ、そうですよ豪炎寺さん酷いです! せっかくお兄ちゃんがない勇気振り絞ってたぶんさんに告白しただろうに、たぶん横から掻っ攫うようなことしてあんまりです!」
「えええええ、たぶんでそこまで当てちゃう春奈ちゃんってエスパー!?」
「いいえさん、さっきまでのお兄ちゃんとのやり取りでたぶんキャプテン以外の人はみーんなわかったと思いますよぅ」
「すっげー音無! たぶんで俺がわかってないことも当てるなんてすっげー!」




 鬼道はの手をつかむと自分の方へ引き寄せた。
途端に豪炎寺が眉を潜めるが、気にすることはない。
あれがライバルだということは、と出会った瞬間から認識していた。
自身はまだどちらがいいとは決めていないようだから、今後もがこちらを選んでくれるように全力を尽くそうと思う。
厳しい戦いが予想されるが、手を引くつもりは毛頭なかった。




を離せ、鬼道」
「断る! 豪炎寺こそ今すぐにでも幼なじみ離れしたらどうだ。一之瀬を見ろ、他の女作ってるだろう」
「鬼道、そういう言い方しないでくれるかな」
「俺は一途なんだ、一之瀬と違って」
「豪炎寺、俺に恨みでもあるの? そんなこと言うんなら本当に俺の知り合いの『ちゃん』狂に写真送るよ? はい送った、今送りましたー」
「一途と言うなら俺の方がまさしくそうだ! そうだろう
「全然気付かなかったんだけどそうらしいね。実感全然ない時はどうすればいい?」
「実感してくれ、俺にその・・・愛されていると」




 鬼道もなかなか難題を押しつけてくるものだ。
意識しろと言われすぐさまどうかなるわけではないのだ。
そこまで単純明快な脳内構造をしているわけではないのだ。
人間の思考というのは複雑にできている。
鬼道だからやろうとしないだろうしやってほしくもないが、豪炎寺と似たようなことをすれば意識するかもしれない。
モテ期が到来したとは薄々気付いていたが、いざ現実に直面すると嬉しいというよりも面倒だ。
そうだ、面倒だから逃げ出してしまおう。
は鬼道からそっと離れると、半田たちの元へ駆け寄った。





「はーんだ」
「何だよ。・・・あ、そうだ、その・・・、酷いこと言ってごめん・・・」
「あー、確かにあの時は親友やめてやるって思ってたけど」
「・・・けど?」
「ありがとね。私の代わりに修也にガツンと言ってくれたんでしょ? それでチャラにしたげるからこれからもよろしくね」
「おま・・・」
「あ、それとももしかしてリセットしたいとか? 別にそれならそれでいいけど、何度やり直しても半田とは親友ルートしかないよ?」
・・・。・・・俺、泣きそう」
「えっ、なにまさか半田親友やだからリセット押したいの!? 親友じゃないなら何になるの、彼氏はやだよ!?」
「嬉し泣きだよ、ほんっとお前滅茶苦茶だな・・・!」




 滅茶苦茶だけどでもそこがらしくて、である理由で、俺が親友でいたいって思ったとこなんだよな。
もう、こいつにならこれから先10年20年経っても振り回されてていいや。
振り回されてないと毎日がきっとものすごく退屈でつまらない。
あいつの気が済むまで、地獄の底だろうとUFOにだろうと付き合ってやろうじゃないか。
宣言どおり泣き出した半田の頭を、は笑顔で撫で回した。






「男の嫉妬と利権争いって醜いよねー」「・・・お前のために争ってんだからそう言ってやるなよ・・・」






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