この人、本当にあの人と将来結婚するのかな。
一度現在に戻って調べてみたら確かにこの人はあの人と結婚したみたいだけど、本当にあの人この人をお嫁さんにできるのかな。
カノンはどの恋人たちよりも甘くいちゃつき、周囲に花を振りまいている観戦仲間を見やり己が生きる未来を案じた。
とは校門前で待ち合わせをしていたが、現れた時からはずっと風丸と手を繋ぎ見つめ合いぴたりと体を寄せととにかく風丸にべったりだった。
風丸もそんなを愛情溢れる暖かな目で見守り頭を撫で求め求められるがままに抱き締めと、誰も入り込むことができない2人だけの世界を作り出していた。
今ここに自分がいることがとてつもなく場違いなように思え、会場に着くまでは非常に居た堪れない時間を過ごしたものだった。
友だちの風丸くんだよと紹介されたが、本当に友だちの関係で収まっているのかわかったものではない。
スキンシップの一環でキスなんかもしちゃってるんじゃないだろうか。
風丸に思春期はないのだろうか。
こんなに可愛い女の子にぴったりとくっつかれハグを迫られ、ムラムラしないのだろうか。
自分には絶対に無理だ、ハグをし続けたまま1分を過ぎたら何をしてしまうかまったく予想がつかない。





「風丸くん、今日は部活さぼって良かったの? 半田すら行ってんのにさぼって平気?」
「さぼりじゃないよ。今日は決勝で戦うことになる相手の偵察。だからこれも部活の1つかな」
「なるほど。じゃあ今日はこそこそしないで大っぴらにどーんとデートできるね。お忍びデートもそれはそれで楽しそうだけど」
がいたら目立つからお忍びしてるつもりでもすぐに見つかりそうだよ。そうだなあ、は忍者っていうよりもお屋敷のお姫様って感じだ」
「きゃあそれ素敵! じゃあじゃあ、風丸くんはお姫様にこっそり会いに来る忍者がいい!」
「ははっ、俺はそう簡単には見つからないぞ?」
「ううん見つける。風丸くんが近くにいると私のイケメンレーダービビッと反応するから絶対見つける」
は面白いこと言うなあ、よしよし」





 どうしよう、2人の会話のどこに面白さがあったのかわからなかった。
面白さよりも先におかしさを察知してしまったせいか、会話のすべてが支離滅裂なキチガイじみた暗号文にしか思えなかった。
お前もそう思うだろって本当に可愛いよなと風丸に笑顔で同意を求められ一瞬固まるが、が可愛いことはわかっているので慌ててはいと答える。
風丸は満足げに頷くと、一足先にスタンドの座席に腰かけたを見つめふっと頬を緩めた。





って可愛いけど可愛いだけじゃないんだ。豪炎寺の面倒をずっと見てきたからかサッカーにすごく詳しくて、俺はもちろん天才ゲームメーカーって呼ばれる鬼道も驚くゲームメークができるんだ」
「・・・知ってます」
「そっか、雷門中以外の奴らにも有名なのか。それもそうだよな、だってはすごく目立つもんな。ベンチには入らないのに、俺たちはスタンドのがどこにいるのかわかるんだ」





 輝いてるって言った方がいいのかな。
風丸はそう言い残すとの元へと向かった。
を間にして座り、カノンは改めての横顔を見つめた。
のことは調べたから少しだけ知ることができた。
相当の変わり者だったらしい。
誰がそう呼び始めたのかフィールドの女神との異名を持ち、奇才との評価も高かったらしい。
女神に至るまでの歴史はわからないが、齢14歳にして既に奇才の片鱗は魅せているようだ。
そういえば一緒に試合の応援に来ても、はハーフタイム中に必ず離席する。
一度は、どこから入り込んだのかベンチに立つを見た。
後半に入ってからの雷門イレブンの動きは見違えるようによくなることも多い。
今までは何も感じずただゲームメーカー鬼道のおかげとしか考えていなかったが、もしかしたらの力もあったのかもしれない。
彼女はいったい何者なのだろう。
試合が始まるや否や急にへにゃりとした笑顔を消し真剣な表情になったに、カノンは気を引き締めた。
準決勝は帝国学園を完膚なきまでに叩きのめした世宇子中と実力未知数の王牙学園が戦う。
強豪帝国学園を破った世宇子が決勝に進出しそうだ。
風丸やの予想は、終始やむことのなかった怒涛のゴールラッシュによって打ち砕かれた。





「・・・・・・」
「36対0って、試合時間は60分しかないのに? これ、準決勝だよね・・・」
「・・・ああ、全国大会の準決勝だ。王牙学園が戦った相手は帝国に大勝した世宇子だ。・・・俺、円堂たちに知らせてくる」
「待って、私も行きたい。カノンくんどうする、ついてくる?」
「俺は他に行くとこあるからそっちに行くよ。・・・大丈夫、さん?」
「正直気分は良くないし怖いけど今日は風丸くんいるから大丈夫。ありがとねカノンくん、じゃ」





 足早に試合会場を後にする風丸とを見送る。
恐れていた事態が起ころうとしている。
自分たちが目指す未来をより実現性の高いものにするために、過去への干渉を本格的に始めている。
サッカーを娯楽ではなく戦うためのものとして育てられた軍人たちは、円堂たちを絶望の底から抜け出せなくなるまで徹底的に潰すのだろう。
円堂たちの正義と彼らが目指す正義の形が違う以上、衝突は避けられない。
避けられないのは仕方がない。
事ここに至ってしまったのだから、こちらも全力でぶつかるしかない。
問題はぶつかり方だ。
ただ闇雲にぶつかっても返り討ちに遭うことは目に見えている。
いかに天才ゲームメーカーがいようとストライカーがいようと奇才がいようと、力の差は歴然だ。
その差を少しでも埋め、未来へ繋がる現在を守るためにやって来たのが自分だった。
今を守るためならば何だってする。
一度タイムスリップをしたのだから、二度目三度目も怖くない。
準備を急ぎ、何としてでも試合に間に合わせなければ。
カノンは助っ人カタログを開くと、めぼしい有能な助っ人5人に印をつけた。







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