アリアハン 2
リグとライムが城を出て彼らの幼なじみである商人見習いの宿屋の娘、フィルに会いに行こうとしている頃、エルファはその負けず嫌いな少女の前で困惑していた。
いや、困惑を通り越して窮地に陥っていた。
「いいなー、エルファはリグの旅について色んな国に行けるんだから。私には何の誘いも来なかったのにー」
ほとんどエルファに話す隙を与えずにしゃべり続けているのがフィル。
彼女は商人の素質があるのだろうか、リグと同い年の16歳だが大人顔負けの勘の良さと鋭さを持ち合わせていた。
そのため舌戦となるとリグやライム、果ては彼女の両親にまで負けない。
そんな口達者な彼女の前に、どこまでもマイペースで物事に流されやすいお人好しなエルファが太刀打ちできるわけがなかった。
「う、ん・・・。そっか・・・」
このように、彼女が息をしている間に何とか相槌を打つので精一杯である。
それが彼女たちの会話の日常だ。
エルファは、フィルが今回のリグの旅に同行したくて相当彼を困らせているということに気付いていた。
もっともそれは当然叶うはずの願いではなく、そのことをリグも何度も彼女に話して聞かせていた。
それでもフィルが未だに行きたいと言い張る理由は何だろうか。
これはさすがに彼もわからなかった。
ライムとエルファの2人を除いては。
「ねぇエルファ。どうしてリグは私を旅に連れてってくれないと思う? 旅は4人ぐらいでやったっていいんでしょ?
それなら、ライムとエルファを入れても3人。だったら私がその中に入ったって全然問題ないのに」
エルファはアリアハンにやって来てからというものフィルと話すことが多く、歳も近いことがあってか親友と言っても差し支えないほどの仲になっていた。
そして彼女がリグに淡い思いを抱いているということも、エルファはすぐにわかった。
このことをもちろんフィルの口から聞いたことはないが、彼女のリグに対する反応を見ていればすぐにわかることだった。
が、その彼女が密かに思いを抱いているリグは、フィルの想いに気付くこともなく今日旅立ってしまう。
それでもフィルは彼に自分の気持ちを語ろうとはしないようだった。
エルファは、そんな彼女の行動を目にするのがとても辛くなってしまった。
「あぁ・・・、ごめんね、せっかく来てくれて今日の出発の準備もあるだろうにこんなに足止めしちゃって。・・・そうだよね、私がリグの旅について行けるわけがないのよね。
だって私は特に冒険に役立つ呪文が唱えられるわけでもない商人、しかも見習いだもんね。
エルファ、生きて戻ってきてね。早く自分の記憶戻るといいね。ライムとリグにもよろしくって言っといて。じゃあ・・・」
「待って! フィル!!」
こんな別れ方はしてほしくない。
彼女にはもっと素直になってほしい。
万が一、彼の身に不幸があったら、彼女は後悔の念ばかりが積もることになってしまうから。
自分の言葉じゃ彼女の気持ちを変えることは無理かもしれない。
それでも、エルファはこのままの関係に終わってほしくなかった。
リグがフィルのことをただの幼なじみとは思っていないということも充分にわかっていたから尚更そう思った。
同じ幼なじみのライムとは明らかに違う。
だからこそ2人には幸せになってほしかった。
「―――リグに、ちゃんと自分の想いを伝えて。このままじゃフィル、ずっと後悔しちゃうかもしれないよ?
人を好きになるってことはすごく素敵なことだよ。私には確かに記憶がないけど、なくたって好きな人のことはきっと、どこかで覚えているんだと思うし・・・。
・・・私ね、フィルがリグのこと好きだって知ってるよ。だからこそフィルには後悔してほしくないの。
今ならまだリグ、自分の家にいると思う。それに、一度旅に出た以上、私たちがこの地に戻ることはそう頻繁にはないと思うよ」
自分が伝えたかった言葉と、別の意思を持った言葉とが混同していた。
それでも、もう後戻りはできない。
フィルはエルファの言葉を聞いてはっとした。
そして苦笑する。
「やっぱり気付いてたんだね・・・。ありがとう、エルファ。私今からリグに会って自分の気持ち、伝えてくる!」
フィルはエルファに向かってにっこりと笑いかけると、リグの家の方向へと走っていった。