じゃがフルコースができるまで  2







 プロイセンの心は晴れやかだった。
こちらからはかけても相手方からは滅多にかかってこない携帯電話が鳴ったのだ。
しかも相手はつれない態度しかとらないことでおなじみの
嬉しさからすぐ電話に出ると『ギルベルトさん』である。
幸せすぎて天に召されるかと思った。
これまで多くの国に呼ばれ続けてきた『普憫』という汚名を返上した気分だった。
お前ら人名で呼ばれたことあんのか。
プロイセンの浮きに浮いた心は、警察署まで来いという意外性100パーセントの待ち合わせ場所を聞かされたことで一気に平常に戻った。
戻ったどころではない。
彼女の身に何かあったのではと、不安定にぐらぐらと揺れていた。
だから至って健康そのものの彼女と再会した時は安心し、安心感が一気に女性を労わる優しさに変わり抱きかかえたりした。
やめてよ恥ずかしい降ろせと罵りの言葉を浴びもしたが、それらはすべて嬉しさからくる睦言だとみなした。
睦言だったはずなのになぜだろう。
家に連れてきたきり、彼女は人名で呼ぶどころか、いつも通りのそっけなさに戻ってしまった。





「なぁ、やっぱりどっか具合悪いんだろ?」
「悪いのはプロイセンの頭でしょ。迎えに来てくれたことには感謝してるけど、あんな羞恥プレイ頼んだ覚えはないの」
「それがはるばる迎えに来てやった男への言葉かよ。さっきの『ギルベルトさん』はどうした」
「・・・・・・ありがとうギルベルトさん。じゃあ私、一旦帰るから」





 お世話になりましたと続けベランダに飛び出したをプロイセンは慌てて追いかけた。
一旦帰るのはわかったが、なぜ正規のルートで帰ろうとしない。
飛行機のチケットの手配くらいすぐにしてやれるというのに、そこまで俺に頼りたくないのか。
何よりも、もう少し長居してくれてもいいじゃないか。
せっかく遊びに来てくれたのだ、あちこち回ってデートしたい、楽しみたい。





、今日はヴェストに美味いもん作らせるから!」
「・・・・・・」
「・・・?」
「・・・・・・帰れない、ドイツ国内に閉じ込められちゃった・・・」






 は地面に座り込むと、差し伸べられたプロイセンの手を取ることなく考え込んだ。
なぜ雲の上の実家経由で帰れないのだろう。
知らない間に雲の上経由でもパスポートが必要になってしまったのだろうか。
それともまさか、清らかさなどとうの昔に捨てているような俗っぽい神だから、遂に追放されてしまったのか。
それは困る、非常に困る、横暴だ。
先程までの威勢の良さはどこへやら、急にどんよりと落ち込んだにプロイセンは眉を潜めた。
彼女がここに留まらざるを得ないことはわかったが、これではあまりに可哀そうすぎる。
やはりここは俺が一肌脱いでやるしかない。
プロイセンは落ち込むの肩にぽんと手を置いた。





「飛行機のチケットくらいすぐに俺とヴェストが手配してやるから、今日のとこは泊ってけ」
「・・・のよ・・・・・・」
「は?」
「パスポート持ってないのよ・・・・・・」
「・・・まさか、不法入国か滞在した疑いであそこにいたとか?」
「・・・やっぱ説教覚悟でドイツに頼むべきだった・・・・・・」





 地面にのめり込むのではないかというほどに重い空気を背負っているを、プロイセンは引っ張り上げた。
無理やり立ち上がらせられてもため息ばかりついている彼女を部屋に押し込む。
ソファにもたれぼんやりとしている彼女の前にビールとヴルストを用意し、ようやくプロイセンは相好を崩した。





「まぁ今日くらいは飲め。手は打ってやるから、ヴェストじゃなくて俺を身元引受人にしたことに免じて許してやる」
「どうせ変な見返り要求してくんでしょ・・・」
「日本とこでいつもやってるのをここですればいいっつってんだから、寛大な俺様に感謝しろ」
「いやマジほんとそれだけは勘弁して下さい。何でもするから日本さんコースだけはやめて」
「・・・何されてんだよ、あっちで・・・」





 まぁ、何でもすると向こうから言ったのだから何だってやってもらおう。
デートはが外に出られないため叶わぬ夢となったが、家で帰りを待ってくれている法が結婚しているようで楽しめそうだ。
そうだ、ヴェストから日本の連絡先を聞き、彼女を預かった旨とパスポートについての連絡もしなければならない。
彼女をずっと家に留めるのも大いに魅かれるが、準備を怠ると本当に拘束されかねない。
何やら面倒な作業が多そうだが、好きな女のために奔走し、力になることは嬉しかった。
よし、とりあえず明日はいけ好かない貴族の家に行ってあれを借りてこよう。
フランスから借りてもいいが、彼から借りた物だとこちらの理性が持たない気がする。




「おい、お前何色が好きだ?」
「日の丸の赤かな。ねぇプロイセン、私ヴルストよりもじゃがいも食べたい。あとビールもういい」
「赤だな! よし、もっと食え、飲め!」
「だからビールいらないってば」






 何が楽しいのか、満面の笑みを浮かべてビールを呷りヴルストを口に運ぶプロイセンを眺め、は小さくため息を吐いた。
完全に頼る当てを間違えた。
早くドイツは帰ってきてくれないだろうか。
飲み潰れそうな勢いで杯を重ねる彼を、どうやってベッドまで運べばいいのだろう。





「元軍事大国のなれの果てって哀れよね・・・・・・」





 はソファにばたりと倒れいびきをかき始めたプロイセンに布団をかけると、ぽつりと呟いた。














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