04.頼りない指につかまった




 恋したんだと熱弁すると、ふうんと気のない相槌を打たれる。
すっごくかっこいい人たぶん豪炎寺くんよりもかっこいいと木戸川から雷門へと所属を変えた親友を挑発すると、それはないと即答される。
出た、夫婦。
はファストフード店の甘ったるいシェイクをずずうと一気に飲み干した向かいの友人にポテトを差し出すと、ほんとなのよと言葉を続けた。




「不良に襲われそうになったところを鞄ひとつで助けてくれようとした駅前の王子様。そりゃ顔はよく見えなかったけど、絶対にかっこいいって」
「あんまりおっきな期待はしない方がいいと思うけど。修也以上って、どんだけハードル上げられてんだか」
「あれ? もしかして王子様の正体知ってる? ていうか手伝ってよ、顔広いでしょ」
「ポテトに釣られるほど安い女じゃありませんんー」






 どうせまたいつもの光源氏病でしょと言われ、思わず大きな声で違うと反問する。
確かに定期的に男を取っ換え引っ換えしているししたくなる衝動に駆られるが、今回は違う。
駅前王子様に出会ってから、周りの男子が芋やカボチャに見えるようになった。
どんなイケメンも芋で、よく知らぬ王子様の横顔だけが今でもきらきらと輝いている。
は疑わしい視線を容赦なく向けてくる友にもう一度違うと言うと、思い出せる限りの王子の面影を語り始めた。
語り、思い浮かべるだけで彼への想いが強くなる。
あの日、不良を相手に身を挺して守ってくれた茶髪の王子様。
大丈夫かとかけてくれた声は素っ気ないように見えてどこか親近感があり、荒んでいた心に潤いが戻ったようにも思えた。
名を告げることもなく去っていった彼にもう一度会い礼を言うために訪れた雷門中では、茶髪ではあるがちっとも王子的オーラのないぱっとしない少年に絡まれただけだった。
絡まれていればまた王子様は現れてくれるのだろうか。
また同じ駅前で同じように派手に喧嘩を吹っかければ、彼は助けに来てくれるだろうか。
そうしなけれな現れないというのであれば、前回よりもぱあっと派手に大立ち回りしてもいい。
悶々と不穏なことを考えていたのを表情から読み取ったのか、友人がふうと息を吐き顔を上げる。
そうだ、今度はナンパ連中寄せパンダの素材としては申し分ないこの子も連れて歩こう。
中身がばれなければまったく問題はない。
連れ歩くことによって彼女のお目付け役にしてダーリンとしか思えないエースストライカーは渋い顔をするだろうが、彼はいつも渋い顔をしているイメージしかないので今更気にしてはいない。





「私、また不良に襲われようかな」
「また? やめてよ、不良に喧嘩売るの見てるのひやひやするから」
「なんで知ってるの?」
「げ」




 言いもしていない不良とのやり取りを知られていたことに疑念を抱く。
そういえばあの時、王子様は連れがどうとかと言っていた。
まさかとは思うが、あの時とっさの判断でいもしない警察を呼び立てたのは。
疑問を口に出そうとした直前、おーいと間延びした声が店内に響き渡った。




「お前さあ、自分から遊園地の話振っといてなんで人待たせんの? 俺はどこぞの幼なじみと違って家まで迎えになんて行かねぇぞ」
「あ、こないだのうざったい奴」
「おう!? あ、やっぱりあんただろ、こないだ駅前でごたごた引き起こしたの。まるで別人だな、二重人格者みたいだ」






 俺との約束すっぽかすなんざいい度胸してんな、ああ?
うるっさい、今修羅場なんだから黙って修也以上のイケメン面してなさいよ。
目の前でわあぎゃあと繰り広げられるうざったかったきらめく王子様と友の会話に、の頭は真っ白になった。




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