03.ふわり、舞う




 人違いだっただろうか。
半田は愛想の欠片もないつんけんとした態度で去っていった木戸川中生を見送り、首を捻っていた。
あの子また無茶な喧嘩吹っかけてもうと憤りながらも不安な顔を浮かべた悪友に唆され背中を押され、どこぞの特攻隊レベルの身軽さで勝ち目のない不良の前にスケープゴートとして提供された。
鞄という盾にしてはあまりにも貧弱な防具越しでも叩かれた頭は痛く、女の子相手に暴力を振るう不良と、迷わず友を危険に晒した悪友に怒りを覚えた。
第二撃がくると思った時はさすがにまずいと思いこちらも手を出しそうになったが、すんでのところで歩く騒音スピーカーが嘘アナウンスをしてくれたので加害者にならずに済んだ。
助けたかどうかはわからないが、少なくとも危害が加えられることを回避した時の彼女は割と普通の殊勝な態度だった。
どこぞの誰かのように高飛車ではなかった。
雷門中学校に他校の生徒が訪れることはあまりない。
豪炎寺があれは木戸川の制服だと言い、制服を着ているのがやや見覚えがある女の子だったから先程も声をかけたのだ。
しかしどうだろう、話した彼女はそれはまあとんでもないふてぶてしい女だった。
さすがにイラッとした。
女は何枚化けの皮を被っているのだろうとも思った。
ひょっとしたらあの子は助けたあの子ではなくて、だからこちらを邪険に扱ったのかもしれない。
別にちやほやしてほしかったわけではない。
ただ、人と接する時はもう少しまともに対応すべきだと思う。
彼女のように剣呑な態度ばかり取っていると、無用な厄介事を招き良からぬ敵といざこざを起こしかねない。
半田は怒りと不安を同時に抱え、くしゃりと髪を掻き毟った。





「女ってほんとわかんねー・・・」
「恋煩いか?」
「ちげぇよ! あいつといいさっきの奴といい、木戸川の女子ってあんなんばっかなのか?」
「人を見た目で判断するのは良くないぞ半田。でもあの女子、確か・・・」




 興味がない者を覚えるほど物好きな頭ではないが、興味がある人物の連れはしっかりと把握している。
それにしても見事な啖呵の切り方だった、あれはさすがに半田が哀れだ。
半田は見ず知らずの少女に袖にされたことを思い出し、再びうわあと怒りの雄叫びを上げた。






























 いけ好かない男にあった。
馴れ馴れしく話しかけてきて、何様のつもりなのだろう。
は出向いた先の雷門中で王子様と運命の再会を果たせなかったばかりか、どこもかしこもぱっとしない汗臭い男に話しかけられらことに怒りを覚えていた。
確かに茶髪を探してはいたが、絶対に彼ではない。
不良から助けてくれたのはもっとかっこよくて輝いているイケメンだった。
顔はよく見えなかったが、ああいうシチュエーションで助けてくれるのは抜群のイケメンでなくとも中の上レベルのフツメン改だと相場は決まっている。
そういえばあの汗男、フツメンではあった。
ふと嫌な予感がしたが、はないないと呟くと頭のスイッチを強制的に切り替えた。





「あの人だったら私のこと言うし、言わないってことはあれはただの茶髪」





 明日も雷門に行って再び王子様を探そう。
1人で探すのが難しいならば、雷門に転校した親友に頼もう。
彼女はこちらよりも遥かに高性能なイケメンレーダーを持ち、かつ、男に言い寄られることが多い顔の広さなのでいざとなれば彼女の手ではなく顔を借りればいい。
は鏡台に向うと、来たるべき王子との再会の備え念入りにスキンケアを始めた。




目次に戻る